149 / 190
#149 菜箸の完成
しおりを挟む
壱とサユリはフジノと別れると、木製工房に立ち寄る。
「こんにちは!」
元気に声を掛けると、ロビンが威勢良く返事をしてくれた。
「おう、菜箸ってやつだな! 出来てるぜ!」
そう言うと、棚から出来上がった新品の菜箸3膳を出してくれた。
「わぁ!」
早速2本、1膳を持ってみる。何かを挟む様に動かして。その使い心地は素晴らしいものだった。
「完璧ですロビンさん! ありがとうございます!」
「お、そうか! そいつぁ良かった! じゃ、色塗るか?」
「はい。よろしくお願いします」
ロビンは頷くとはまた棚に向かう。
「何色にするんだ?」
「そうですね……、箸が黒と緑だから、菜箸は明るい色が良いかな」
「じゃあまずは赤だな。黄色と、白と、んー、後は混ぜて色作る感じか?」
「あ、じゃあ1セットは何も塗らないままにします。赤と黄色貸してください」
「おう」
ロビンが顔料の容器と小さい平筆を2本、持って来てくれる。
「ありがとうございます」
壱は早速平筆を手にすると、まずは1セットの持ち手部分に赤のラインを、続けて平筆を変えて、黄色をもう1セットに。
少しは慣れたのか、箸の時より速やかに、綺麗に出来た気がする。
残りの1セットは何も塗らずにそのままで。
これで3セットの菜箸、完成である。
「出来たっ」
「おう、良かったな!」
壱が小さく歓声を上げると、ロビンも一緒に喜んでくれた。
「ありがとうございました!」
そう言い小さく頭を下げると、ロビンは得意げにハッハッハッと笑った。
「良いって事よ! また何かあったらいつでも来な!」
「はい。頼りにしてます」
壱が笑顔で言うと、ロビンはまた笑い声を上げた。
食堂に戻り2階に上がると、ダイニングで紅茶を飲んでいた茂造に呼び止められる。
「壱よ、そろそろカルとミルの結婚パーティの料理の打ち合わせをしたいんじゃよ」
「あ、そっか。もうすぐだもんね」
壱は自分の珈琲を用意しながら、サユリに声を掛ける。
「サユリは何飲む?」
「ミルクを頼むカピ」
サユリは応えながら、颯爽とテーブルの上に。
「解った。取って来るから待ってて」
珈琲粉を蒸らしている間に、サラダボウルを手に厨房へ降りる。ミルクを入れてまた上がり、サユリの前に。
「前に言ってたパーティ料理考えてみたんだ。メモしてるの取って来るからちょっと待ってて」
壱は珈琲を煎れるとテーブルに置いて、部屋へと戻る。デスクの引き出しに入れておいたメモを出し、再びダイニングに。椅子に掛け、まずは適温になったであろう珈琲を一口。
メモを茂造に差し出す。
「どうかな。そんな難しいものは無い筈だから、カリルもサントも、勿論じいちゃんも、作り方さえ知れば問題無く作れると思うんだけど」
「ほうほう」
茂造がメモを見ながら頷く。
ローストポーク、牛肉の赤ワイン煮込み、蒸し鶏のサラダ、鮭のムニエル、鯛のアクアパッツァ、ツナときゃべつのペペロンチーノ。
そして村の人たちに試食して欲しい鰹のたたき。藁焼きで提供する予定だ。
以前は鰹をオイル煮にしてツナと言ったが、本来ツナは鮪で作るものである。鮪が英語でツナなのだ。
とりあえずオイル煮にした魚はツナと言う事にしておこう。訂正などは機会があればで良いだろう。
「ローストポークとワイン煮込み、蒸し鶏とアクアパッツァは、仕掛けたら放っておけるから、その間に他のものを作れるよ。鰹のたたきはお試しだから1尾分で充分だろうし、先に作っておいたら良いしね。冷ましたいから丁度良いよ。どうかな」
「ふむふむ。良いのじゃないかの。ほうほう、いろいろな料理が、まだまだこの村で作れるんじゃな。これは嬉しいのう」
茂造が頬を綻ばせながら、嬉しそうに言う。
「じゃあレシピを作るね。じいちゃん悪いんだけど、それをカリルとサント用にこの世界の文字で書き直してもらって良いかな」
「判ったぞい。しかしの、初めて作る料理じゃからの、一度作っておいた方が良いかも知れんの」
茂造はそう言いながら首を捻る。
「じゃあ夜の賄いで作ってみる? でも、本当にそんな難しいのは無いんだよ。じいちゃんたちのスキルがあれば充分だと思うよ」
派手に見えそうで、そう手間の掛からないものばかりを選んだつもりだ。
「そ、そうかのう? うむ、賄いでするにしても、下手をしたら食材が勿体無い事になりそうじゃしのう、量の加減がのう……うむ、では当日の調理時間を少し早めるかの。そしたら少し手間取っても大丈夫じゃの」
