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ナナリィ・アルハイデは先程から心の中がソワソワと落ち着かなかった。
表面上はいつも通りにこやかに令嬢達と話をしているが、心の目はずっとセスティーナ・ハイトランデに向いているのだ。
ナナリィは、セスティーナが居なければ、この国の貴族の中で一番位が高い侯爵家の人間である。
今まではその位にも吸い寄せられる令嬢達に煽てられながら楽しくすごしていたが、今日は状況が全く違う。
それは公爵家のセスティーナが居る以外に他ならない。
周りの令嬢達もそうなのだろう。いつもより身にならない話をぐるぐるとただ話し続けている。
そんな中、意を決した1人の令嬢が「セスティーナ様に話しかけに行かないか」と提案をしてきた。
ナナリィはゴクリと唾を飲んだ。
「ま、まぁ、確かに。パーティーに慣れていないご様子ですもの。わたくし達で教えて差し上げなくてはなりませんわね」
「ええ、そうですわ。きっと寂しくされて……」
チラリと皆がセスティーナを見てみると、1人で楽しそうに食事を取るセスティーナの姿があった。
美味しい食べ物でも口に入れたのか、その緩んだ顔に皆はそれぞれで頬を染める。
「さ、寂しいと思われているかもしれませんし」
「そ、そうですわね。下手な令息たちに絡まれ……」
ふと、令嬢達が横を見ると、同じように様子をただ伺うだけの令息達の姿があった。
先ほどの殿下とのダンスにより、より話しかけにくい状態に陥っているらしい。
彼らも楽しそうに食事をする彼女の姿に心を奪われているようだ。
「か、絡まれてからでは遅いですわ」
「そうですわ、ね!ナナリィ様!」
「う……。え、ええ」
ナナリィは困っていた。
既に同じ侯爵家に婚約者が居る自分にとって、今回の集まりは実に茶番だと思って気軽にパーティーに参加していたのだ。
今の自分の戦闘力はかなり低い。
そもそも特に美人でもない自分にあるものは、侯爵家の家柄とその資金で用意するドレスやアクセサリーだけだ。
それに、地で戦闘力が異常に高い彼女に話しかけるなんて、光に当てられた自分はきっと灰になってしまうと思った。
だが、侯爵家の自分が彼女達を連れて行かなばならない事も把握しているのだった。
「で、では。行って参りますわ」
「ナナリィ様お気をつけて!」
令嬢達は固唾を飲んで彼女の後ろ姿を見送った。
「ハ、ハイトランデ様」
「はい?」
「わ、わたくしは、ナナリィ・アルハイデと申します」
「あら、アルハイデ侯爵様の御令嬢ですわね?はじめまして。セスティーナ・ハイトランデです。話しかけていただけるなんて嬉しいですわ」
とても嬉しそうに目を細めたセスティーナを、ナナリィはただ見つめた。
自己紹介をして、そそくさと他の令嬢達まで案内するだけに努めようとしていた予定は儚く散り失せたためだ。
(ああ、死んだわ。今私は光に当てられて灰になったのだわ)
笑顔にあてられ、動かなくなったナナリィに戸惑いを隠さずにセスティーナは声をかける。
「アルハイデ様?あ、あの……」
「はっ!あ、あの。今日見た時から美しいと思っていて、是非一緒にお話を、したくて。いえ、こんな事が言いたいのではなく、あの。つまりはその」
「わたくしとお友達になってくださるのですか?」
思わず考えていた事が口から飛び出して、自分が何を言っているのか分からなくなったナナリィにセスティーナから告げられた言葉は、純粋な好意だった。
キラキラと輝く瞳に吸い寄せられそうになったナナリィにその言葉はギリギリ届いていた様だ。
(オトモダチ?もしかしてお友達のことかしら。しかもとても嬉しそうだわ。むしろ嬉しいのは私の方で、これは現実かしら。バチが当たるのでは)
「やはり、初対面で友達なんて嫌……」
「いえ!謹んで、よろしくお願いします!!」
「まぁ!嬉しいわ!では是非、私のことはセスティーナと呼んでくださいな」
「では私の事はナナリィと……」
「はい、ナナリィ」
(あ、なんて美しい顔。頬を薔薇のように染めて僅かに潤んだ瞳は宝石のようだわ。肌も陶器のように白くきめ細やかで本当に造形みたい。握られる手も柔らかくて本当に同じ人間なのかしら)
ナナリィはその後ふわふわとした気持ちで令嬢達の集まりに戻ると、セスティーナを紹介して彼女を席につかせる事に成功した。
