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ローラウドとの会談
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俺が十歳の時だ。隣国ローラウド帝国が周辺の小国に攻め入ってくだし、その支配下におさめた。
次は我が国だと、ヴァルディア王国の国内はざわついていた。
当時のヴァルディア王は穏健派で、領地を広げることを求めないような方だった。
ヴァルディア王国は戦争を好まない。これは王国全土にその風潮がある。
「長らく、内乱が続いていた。そのせいで、ヴァルディアの民は疲弊している。ようやく情勢が落ち着き、国力が回復してきたところだ。ローラウドとの戦など、誰も求めていないだろう」
ローラウドとの話し合いに向かう馬車の中で、父は俺にそう言った。
ローラウド皇帝直々に友好のための話し合いをしようという提案があったらしい。
ヴァルディア王はその場に、長らく王の盾として存在しているミランティス家を呼んだ。
父は敵意のないことを示すために、母と俺を連れていくことを決めた。
国王夫妻と王太子殿下も参加なさる会談である。
ミランティス家が父一人などは、礼節を欠く行為だ。
「ようやく、国勢が落ち着いたばかりだというのに、ローラウドも困ったものだ」
内乱は、父が幼い頃まで続いていたようだ。ミランティス家は王命により兵を出し、敵対勢力の鎮圧に駆けずり回っていた。
父も幼い頃から武芸の調練を行っており、戦が落ち着いた今でも貴族間の軍事力を誇示しあうための御前試合で、幾度も優勝をしていた。
ミランティス家の力が弱まれば、再び内乱の風潮が高まりかねない。
俺は感情を顔に出さない寡黙な父の隣で、その夜に吹く風のような低い声を聞いていた。
母は静かに俺と父の話を聞いていた。
大人しく、優しい人だ。寡黙な父に代わり、よく使用人たちをまとめて、家を守っている。
ただ、子ができづらい体質だったらしい。
他にも妻を娶れと父は親戚や両親から言われて、母は役立たずだと謗られていたようだ。
父は母を守るために、親戚たちとの縁を切った。ミランティス家が親戚との縁が薄いのは、そのためである。
俺の生まれる前に祖父母は亡くなり、外部のうるさい声が聞こえなくなると、母はようやく俺を身籠ったのだという。
だが、他に弟妹はうまれなかった。
俺になにかあれば、養子を貰えばいい――そういう話で落ち着いたようだ。
「ローラウドは、友好を求めているのでしょう、父上」
「あぁ。ローラウドも周辺諸国の平定で疲弊している。今まで侵攻してきた国よりも、ヴァルディアは大きい。軍事力も違う。そのため、戦うよりは友好条約を結ぶべきだと考えたのだろうな」
「ヴァルディアは、ローラウドに攻めようとしていないのに?」
「命を刈り取る者は、次は自分の命も奪われるのではないかと懐疑的になる。ローラウド皇帝はヴァルディアに攻められることを恐れているのだろう」
元々、ローラウドの国土はヴァルディアよりも小さい。おおよそ、ミランティス家の領土ぐらいの大きさしかない。周辺諸国を合わせても、ヴァルディアの国土の半分にも満たない。
それ故、ヴァルディアは自国のことばかりに注視することができていた。
ローラウドなど、小指の先の爪程度の存在としか思っていなかったのだ。
ヴァルディア王城の謁見の間には、ヴァルディア王と王太子殿下、王妃様が並んでいた。
ヴァルディア王は父よりも年下で、少々頼りない印象である。
戦を嫌う性質が、その顔に現れているような気がした。
対して王太子殿下は、切れ長の瞳としっかりした顎と、意思の強そうな眉を持つ、口元をきつく引き結んだ精悍な少年である。
まだ背が低く小柄な俺よりも年上に見えたが、同い年であると知っている。
父にならい挨拶をした。ヴァルディア王は相貌を崩して「ミランティス公、よく来てくれた」と穏やかな声で言った。
それから母には「公爵夫人、跡継ぎがうまれて本当によかった」と言い、俺には「ダンテは我が息子、ジェイドと同い年だと聞いている。二人で手を取り合い、よく国を支えていってほしい」と。
優しい人なのだなと感じた。
臣下の息子の名まで覚えていてくれて、声をかけてくれるとは。
王太子殿下と目が合うと、軽く会釈をしてくれる。俺は胸に手を置いて、深々と頭をさげた。
やがて、ローラウド皇帝が護衛のための軍を率いて王城に現れた。
その姿は、俺が想像していたよりもずっと若く、立派だった。
鳥の羽のような飾りのついたマントに、金の鎧を身に着けている。
華美で派手好きだという印象だが、不思議と似合っていた。
「この度は、我らのような弱小国をお招きいただきましてありがたく思います。我がローラウドは、国力に乏しい国です。雨が少なく、土地は枯れている。開墾する土地はとても少ない。民のためにと、国土を広げるために邁進してまいりました」
少々演技染みた仕草で、ローラウド皇帝はあけすけに内情を語った。
友好を結ぶといえどもあくまでも、下手に出ているその物言いに、何故か少し、ひっかかりを覚えた。
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