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レイモンドは、陛下より渡された書類に目を通していた。
『婚姻を結べばお前も立派な皇太子だから』と言われて手渡された書類など恐ろしいことこの上ないが、見なければならないことは理解している。
従者に入れてもらった格式高い茶葉の液体を嗜みながらゆっくりと目を動かしていた。
コン、という音が聞こえたか判断する間もなく扉が開かれると、そこにはセスティーナをお姫様抱っこした弟の姿。
状況が掴めないレイモンドは、暫く様子を見ようと開いた口をゆっくりと閉じる。
「兄上大変です。古くより我が城にかけられていた防御膜が無くなりました」
「ああ、やはりそこにアルバートが居ることは現実だったか。それにしても防御膜が無くなったとは、どういう事だ?」
防御膜。
それは昔、まだ魔法が存在していた頃の話だ。
最後の魔法使いは力を振り絞り、その魔法尽きるまで王城に防御膜を張った。
防御膜は経済が傾いていた国を戦火より護り、他国から攻め入られても負けることはなかった、という。
つまりは、弱っている時にも護ってくれた魔法が潰えたという報告だった。
以前よりは活気が出てきたとはいえ、その膜によって他国から守られてきたという気持ちが強い皇族の2人は、焦っている様子である。
「まぁ、今日でしたの……あ」
「ん?」
抱き上げられたままのセスティーナが零した言葉は、まるで膜が壊れることを把握している様だった。
皇族の2人もは同じように眉を顰め、セスティーナを見つめた。
「何故お前が膜の事を知っている」
「防御膜?ですか。普通は知らないのですか?」
「ええ、知る者は少ないはずですよ。皇族と、重鎮に控えている者達だけが知っている情報なのですから」
「あら、そうなのですか」
国の中では地位の高い2人に見つめられ、問い詰められているとは思えないほど、セスティーナは普通だった。自分たちは今、お茶会の場で日常的な会話をしていると錯覚するほどに、セスティーナの顔色は変わらなかったのである。
「セスティーナ嬢は何を知っているのだ」
「わたくしは防御膜については何も知りませんわ」
「ほう?白を切るつもりか」
「待て待て、何故そんな好戦的なんだ二人とも……」
レイモンドは今の状況から打破する術を持ち合わせていないと感じていた。そもそも防御膜のない時代を過ごしたことの無いレイモンドにとって、今の状況で王位を継ぐなど考えたくも無い。
今でも仕事は飽和状態なのに、これ以上増えたら大幅な人員増員をしなければ賄えないだろう。
ただでさえギリギリ余裕が出てきただけであるのに、人員を増やせばまた予算はマイナスだ。
「はぁ……我が妻になる人物には苦労をかけたく無かったのにな」
「あら、レイモンド殿下。側に置きたい方はそんな脆弱な方なのですか?」
「セスティーナ、私が言い出した事だが、あまり弟を刺激しないでほしい」
「刺激?」
まだ抱き抱えられたままだったセスティーナは、ドサリと長椅子に投げ出され、上から睨みつけられた。
「貴様、兄上に取り入ろうとしても無駄だぞ」
「あらまぁ」
「アルバート控えろ。彼女は陛下の客だ」
「知っておりますよ、兄上」
「なるほどな……」
セスティーナはキョトンとした表情でアルバートを見つめていた。どうやら自分は敵とみなされているらしい。
「まぁ、兄弟愛もここまで来ると暑苦しい……ですわね」
「もう取り繕うことを諦めたんだね、セスティーナ」
「ふふ、だってわたくし……アルバート様に一目惚れしてしまって」
「「……は?」」
「ふふふ、だって、将来を共にする方には、是非本当の自分を知っていただかないとでしょう?だから取り繕うことをやめましたの」
頬を染めたセスティーナは投げ出された格好のまま瞳を潤ませてアルバートを見つめ上げた。
キラキラをした視線を浴びたアルバートはビクリと肩を震わせると、一歩後退りをする。
「懐柔を試みても俺には効かないぞ……」
「そんな、懐柔だなんて!ただ見つめたくて見ていただけなのに!」
「うっ、そんな目で見るな。あ、兄上!」
「……」
レイモンドは一回考えることを止めて、手元に持っていた者類を机の上で整えた。
そういえば防護膜の話をしていたはずが気になる事が立て続けに起きすぎて逸れていた。
「セスティーナ、防護膜について伝えに来たのかな?」
「あらあら、そうでしたわ」
特に助かる意図は無かったが、結果的に助かる事になった状況にアルバートからは『流石兄上だ』という視線が向けられている。
修正をしようかと口を開いたが、声に出すことはできなかった。
何故なら、セスティーナがゆっくりと立ち上がり、人とは思えぬ清らかな笑顔を向けてきたからである。
「我が国の太陽である皇帝殿下、わたくしセスティーナ・ハイトランデは、この国の『国宝』として貴方様の糧となりに参りました。是非わたくしを良きにお使いくださいませ」
『婚姻を結べばお前も立派な皇太子だから』と言われて手渡された書類など恐ろしいことこの上ないが、見なければならないことは理解している。
従者に入れてもらった格式高い茶葉の液体を嗜みながらゆっくりと目を動かしていた。
コン、という音が聞こえたか判断する間もなく扉が開かれると、そこにはセスティーナをお姫様抱っこした弟の姿。
状況が掴めないレイモンドは、暫く様子を見ようと開いた口をゆっくりと閉じる。
「兄上大変です。古くより我が城にかけられていた防御膜が無くなりました」
「ああ、やはりそこにアルバートが居ることは現実だったか。それにしても防御膜が無くなったとは、どういう事だ?」
防御膜。
それは昔、まだ魔法が存在していた頃の話だ。
最後の魔法使いは力を振り絞り、その魔法尽きるまで王城に防御膜を張った。
防御膜は経済が傾いていた国を戦火より護り、他国から攻め入られても負けることはなかった、という。
つまりは、弱っている時にも護ってくれた魔法が潰えたという報告だった。
以前よりは活気が出てきたとはいえ、その膜によって他国から守られてきたという気持ちが強い皇族の2人は、焦っている様子である。
「まぁ、今日でしたの……あ」
「ん?」
抱き上げられたままのセスティーナが零した言葉は、まるで膜が壊れることを把握している様だった。
皇族の2人もは同じように眉を顰め、セスティーナを見つめた。
「何故お前が膜の事を知っている」
「防御膜?ですか。普通は知らないのですか?」
「ええ、知る者は少ないはずですよ。皇族と、重鎮に控えている者達だけが知っている情報なのですから」
「あら、そうなのですか」
国の中では地位の高い2人に見つめられ、問い詰められているとは思えないほど、セスティーナは普通だった。自分たちは今、お茶会の場で日常的な会話をしていると錯覚するほどに、セスティーナの顔色は変わらなかったのである。
「セスティーナ嬢は何を知っているのだ」
「わたくしは防御膜については何も知りませんわ」
「ほう?白を切るつもりか」
「待て待て、何故そんな好戦的なんだ二人とも……」
レイモンドは今の状況から打破する術を持ち合わせていないと感じていた。そもそも防御膜のない時代を過ごしたことの無いレイモンドにとって、今の状況で王位を継ぐなど考えたくも無い。
今でも仕事は飽和状態なのに、これ以上増えたら大幅な人員増員をしなければ賄えないだろう。
ただでさえギリギリ余裕が出てきただけであるのに、人員を増やせばまた予算はマイナスだ。
「はぁ……我が妻になる人物には苦労をかけたく無かったのにな」
「あら、レイモンド殿下。側に置きたい方はそんな脆弱な方なのですか?」
「セスティーナ、私が言い出した事だが、あまり弟を刺激しないでほしい」
「刺激?」
まだ抱き抱えられたままだったセスティーナは、ドサリと長椅子に投げ出され、上から睨みつけられた。
「貴様、兄上に取り入ろうとしても無駄だぞ」
「あらまぁ」
「アルバート控えろ。彼女は陛下の客だ」
「知っておりますよ、兄上」
「なるほどな……」
セスティーナはキョトンとした表情でアルバートを見つめていた。どうやら自分は敵とみなされているらしい。
「まぁ、兄弟愛もここまで来ると暑苦しい……ですわね」
「もう取り繕うことを諦めたんだね、セスティーナ」
「ふふ、だってわたくし……アルバート様に一目惚れしてしまって」
「「……は?」」
「ふふふ、だって、将来を共にする方には、是非本当の自分を知っていただかないとでしょう?だから取り繕うことをやめましたの」
頬を染めたセスティーナは投げ出された格好のまま瞳を潤ませてアルバートを見つめ上げた。
キラキラをした視線を浴びたアルバートはビクリと肩を震わせると、一歩後退りをする。
「懐柔を試みても俺には効かないぞ……」
「そんな、懐柔だなんて!ただ見つめたくて見ていただけなのに!」
「うっ、そんな目で見るな。あ、兄上!」
「……」
レイモンドは一回考えることを止めて、手元に持っていた者類を机の上で整えた。
そういえば防護膜の話をしていたはずが気になる事が立て続けに起きすぎて逸れていた。
「セスティーナ、防護膜について伝えに来たのかな?」
「あらあら、そうでしたわ」
特に助かる意図は無かったが、結果的に助かる事になった状況にアルバートからは『流石兄上だ』という視線が向けられている。
修正をしようかと口を開いたが、声に出すことはできなかった。
何故なら、セスティーナがゆっくりと立ち上がり、人とは思えぬ清らかな笑顔を向けてきたからである。
「我が国の太陽である皇帝殿下、わたくしセスティーナ・ハイトランデは、この国の『国宝』として貴方様の糧となりに参りました。是非わたくしを良きにお使いくださいませ」
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