46 / 84
ヴァルディアの惨劇 1
しおりを挟むローラウド皇帝、クオンツ・ローラウドはローラウド人に特徴的な燃えるような赤毛の男である。
赤毛に金の瞳は太陽を思わせるが、穏やかな陽光ではなく、乾いた大地に照り付けるような肌を焼く強い日差しのようだ。
口元に浮かぶ笑みはどこか酷薄で、金の瞳は人を射るような輝きを放っている。
威風堂々とした体躯に、豪奢な鎧とマントが、ローラウド皇帝の姿をさらに大きく見せていた。
ローラウド皇帝は挨拶をしてからずっと、まるで壇上に立つ舞台役者のように、独壇場を続けている。
「我が国が抵抗を続ける周辺諸国を平定する間、我が国を攻めず、どこにも組せずにいてくださったことに感謝を。ローラウドのような弱小国は、ヴァルディアに攻められればひとたまりもありませんからな。それに、他国と同盟を組まれて救援でもされたらと――ずっと恐れておりました」
「――他国の情勢を調べないわけがあるまい。我が国が内乱のために身動きが取れなくなっていたことを、ローラウド殿はよくご存じのはずだ」
ヴァルディア王が穏やかな口調で言う。
どうにも信用ならない人物だと思う。俺の隣にいる父上も同様に思っているのか、いつも厳しい表情を更に厳しくさせていた。
ヴァルディア王は感情を顔に出さない。にこやかなままだ。
頼りない印象の方だと感じたが、違うのかもしれない。
そもそも、ヴァルディアの内乱の原因は、早い話が跡目争いだった。
先代の王の弟君が王国南部の貴族たちをまとめて、玉座を簒奪しようとしたことがきっかけで起きた騒乱である。
俺にとっては過去の争いだが、ヴァルディア王にとってはそうではないだろう。
色々と、気苦労も多かっただろう。だが、その苦労を匂わせないのだから、俺の印象は間違いで、芯の強いかたなのかもしれない。
「あぁ、そうでしたね。ヴァルディアが内乱後の混乱の最中にあって、俺はとても助かりましたよ。そうでなければ、ヴァルディアに怯えてとても、周辺諸国を平定などできませんでした。俺は運がよかった。いい時期に、王位を継いだものです」
ローラウドの情報は、あまり入ってこない。
いつどのようにしてローラウド皇帝が──かつてはローラウド国と呼ばれていた国で王となったかまでは、情報がない。国交は、ほぼ皆無だったのだ。
ローラウド皇帝が周辺の小国を支配下に置き、ローラウド国はローラウド帝国と名を変えたのはつい最近のことである。
そして、クオンツもまたローラウド皇帝を名乗るようになった。
「それで、クオンツ殿。貴殿から、我が国と友好を結びたいとの申し出を受け、会合の場を設けたのだ。もてなしの準備をしている。食事でもしながら、ゆっくり話そうか」
「それには及びません」
ローラウド皇帝が軽く手を上げた。
すると──背後に控えているローラウド王の護衛兵たちが、一斉に弓を構えた。
弓──なのだろうか。見たことのない形状をしている。弓とは、弦をひくものだが、それがない。
水平に構えられた弓の鏃には鋭利に尖った石が組み込まれている。
その石は、青い光を帯電していた。
「──どういうつもりだ、クオンツ」
「弱小国だと侮り、謁見を許したのか、ヴァルディア王。とんだお人好しだ。我が国がどのような兵器を使って戦勝をあげてきたのかさえ、調べなかったのか」
「皆、ローラウド兵を討て! クオンツを捕らえよ!」
ヴァルディア王の下知が飛ぶ。
全く警戒していなかった訳ではもちろんないのだろう。すぐさま、ローラウド兵よりも数倍多い兵士たちがローラウド兵たちを取り囲んだ。
74
あなたにおすすめの小説
【完結】騎士団長の旦那様は小さくて年下な私がお好みではないようです
大森 樹
恋愛
貧乏令嬢のヴィヴィアンヌと公爵家の嫡男で騎士団長のランドルフは、お互いの親の思惑によって結婚が決まった。
「俺は子どもみたいな女は好きではない」
ヴィヴィアンヌは十八歳で、ランドルフは三十歳。
ヴィヴィアンヌは背が低く、ランドルフは背が高い。
ヴィヴィアンヌは貧乏で、ランドルフは金持ち。
何もかもが違う二人。彼の好みの女性とは真逆のヴィヴィアンヌだったが、お金の恩があるためなんとか彼の妻になろうと奮闘する。そんな中ランドルフはぶっきらぼうで冷たいが、とろこどころに優しさを見せてきて……!?
貧乏令嬢×不器用な騎士の年の差ラブストーリーです。必ずハッピーエンドにします。
側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、孤独な陛下を癒したら、執着されて離してくれません!
花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」
婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。
追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。
しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。
夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。
けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。
「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」
フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。
しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!?
「離縁する気か? 許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」
凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。
孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス!
