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しおりを挟む翌日、お姉様の書いた地図の場所に魔女の家があった。
「すみません、どなたかいませんか?」
「……いらっしゃい。手が離せないからここまで来てくれないかしら?」
焦げくさい匂いと煙が部屋に広がっているけど、不思議なことに咳が出ないし外にももれていなかった。
魔女はお母様くらいの歳でとても美人。
鉄の鍋で真っ黒いものをまぜていて、煙が出なくなると火から下ろして石の鉢に移してゴリゴリとすりつぶす。
「お嬢さん、もうすぐ終わるから椅子に座ってお待ちなさいな」
「はい」
黒焦げの薬なんてみたことなくて、もしかしてとんでもないところに来てしまったかも。
お姉様にからかわれたかもしれない。
「姉妹そろって気が短そうね。お嬢さんが来る頃だと思って準備していたのだけどねぇ」
何も言っていないのに不思議なことを言った。
お姉様がリビオ様のことを話したの?
「あなたが来るってわかったの。長生きしていると気配だけで色々なものが視えるようになるのよ。ほら、お嬢さんの大切にしている人にこれを飲ませればいい」
すりつぶしていた黒いものを魔女が小瓶にうつして私の目の前で振った。
サラサラしていて炭のようにも見える。
「私の……大切にしている人の状態がわかるんですか?」
「熱が上がってだんだん目覚めなくなる病だろう? 遠い昔、山を5つ越えた小さないにしえの国で流行ったことがあってね。とうの昔に絶えたと思ったんだけど……必要じゃないのかい?」
「本当に治るなら欲しいです」
ただの炭にしか見えないけど、何かあやしいものを使ったなら、リビオ様に飲ませるわけにはいかない。
「使っているのは山で採れる薬草に一握りの穀物。ちょいと見ていてごらん」
魔女が丸くなってうとうとしていた猫の口に指を押しつけ舐めさせた。
嫌そうな顔をしたけど黒くなった舌を動かす。吐き出すこともなく、今は何ともなさそうだけど。
「これは病気の者以外効果はない。猫の小さな体でも何ともないだろう? お嬢さんが飲んでも何も変わらない。少し元気になりすぎて一晩眠れなくなるかもしれないけど。案外身近に薬があるものよ。5日間、太陽が真上にきた時にひとつまみ飲ませてごらん。元気になるから」
魔女が私をじっと見つめて言った。
「もう色々試したのだろう? 今の状態が続くと身体の中から壊れてしまう。試して損はないと思うけど。誕生日に結婚式を挙げたいならね」
魔女は次々と私が言っていないことを当てるから、覚悟を決めた。
「買います」
「そうね、お代は銀貨7枚」
デイドレスが1枚買えるくらいの金額で、私の小遣いから出せてほっとした。
お姉様が非常識だとか何とか言っていたから、もっと高額なのだと思ったけど。
銀貨を入れた袋を取り出すと、魔女がにやりと笑って言う。
「それと、この先一生で言うはずだった大切な人に向けた好き、大好き、愛してるなど愛を伝える言葉を私がもらうわ。長く生きていると寂しくなるものでね」
「それがお代ですか? 私は好きってもう言えなくなるんですか? 大切な人たちに……?」
思いがけない言葉に眉間にしわが寄る。
「そうね、すべてでは可哀想かしら。じゃあ、1番大切な人だけに伝えることはできなくなる。本人に好きだと言えない理由も自分から伝えられない。これで日常生活を送れるなら悪くないはずよ」
この先リビオ様にだけ大好きって言えなくなる?
1番伝えたい相手で、顔を見たら言いたくなるのに。
でも、この薬で健康を取り戻せるなら……。
リビオ様と手をつないで庭園を歩いたり、ダンスもしたい。
「わかりました。この薬の効果を信じて払います」
渡された瓶をぎゅっと胸の前で握って祈る。
言葉に出さなくてもリビオ様を好きなことは変わらない。
大好き、リビオ様。
「お嬢さんの言葉は素直で温かいね。これからは愛の言葉を口にしようとすると声が出なくなる。……そうだ! せっかくだから好きの代わりの言葉で体調が良くなるまじないをかけてやろう。いわゆる呪文というものだ」
魔女は笑顔で、名案を思いついたと言いたげな様子。
「呪文、ですか? さらにお代を払うのは」
「いや、もう十分もらったからサービスだよ。それに呪文は3文字、キライだよ」
「え⁉︎ そんなこと言いたくありません!」
「そう? 1番大切な人限定よ。本来なら金貨の3枚ももらいたいところだけど、私は今気分がいいの。胸が温かくていいことしたくなったのさ。きっと役に立つから。さあ、早く行って飲ませておあげなさい」
「3枚の金貨を払うのでキライだなんて呪文、やめて下さい!」
「もともと身体が丈夫じゃないんだろう? この先も必要になると思うけどねぇ。共に年老いていきたいと思うのなら、なおさら」
「でも」
「遠慮しなくていいから。さぁ、早くいきなさい!」
リビオ様の命が優先。
私は取り引きすることにして、急いで屋敷に向かった。
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