その集まりに、勇気を出した令息達がちらほら集まり、その日その場ににはたくさんの令嬢と令息たちがごったがえす事となったのだった。
表面上はいつも通りにこやかに令嬢達と話をしているが、心の目はずっとセスティーナ・ハイトランデに向いているのだ。
ナナリィは、セスティーナが居なければ、この国の貴族の中で一番位が高い侯爵家の人間である。
今まではその位にも吸い寄せられる令嬢達に煽てられながら楽しくすごしていたが、今日は状況が全く違う。
それは公爵家のセスティーナが居る以外に他ならない。
周りの令嬢達もそうなのだろう。いつもより身にならない話をぐるぐるとただ話し続けている。
そんな中、意を決した1人の令嬢が「セスティーナ様に話しかけに行かないか」と提案をしてきた。
ナナリィはゴクリと唾を飲んだ。
「ま、まぁ、確かに。パーティーに慣れていないご様子ですもの。わたくし達で教えて差し上げなくてはなりませんわね」
「ええ、そうですわ。きっと寂しくされて……」
チラリと皆がセスティーナを見てみると、1人で楽しそうに食事を取るセスティーナの姿があった。
美味しい食べ物でも口に入れたのか、その緩んだ顔に皆はそれぞれで頬を染める。
「さ、寂しいと思われているかもしれませんし」
「そ、そうですわね。下手な令息たちに絡まれ……」
ふと、令嬢達が横を見ると、同じように様子をただ伺うだけの令息達の姿があった。
先ほどの殿下とのダンスにより、より話しかけにくい状態に陥っているらしい。
彼らも楽しそうに食事をする彼女の姿に心を奪われているようだ。
「か、絡まれてからでは遅いですわ」
「そうですわ、ね!ナナリィ様!」
「う……。え、ええ」
ナナリィは困っていた。
既に同じ侯爵家に婚約者が居る自分にとって、今回の集まりは実に茶番だと思って気軽にパーティーに参加していたのだ。
今の自分の戦闘力はかなり低い。
そもそも特に美人でもない自分にあるものは、侯爵家の家柄とその資金で用意するドレスやアクセサリーだけだ。
それに、地で戦闘力が異常に高い彼女に話しかけるなんて、光に当てられた自分はきっと灰になってしまうと思った。
だが、侯爵家の自分が彼女達を連れて行かなばならない事も把握しているのだった。
「で、では。行って参りますわ」
「ナナリィ様お気をつけて!」
令嬢達は固唾を飲んで彼女の後ろ姿を見送った。
「ハ、ハイトランデ様」
「はい?」
「わ、わたくしは、ナナリィ・アルハイデと申します」
「あら、アルハイデ侯爵様の御令嬢ですわね?はじめまして。セスティーナ・ハイトランデです。話しかけていただけるなんて嬉しいですわ」
とても嬉しそうに目を細めたセスティーナを、ナナリィはただ見つめた。
自己紹介をして、そそくさと他の令嬢達まで案内するだけに努めようとしていた予定は儚く散り失せたためだ。
(ああ、死んだわ。今私は光に当てられて灰になったのだわ)
笑顔にあてられ、動かなくなったナナリィに戸惑いを隠さずにセスティーナは声をかける。
「アルハイデ様?あ、あの……」
「はっ!あ、あの。今日見た時から美しいと思っていて、是非一緒にお話を、したくて。いえ、こんな事が言いたいのではなく、あの。つまりはその」
「わたくしとお友達になってくださるのですか?」
思わず考えていた事が口から飛び出して、自分が何を言っているのか分からなくなったナナリィにセスティーナから告げられた言葉は、純粋な好意だった。
キラキラと輝く瞳に吸い寄せられそうになったナナリィにその言葉はギリギリ届いていた様だ。
(オトモダチ?もしかしてお友達のことかしら。しかもとても嬉しそうだわ。むしろ嬉しいのは私の方で、これは現実かしら。バチが当たるのでは)
「やはり、初対面で友達なんて嫌……」
「いえ!謹んで、よろしくお願いします!!」
「まぁ!嬉しいわ!では是非、私のことはセスティーナと呼んでくださいな」
「では私の事はナナリィと……」
「はい、ナナリィ」
(あ、なんて美しい顔。頬を薔薇のように染めて僅かに潤んだ瞳は宝石のようだわ。肌も陶器のように白くきめ細やかで本当に造形みたい。握られる手も柔らかくて本当に同じ人間なのかしら)
ナナリィはその後ふわふわとした気持ちで令嬢達の集まりに戻ると、セスティーナを紹介して彼女を席につかせる事に成功した。
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