※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。
【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】
王太子妃専属侍女の結婚事情
蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。
未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。
相手は王太子の側近セドリック。
ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。
そんな二人の行く末は......。
☆恋愛色は薄めです。
☆完結、予約投稿済み。
新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。
ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。
そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。
よろしくお願いいたします。
白い結婚のはずでしたが、理屈で抗った結果すべて自分で詰ませました
鷹 綾
恋愛
「完璧すぎて可愛げがない」
そう言われて王太子から婚約破棄された公爵令嬢ノエリア・ヴァンローゼ。
――ですが本人は、わざとらしい嘘泣きで
「よ、よ、よ、よ……遊びでしたのね!」
と大騒ぎしつつ、内心は完全に平常運転。
むしろ彼女の目的はただ一つ。
面倒な恋愛も政治的干渉も避け、平穏に生きること。
そのために選んだのは、冷徹で有能な公爵ヴァルデリオとの
「白い結婚」という、完璧に合理的な契約でした。
――のはずが。
純潔アピール(本人は無自覚)、
排他的な“管理”(本人は合理的判断)、
堂々とした立ち振る舞い(本人は通常運転)。
すべてが「戦略」に見えてしまい、
気づけば周囲は完全包囲。
逃げ道は一つずつ消滅していきます。
本人だけが最後まで言い張ります。
「これは恋ではありませんわ。事故ですの!」
理屈で抗い、理屈で自滅し、
最終的に理屈ごと恋に敗北する――
無自覚戦略無双ヒロインの、
白い結婚(予定)ラブコメディ。
婚約破棄ざまぁ × コメディ強め × 溺愛必至。
最後に負けるのは、世界ではなく――ヒロイン自身です。
-
婚約者は冷酷宰相様。地味令嬢の私が政略結婚で嫁いだら、なぜか激甘溺愛が待っていました
春夜夢
恋愛
私はずっと「誰にも注目されない地味令嬢」だった。
名門とはいえ没落しかけの伯爵家の次女。
姉は美貌と才覚に恵まれ、私はただの飾り物のような存在。
――そんな私に突然、王宮から「婚約命令」が下った。
相手は、王の右腕にして恐れられる冷酷宰相・ルシアス=ディエンツ公爵。
40を目前にしながら独身を貫き、感情を一切表に出さない男。
(……なぜ私が?)
けれど、その婚約は国を揺るがす「ある計画」の始まりだった。
いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!
夢呼
恋愛
伯爵令嬢のローゼは大好きな婚約者アーサー・レイモンド侯爵令息との結婚式を今か今かと待ち望んでいた。
しかし、結婚式の僅か10日前、その大好きなアーサーから「私から愛されたいという思いがあったら捨ててくれ。それに応えることは出来ない」と告げられる。
ローゼはその言葉にショックを受け、熱を出し寝込んでしまう。数日間うなされ続け、やっと目を覚ました。前世の記憶と共に・・・。
愛されることは無いと分かっていても、覆すことが出来ないのが貴族間の政略結婚。日本で生きたアラサー女子の「私」が八割心を占めているローゼが、この政略結婚に臨むことになる。
いくら政略結婚といえども、親に孫を見せてあげて親孝行をしたいという願いを持つローゼは、何とかアーサーに振り向いてもらおうと頑張るが、鉄壁のアーサーには敵わず。それどころか益々嫌われる始末。
一体私の何が気に入らないんだか。そこまで嫌わなくてもいいんじゃないんですかね!いい加減腹立つわっ!
世界観はゆるいです!
カクヨム様にも投稿しております。
※10万文字を超えたので長編に変更しました。
混血の私が純血主義の竜人王子の番なわけない
三国つかさ
恋愛
竜人たちが通う学園で、竜人の王子であるレクスをひと目見た瞬間から恋に落ちてしまった混血の少女エステル。好き過ぎて狂ってしまいそうだけど、分不相応なので必死に隠すことにした。一方のレクスは涼しい顔をしているが、純血なので実は番に対する感情は混血のエステルより何倍も深いのだった。
【完結】気味が悪いと見放された令嬢ですので ~殿下、無理に愛さなくていいのでお構いなく~
Rohdea
恋愛
───私に嘘は通じない。
だから私は知っている。あなたは私のことなんて本当は愛していないのだと──
公爵家の令嬢という身分と魔力の強さによって、
幼い頃に自国の王子、イライアスの婚約者に選ばれていた公爵令嬢リリーベル。
二人は幼馴染としても仲良く過ごしていた。
しかし、リリーベル十歳の誕生日。
嘘を見抜ける力 “真実の瞳”という能力に目覚めたことで、
リリーベルを取り巻く環境は一変する。
リリーベルの目覚めた真実の瞳の能力は、巷で言われている能力と違っていて少々特殊だった。
そのことから更に気味が悪いと親に見放されたリリーベル。
唯一、味方となってくれたのは八歳年上の兄、トラヴィスだけだった。
そして、婚約者のイライアスとも段々と距離が出来てしまう……
そんな“真実の瞳”で視てしまった彼の心の中は───
※『可愛い妹に全てを奪われましたので ~あなた達への未練は捨てたのでお構いなく~』
こちらの作品のヒーローの妹が主人公となる話です。
めちゃくちゃチートを発揮しています……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる