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二章
芹沢清良、1
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「猛、来てたのか!」
「おお、来てたぜ」
「ならなんで、言ってくれなかったんだよ!」
しれっと返答され怒りを覚えた僕は、猛にタックルのフェイントをかけた。それに引っかかった猛は僕を受け止めようと、腰を落とし両足を踏ん張る。その、足を踏ん張り動きが鈍くなった一瞬を突き、僕は素早く後ろへ回り込み猛にヘッドロックを噛ました。コノヤロウ、寂しかったじゃないか!
「ほう、やっぱテメエはマジ素早いぜ。だがな眠留、実はヘッドロックには、大きな弱点があるのだよ」
猛はそう言い、膝を曲げ体を小さくした。必然的に、僕は後ろから猛に覆いかぶさる形になる。すかさず猛は曲げていた膝を伸ばす。すると僕は自動的に、猛におんぶされた状態になってしまった。スゲー、これがいわゆる「腰に乗せる」ってヤツか!
「ヘッドロックの弱点。それは両手が塞がっているため、足が宙に浮いた状態でこうされると・・・」
猛は両手を後ろに回し、僕の脇腹をくすぐりまくる。僕は反射的に逃げようとするも、猛におんぶされている状態では逃げ場などありはしない。僕は足をバタつかせて猛に懇願した。
「ぎゃははは、猛止めてくれ、ぎゃはははは!」
「ふふん、ならばヘッドロックをほどき、背中から降りれば良いではないか」
くすぐったさに耐えかねた僕は言われた通りヘッドロックをほどき、猛の背中からずり落ちた。その一瞬を突き今度は猛が僕の後ろへ回り込み、なんと卍固めを仕掛けてきたのである。ちょっとオイ、卍固めかよ!
「オイお前、こんな大技を隠してたのか!」
「能ある鷹は何とやらってな!」
猛はそう言い放ち、僕をグイグイ締め上げてゆく。その気合いの入りようを訝しんだ僕は、これ以上の抵抗を諦めギブアップする事にした。だがそれを口にする直前、くすくすくすと可憐な、そして限りなく淑やかな声が後ろから降り注いだ。
「猛は本当に、猫将軍君が好きなのね」
「ああコイツは、マジパネェ奴なんだ」
卍固めをほどいた猛は後ろを向き、その声に応える。
それに釣られ、僕も後ろを向く。
するとそこに、クラスメイトの芹沢 清良さんが立っていた。
僕ら一年十組の男子は、他のクラスの男子達から恨みがましい視線をしばしば向けられる。理由は、「学年トップ5の美少女のうち三人が十組に集中しているから」だ。三人のうち二人はもちろん、輝夜さんと昴。そしてもう一人がこちらの、純和風美少女として名高い芹沢清良さんなのである。
「芹沢さん、こんにちは」
「こんにちは、猫将軍君」
客観的に見て、僕は同世代の男子と比べて、ずば抜けた美少女耐性を獲得していると思う。物心つく前から妹に鍛えられ、幼稚園に入園してからは幼馴染みもそれに加わり、湖校入学以降はお隣さんからも猛特訓を受けているのだから、僕ほど美少女に耐性のある男子はそういないはずだ。その僕をして「よく噛まずに挨拶できました」と自分で自分を褒めずにはいられなかったのだから、芹沢清良さんはまこと、類いまれな美少女なのである。
「眠留と最初から最後まで三人一緒にいるのは願い下げだが、ここで偶然会う程度なら、我慢できんでも無いからな」
「こんなこと言っているけど、猛はさっきからキョロキョロし通しだったのよ。『北斗が言うにはそろそろここらに現れるはずなんだがな』って呟いたことも、一度や二度ではなかったくらい。猛は照れ屋だから、許してあげてね」
芹沢さんによると猛は昨夜北斗に電話し、ショッピングモールに僕が現れるであろう時間と場所を教えてもらい、待ち伏せしていたのだと言う。猛を盗み見ると、猛は顔を赤らめそっぽを向き、口笛を吹いていた。そのいじらしさに苦笑するも、いやいや今はそんなことよりと思い直し、猛へ問いかけた。
「なあ猛、ひょっとしてお前、芹沢さんと付き合っているのか?」
「うおっ、お、おお。付き合っているというか、なんと言うか・・・」
古武士のような風格をいつも漂わせている猛が、なんとも可愛いことに、顔面爆発状態でしどろもどろになっている。芹沢さんはそんな猛へ、菖蒲のような微笑みを浮かべた。
「私たちは幼馴染なの。去年の春、親の都合で九州から東京に引っ越してきた私を心配して、こっちにやって来てくれたのよね、幼馴染さん」
「どわ! お、俺は、中長距離の強い湖校陸上部に入りたくて、関東に来ただけであってだなあ・・・」
やり込められ真っ赤になっている猛と、幸せそうに笑みをこぼす芹沢さん。なんてお似合いの二人なのだろうと、僕は心底嬉しくなってしまった。
「そ、そうだ眠留、ここらに落ち着ける場所はないか? 絶叫マシンで絶叫しまくり、しこたま弁当を食ったら、ちょいと休みたくなってな」
しかし猛は自分達が振りまく桃色の空気に耐えられなくなったのか、堰を切ったように問いかけてきた。やれやれと肩をすくめ、僕は答える。
「すぐそこにくつろげる場所がある。案内するよ」
「おお、さすが地元民。待ってた甲斐あったぜ」
「あれ? 偶然会う程度なら我慢できんでもないって、僕さっき聞いたけど」
「グウ。すま~ん、グウの音も出ませ~ん」
「出だしでグウ言ってるじゃないか。しかもなんだそのもの凄い棒読みは」
「あはは。二人はほんと、仲がいいねえ」
なんてワイワイやりながら、僕らは屋上を目指し歩いて行った。
「おお、来てたぜ」
「ならなんで、言ってくれなかったんだよ!」
しれっと返答され怒りを覚えた僕は、猛にタックルのフェイントをかけた。それに引っかかった猛は僕を受け止めようと、腰を落とし両足を踏ん張る。その、足を踏ん張り動きが鈍くなった一瞬を突き、僕は素早く後ろへ回り込み猛にヘッドロックを噛ました。コノヤロウ、寂しかったじゃないか!
「ほう、やっぱテメエはマジ素早いぜ。だがな眠留、実はヘッドロックには、大きな弱点があるのだよ」
猛はそう言い、膝を曲げ体を小さくした。必然的に、僕は後ろから猛に覆いかぶさる形になる。すかさず猛は曲げていた膝を伸ばす。すると僕は自動的に、猛におんぶされた状態になってしまった。スゲー、これがいわゆる「腰に乗せる」ってヤツか!
「ヘッドロックの弱点。それは両手が塞がっているため、足が宙に浮いた状態でこうされると・・・」
猛は両手を後ろに回し、僕の脇腹をくすぐりまくる。僕は反射的に逃げようとするも、猛におんぶされている状態では逃げ場などありはしない。僕は足をバタつかせて猛に懇願した。
「ぎゃははは、猛止めてくれ、ぎゃはははは!」
「ふふん、ならばヘッドロックをほどき、背中から降りれば良いではないか」
くすぐったさに耐えかねた僕は言われた通りヘッドロックをほどき、猛の背中からずり落ちた。その一瞬を突き今度は猛が僕の後ろへ回り込み、なんと卍固めを仕掛けてきたのである。ちょっとオイ、卍固めかよ!
「オイお前、こんな大技を隠してたのか!」
「能ある鷹は何とやらってな!」
猛はそう言い放ち、僕をグイグイ締め上げてゆく。その気合いの入りようを訝しんだ僕は、これ以上の抵抗を諦めギブアップする事にした。だがそれを口にする直前、くすくすくすと可憐な、そして限りなく淑やかな声が後ろから降り注いだ。
「猛は本当に、猫将軍君が好きなのね」
「ああコイツは、マジパネェ奴なんだ」
卍固めをほどいた猛は後ろを向き、その声に応える。
それに釣られ、僕も後ろを向く。
するとそこに、クラスメイトの芹沢 清良さんが立っていた。
僕ら一年十組の男子は、他のクラスの男子達から恨みがましい視線をしばしば向けられる。理由は、「学年トップ5の美少女のうち三人が十組に集中しているから」だ。三人のうち二人はもちろん、輝夜さんと昴。そしてもう一人がこちらの、純和風美少女として名高い芹沢清良さんなのである。
「芹沢さん、こんにちは」
「こんにちは、猫将軍君」
客観的に見て、僕は同世代の男子と比べて、ずば抜けた美少女耐性を獲得していると思う。物心つく前から妹に鍛えられ、幼稚園に入園してからは幼馴染みもそれに加わり、湖校入学以降はお隣さんからも猛特訓を受けているのだから、僕ほど美少女に耐性のある男子はそういないはずだ。その僕をして「よく噛まずに挨拶できました」と自分で自分を褒めずにはいられなかったのだから、芹沢清良さんはまこと、類いまれな美少女なのである。
「眠留と最初から最後まで三人一緒にいるのは願い下げだが、ここで偶然会う程度なら、我慢できんでも無いからな」
「こんなこと言っているけど、猛はさっきからキョロキョロし通しだったのよ。『北斗が言うにはそろそろここらに現れるはずなんだがな』って呟いたことも、一度や二度ではなかったくらい。猛は照れ屋だから、許してあげてね」
芹沢さんによると猛は昨夜北斗に電話し、ショッピングモールに僕が現れるであろう時間と場所を教えてもらい、待ち伏せしていたのだと言う。猛を盗み見ると、猛は顔を赤らめそっぽを向き、口笛を吹いていた。そのいじらしさに苦笑するも、いやいや今はそんなことよりと思い直し、猛へ問いかけた。
「なあ猛、ひょっとしてお前、芹沢さんと付き合っているのか?」
「うおっ、お、おお。付き合っているというか、なんと言うか・・・」
古武士のような風格をいつも漂わせている猛が、なんとも可愛いことに、顔面爆発状態でしどろもどろになっている。芹沢さんはそんな猛へ、菖蒲のような微笑みを浮かべた。
「私たちは幼馴染なの。去年の春、親の都合で九州から東京に引っ越してきた私を心配して、こっちにやって来てくれたのよね、幼馴染さん」
「どわ! お、俺は、中長距離の強い湖校陸上部に入りたくて、関東に来ただけであってだなあ・・・」
やり込められ真っ赤になっている猛と、幸せそうに笑みをこぼす芹沢さん。なんてお似合いの二人なのだろうと、僕は心底嬉しくなってしまった。
「そ、そうだ眠留、ここらに落ち着ける場所はないか? 絶叫マシンで絶叫しまくり、しこたま弁当を食ったら、ちょいと休みたくなってな」
しかし猛は自分達が振りまく桃色の空気に耐えられなくなったのか、堰を切ったように問いかけてきた。やれやれと肩をすくめ、僕は答える。
「すぐそこにくつろげる場所がある。案内するよ」
「おお、さすが地元民。待ってた甲斐あったぜ」
「あれ? 偶然会う程度なら我慢できんでもないって、僕さっき聞いたけど」
「グウ。すま~ん、グウの音も出ませ~ん」
「出だしでグウ言ってるじゃないか。しかもなんだそのもの凄い棒読みは」
「あはは。二人はほんと、仲がいいねえ」
なんてワイワイやりながら、僕らは屋上を目指し歩いて行った。
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