やや興奮気味に言う茂造に、壱は安心させる様に笑みを寄越した。
「本当に大丈夫だって。じゃあレシピは今夜にでも作るよ。それで判断してもらったら良いかな」
「そうじゃの。そうさせて貰おうかの」
茂造は安心した様に、何度も頷いた。
「あ、じいちゃん、昨日のマルタさんの件だけどね」
壱は先程フジノから聞いた事、そして出来事を掻い摘んで報告した。
「ほお、そうか。無事に解決したかの。良かった良かった。壱、サユリさん、ありがとうのう」
安堵した様に笑顔を浮かべる茂造に、サユリは得意げに鼻を鳴らし、壱は笑みを浮かべて頷いた。
「こんにちは!」
元気に声を掛けると、ロビンが威勢良く返事をしてくれた。
「おう、菜箸ってやつだな! 出来てるぜ!」
そう言うと、棚から出来上がった新品の菜箸3膳を出してくれた。
「わぁ!」
早速2本、1膳を持ってみる。何かを挟む様に動かして。その使い心地は素晴らしいものだった。
「完璧ですロビンさん! ありがとうございます!」
「お、そうか! そいつぁ良かった! じゃ、色塗るか?」
「はい。よろしくお願いします」
ロビンは頷くとはまた棚に向かう。
「何色にするんだ?」
「そうですね……、箸が黒と緑だから、菜箸は明るい色が良いかな」
「じゃあまずは赤だな。黄色と、白と、んー、後は混ぜて色作る感じか?」
「あ、じゃあ1セットは何も塗らないままにします。赤と黄色貸してください」
「おう」
ロビンが顔料の容器と小さい平筆を2本、持って来てくれる。
「ありがとうございます」
壱は早速平筆を手にすると、まずは1セットの持ち手部分に赤のラインを、続けて平筆を変えて、黄色をもう1セットに。
少しは慣れたのか、箸の時より速やかに、綺麗に出来た気がする。
残りの1セットは何も塗らずにそのままで。
これで3セットの菜箸、完成である。
「出来たっ」
「おう、良かったな!」
壱が小さく歓声を上げると、ロビンも一緒に喜んでくれた。
「ありがとうございました!」
そう言い小さく頭を下げると、ロビンは得意げにハッハッハッと笑った。
「良いって事よ! また何かあったらいつでも来な!」
「はい。頼りにしてます」
壱が笑顔で言うと、ロビンはまた笑い声を上げた。
食堂に戻り2階に上がると、ダイニングで紅茶を飲んでいた茂造に呼び止められる。
「壱よ、そろそろカルとミルの結婚パーティの料理の打ち合わせをしたいんじゃよ」
「あ、そっか。もうすぐだもんね」
壱は自分の珈琲を用意しながら、サユリに声を掛ける。
「サユリは何飲む?」
「ミルクを頼むカピ」
サユリは応えながら、颯爽とテーブルの上に。
「解った。取って来るから待ってて」
珈琲粉を蒸らしている間に、サラダボウルを手に厨房へ降りる。ミルクを入れてまた上がり、サユリの前に。
「前に言ってたパーティ料理考えてみたんだ。メモしてるの取って来るからちょっと待ってて」
壱は珈琲を煎れるとテーブルに置いて、部屋へと戻る。デスクの引き出しに入れておいたメモを出し、再びダイニングに。椅子に掛け、まずは適温になったであろう珈琲を一口。
メモを茂造に差し出す。
「どうかな。そんな難しいものは無い筈だから、カリルもサントも、勿論じいちゃんも、作り方さえ知れば問題無く作れると思うんだけど」
「ほうほう」
茂造がメモを見ながら頷く。
ローストポーク、牛肉の赤ワイン煮込み、蒸し鶏のサラダ、鮭のムニエル、鯛のアクアパッツァ、ツナときゃべつのペペロンチーノ。
そして村の人たちに試食して欲しい鰹のたたき。藁焼きで提供する予定だ。
以前は鰹をオイル煮にしてツナと言ったが、本来ツナは鮪で作るものである。鮪が英語でツナなのだ。
とりあえずオイル煮にした魚はツナと言う事にしておこう。訂正などは機会があればで良いだろう。
「ローストポークとワイン煮込み、蒸し鶏とアクアパッツァは、仕掛けたら放っておけるから、その間に他のものを作れるよ。鰹のたたきはお試しだから1尾分で充分だろうし、先に作っておいたら良いしね。冷ましたいから丁度良いよ。どうかな」
「ふむふむ。良いのじゃないかの。ほうほう、いろいろな料理が、まだまだこの村で作れるんじゃな。これは嬉しいのう」
茂造が頬を綻ばせながら、嬉しそうに言う。
「じゃあレシピを作るね。じいちゃん悪いんだけど、それをカリルとサント用にこの世界の文字で書き直してもらって良いかな」
「判ったぞい。しかしの、初めて作る料理じゃからの、一度作っておいた方が良いかも知れんの」
茂造はそう言いながら首を捻る。
「じゃあ夜の賄いで作ってみる? でも、本当にそんな難しいのは無いんだよ。じいちゃんたちのスキルがあれば充分だと思うよ」
派手に見えそうで、そう手間の掛からないものばかりを選んだつもりだ。
「そ、そうかのう? うむ、賄いでするにしても、下手をしたら食材が勿体無い事になりそうじゃしのう、量の加減がのう……うむ、では当日の調理時間を少し早めるかの。そしたら少し手間取っても大丈夫じゃの」
やや興奮気味に言う茂造に、壱は安心させる様に笑みを寄越した。
「本当に大丈夫だって。じゃあレシピは今夜にでも作るよ。それで判断してもらったら良いかな」
「そうじゃの。そうさせて貰おうかの」
茂造は安心した様に、何度も頷いた。
「あ、じいちゃん、昨日のマルタさんの件だけどね」
壱は先程フジノから聞いた事、そして出来事を掻い摘んで報告した。
「ほお、そうか。無事に解決したかの。良かった良かった。壱、サユリさん、ありがとうのう」
安堵した様に笑顔を浮かべる茂造に、サユリは得意げに鼻を鳴らし、壱は笑みを浮かべて頷いた。
11
あなたにおすすめの小説
目立ちたくない召喚勇者の、スローライフな(こっそり)恩返し
gari@七柚カリン
ファンタジー
突然、異世界の村に転移したカズキは、村長父娘に保護された。
知らない間に脳内に寄生していた自称大魔法使いから、自分が召喚勇者であることを知るが、庶民の彼は勇者として生きるつもりはない。
正体がバレないようギルドには登録せず一般人としてひっそり生活を始めたら、固有スキル『蚊奪取』で得た規格外の能力と(この世界の)常識に疎い行動で逆に目立ったり、村長の娘と徐々に親しくなったり。
過疎化に悩む村の窮状を知り、恩返しのために温泉を開発すると見事大当たり! でも、その弊害で恩人父娘が窮地に陥ってしまう。
一方、とある国では、召喚した勇者(カズキ)の捜索が密かに行われていた。
父娘と村を守るため、武闘大会に出場しよう!
地域限定土産の開発や冒険者ギルドの誘致等々、召喚勇者の村おこしは、従魔や息子(?)や役人や騎士や冒険者も加わり順調に進んでいたが……
ついに、居場所が特定されて大ピンチ!!
どうする? どうなる? 召喚勇者。
※ 基本は主人公視点。時折、第三者視点が入ります。
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~
あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。
彼は気づいたら異世界にいた。
その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。
科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。
家ごと異世界ライフ
ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
連載時、HOT 1位ありがとうございました!
その他、多数投稿しています。
こちらもよろしくお願いします!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜
奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。
パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。
健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。
猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める
遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】
猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。
そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。
まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる