『忘れられた公爵家』の令嬢がその美貌を存分に発揮した3ヶ月

りょう。

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「我が国の太陽である皇帝陛下にご挨拶申し上げます。わたくしは、ハイトランデ公爵家より参りました、セスティーナ・ハイトランデと申します。本日は招待に預かり光栄でございます」


その姿は、まるで天使が舞い降りたのかと思うほど美しかった。
輝くプラチナの髪を流れるように腰まで垂らし、アメジストの瞳にスッと通る鼻筋、ふっくらと赤く色づく唇は、小さい顔にまるで造形かのように配置されている。

緩やかに動く腕は細く、大きく膨らみのある胸とは対照的に細い腰は、腰までピッタリと覆うドレスに美しく収まっていた。
腰を折って礼を取る姿はとても洗礼されており、今までこの場所に出たことがない事実に誰もが驚いたことだろう。



彼女こそ、この国唯一の公爵家であるハイトランデ公爵家、別名『忘れられた公爵家』の長女セスティーナである。
その姿は隠された宝石と言われて誰もが無意識に頷いてしまうほどに美麗。

周りに仕えていた騎士や、令息たちはもちろん、今まで美しいと評されていた令嬢達も嫉妬よりも前にその姿に目を奪われ呆然と立ち尽くしていた。
ハタと我に返ったアルハイデ侯爵家の娘が自分の挨拶をするまで、その場は時間が止まったように全員がセスティーナに目を向けていたのだった。


「わ、我が国の太陽である皇帝陛下へご挨拶申し上げます。アルハイデ公爵家より参りました、ナ、ナナリィ・アルハイデと申します。本日は招待に預かり光栄でございます」


これまで一度も噛んだことがない慣れた挨拶を、ナナリィは必死に口に出していた。感じたことのない焦燥する気持ちを抑え震える足で取った礼は、デビュタントの時よりもであったらと心のどこかで祈ったほどだ。

その後に続いた令嬢達も、どこかぎこちない礼を取り全員の挨拶が終わると、最後に王座に座る陛下は深く頷いてコホンと一つ咳き込みをした後に言葉を発した。

「此度、我が息子の花嫁候補として集まったこと、皆に感謝する。是非とも我が息子の心を掴み、後に国を支える皇后になってもらいたい」


今回、今まで一度も表に出てきたことが無かったセスティーナがこの場で挨拶している理由がここにあった。
王位継承位第一位 レイモンド・ライヤファンド殿下の花嫁を決めるため、この国の貴族達全員に王命が下ったのだ。


『この国の爵位を持つ家の14より上の歳の娘が居る家は、1人以上期日までに王都へ連れてこい』というような内容が書かれたその文は、今から半年ほど前にそれぞれの家に配られていた。
例外は病気や怪我で1人で立ち上がることができないこと。


いくら借金があろうと、馬車は用意するしドレスも貸し出す、王都への滞在期間の生活費は国が支給するとあって、身辺調査も入った状態でどの家も断る事はできなかった事だろう。
いや、むしろ、断る家など国の中ではハイトランデ家を除いて居なかったと言っていい。


こんな良条件で王都に滞在できるとあって、最高の目玉である殿下の嫁という商品以外にも、名家の嫁、金持ちが集まる場での特産品の交渉、王城勤務の座などを狙った各家はこの日のために準備を欠かさなかった。
王命が下った翌日から連日、王都には馬車が並び、街は人で溢れかえったのは言うまでもない。

これによる経済効果は、すべての貴族達の馬車の手配や生活費を充てる以上の効果をもたらしたことだろう。
今回の優勝賞品である第一殿下は、この効果を自らの国のために大いに活用して貴族達から称賛されていたのだった。




そんな話題の中心に居たはずのレイモンド・ライヤファンドは、「もしかして私はただの囮にされただけなのではないか」と王座で笑顔を振り撒きながらも頭では考えを巡らせていた。
経済効果に関しての囮ではない。寧ろこの提案をして経済効果が出資を上回ると調べをつけたのはレイモンドである。
自分の提案に対して大層乗り気で応えてきた陛下に違和感を覚えていた訳だが、そこに対しての答えが分かったような気がしたのだ。


セスティーナ・ハイトランデ。
恐らく陛下は、彼女を一眼見たいと考えていたのだ。


レイモンドは思った。
確かに、彼女は人生で一度は見て損はない。
なんだろうか恐ろしいほどのあの美しさは。
ある一定以上の美しさを持った自分が、息を呑むほどの美しい人に出会って言葉を失う体験など全く想定していなかった。


王座の前に集められていた令嬢達は、既に陛下の言葉で解散して、それぞれで固まって談笑している。
そして、今まで壁に貼り付けられていた令息たちもここぞとばかりに開場の中心に足を伸ばしていた。


その誰もが、チラチラと伺うその先に、例の令嬢の姿。
彼女は料理の前で何を食べようか悩んでいる様子だった。


レイモンドは、誰も話しかけられないその様子に苦笑しながら王座を降りて彼女の前に立ったのだった。


「はじめまして、ハイトランデ嬢。私はレイモンド・ライヤファンドと申します」
「まぁ……我が国の太陽である皇帝殿下にご挨拶申し上げます。セスティーナ・ハイトランデでございます。まさか殿下から話しかけていただけるとは思わず、驚いてしまいましたわ」


恥ずかしそうにふわりと笑ったその表情で、レイモンドの心に何かがと入って来ることが分かった。
はじめて人に飲み込まれそうだと感じたレイモンドは、何と話そうかと彼女の様子を伺うことにした。


「飲み物は必要ではありませんか」
「では、アルコールではない物を」


歩くメイドを呼び止めてノンアルコールの果実水を渡すと、セスティーナは嬉しそうに「ありがとうございます」と言う。


「ふふ、殿下とこんなに近くで話すことが出来るなど、本当に光栄ですわ。素敵なパーティーを開いてくださってありがとうございます」
「いや、こちらこそ来てくれて嬉しく思いますよ。こんな美しい方と話せる機会などありませんから」
「まぁ!お上手なのですね。他の女性にも仰っているのではありませんか?」
「……」


レイモンドは少しだけ口を閉じた。
確かに、他の女性にもこの台詞は良く使う。だが、ここまで本心でこの台詞を伝えたい女性は後にも先にも彼女だけだろう。

見つめてくる彼女にニコリと微笑むと空いている手を取り、自分の口元に寄せた。


「本心で思っているのに、酷いお方だ」


目をパチクリとさせたセスティーナは、少しだけ頬を染めると、何かをボソリと呟く。

「え?」
「あ、いいえ、ふふ。とても嬉しいですわ。そのお言葉、ありがたく頂戴いたします」
「では、はじめて出会った記念として……貴女と踊る光栄を私にいただけますか?」
「ええ、喜んで」


その踊りはあまりにも美しく、誰もが一度踊りが終わるまで見つめ続けてしまった。と、語り継がれるほどだった。
セスティーナとダンスを踊る殿下も、今までは国随一の美と評されるほどと美貌を持っている人物なのだ。
煌めく黄金色の髪に鮮やかなサファイヤの様な瞳、そして女性なら誰でも色めく甘いマスク。
身長も高いため、彼とのダンスはどの令嬢と踊っても枠に嵌ると高評で、色々な令嬢と踊るたびレイモンドは自分を見上げて嬉しそうな顔をする彼女達を可愛いと思ってきていた。

しかし、今回ばかりはそんな余裕はない。

自分はこの神々しさに溶けはしないかと心配になりつつも、いつも通り平然と微笑みを浮かべる仕事はあまりにも苦痛であった。

「とても美味しい料理が出るレストランがあるのです」
「はい」
「招待しても?」
「まぁ、嬉しいですわ。良いのですか?」
「ええ、では急ぎ手配させましょう。また追って連絡しますね」
「ふふ、お待ちしておりますわ」


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