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しおりを挟むリビオ様に魔女の薬を飲ませるとすぐに熱が下がった。
3日目に目覚めて、5日目に立ち上がれるように。
眠っている時に私ははやく良くなるように何度も呪文をとなえてしまった。
ずっと寝ていたから驚異的な回復だってお医者様が驚いていたくらい。
魔女の薬と呪文は本当にすごい。
2週間もすると、リビオ様は今までと変わらない生活に戻った。
リビオ様が結婚式の準備を進めてくれるのは嬉しいけど、まだ疲れやすいようで、息抜きで出たという庭園のベンチでうたた寝をしている。
青白い顔をのぞきこんでちゃんと眠っているのを確認してから口を開いた。
「リビオ様、嫌いです」
本当は好きと言いたいのに。
でもこの呪文はどんどんリビオ様を健康にしてくれるのだもの。
絶対に聞かれて誤解されたくない。
ずっと好きだって言っていないからおかしいと思っていないかな?
最近ちょっとリビオ様との関係がぎこちない。
代わりにソフィアお姉様が私のいない時にお見舞いに来ていて、2人で仲良く話しているらしい。
なんだか少しもやもやする。
はっきりリビオ様に好きだって、よそ見しないでって言えたらいいのに。
きのうのお姉様は私の顔を見て何も言わずにんまり笑っていた。
何か隠しているのかな。
いつもなら言わなくていいことまで口に出すのにおかしい。
それでも私はリビオ様に元気になってほしかった。
「リビオ様、キライ、嫌いです」
嫌いって言葉が好きって聞こえればいいのに。
少しずつ顔に赤みが戻ってきた。
ほっとしているとリビオ様のまぶたがゆっくり開いて、私の顔に焦点を合わせるようにじっと見つめてくる。
居心地が悪くなって、ごまかすように口を開く。
「リビオ様……よく眠れましたか?」
「いや、悪い夢を見ていたみたいだ」
もしかして聞こえてしまった?
なんと答えていいかわからないし、リビオ様の視線に耐えられなくて無意識に一歩後ろに下がった。
「嫌いって、本当?」
「あの、私……っ」
ああ、もう嫌われちゃう。
リビオ様の顔を見ていられなくてぎゅっと目を閉じる。
「どこが嫌い?」
「どこ……どこって(嫌いなところなんてひとつもないの)」
リビオ様の声が耳元で聴こえて震えた。
逃れられないように回された腕に震えてしまう。
これまでなら安心できたのに今は胸が苦しい。
そのまま引き寄せられて、彼の膝に座ることになってしまった。
恥ずかしいし、身動きがとれなくて困る。
「可愛いルチア、好きって言って」
リビオ様はすごく余裕のある様子で私を見ている。
どうしよう。
これまでならたくさん言えた。
今は説明さえできないのに。
「ルチア、言って?」
好きと言うことはできないけれど、どうやったら気持ちが伝わるかな。
そうっと手を伸ばして頬に触れた。
指先から好きだって伝わればいいのに。
でも口から飛び出したのは――。
「……リビオ様、……キライです」
こんな私のこと、嫌いにならないわけがない。
ぎゅっと目を閉じて、身構えた。
結婚はやめるって言われちゃうのかな、泣かないでいられるかな。
「……ルチア」
リビオ様の低く落ち着いた声に、心臓が速まる。
「愛しているよ、ルチア」
目を開けると今も変わらない優しい瞳で私を見つめてくれる。
嬉しい。嬉しいのに。
「ごめんなさい、リビオ様、私……私はっ……き、嫌いです」
涙が出そうになってリビオ様にぎゅうっと抱きついた。同じように抱きしめ返してくれるから肩に顔を押しつける。
するとリビオ様が私の髪を優しく撫でた。
「いじわるしてごめん、ソフィアから全部聞いたよ。僕のためにありがとう」
「……え?」
髪に触れていた手が、かたまる私の背中を優しく撫でてくれる。
「好きって言えなくなったことも、代わりに嫌いって言ってしまうことも。こんなに早く元気になってルチアを抱きしめられるのは、全部ルチアのおかげだってことも……本当にありがとう」
「リビオ様……っ、私」
「嫌いって言われるのがこれほど嬉しく感じるなんて思わなかった。嫌いって、言って」
とうとう涙がこぼれて、リビオ様の顔がよく見えない。
「リビオ様、私は大嫌いです」
「大好きだよ、ルチア」
それから私の誕生日に、予定通り結婚式を挙げた。
99本のひまわりが飾られて笑顔が絶えない1日。
リビオ様は世界で1番優しい夫になって、私は世界で1番幸せな妻となった。
終
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お読みいただきありがとうございます。
ひまわり99本の花言葉は永遠の愛を誓う、とずっと一緒にいよう、だとか。
この後はR18となりますので大丈夫な方はおつき合いいただけると嬉しいです。
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