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 目覚めとお出かけ 2

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 レイシールド様はシリウス様とシュミット様に、しばらく王宮を留守にすることを伝えた。
 それからクリスティス伯爵家に行く許可を得てきてくださった。
 私は寮に帰ると、身支度を整えた。出かける準備をするようにと言われたからだ。

「ティディスさん!」

「ティディス!」

 まだ眠そうにしているリュコスちゃんたちを連れて寮に戻り、着替えを済ませて髪を結って部屋を出る。
 寮のエントランスに降りると、ラーチェさんとマリエルさんが駆け寄ってきた。

「昨日、夜もご不在で、心配しましたのよ……!」

「ティディス、どうしたの? 何かあったの?」

「それはお出かけの準備ですわね……! ティディスさん、まさか……」

 ラーチェさんがわなわなと青ざめて震えている。

「レイシールド様に昨夜無理やり襲われましたの!? 許せませんわ……! 無口でつまらない男だとばかり思っていたら、その裏の顔は獣でしたのね!? だからティディスさんは、準備をしてここを出て行くのですわね……傷つけられたばかりに……!」

「ち、ちが……」

「許せないわ……! 陛下、よい方だと見直したばかりなのに、ティディス、可哀想……怖かったわね、可哀想に……」

 ラーチェさんが怒りに震え、マリエルさんが涙目で抱きしめてくれる。
 凄く勘違いをされている。でも二人とも優しい。
 私が不在だったことに気づいて、心配してくれていたのね。ありがたいことだ。

「私、シャハル様にいいつけます。ティディスさんを、シャハル様の侍女にしていただきますわ。私が守ってさしあげます。シャハル様、腹黒そうですけれど、いいところもありますのよ」

「シュミット様にも相談してみるわね。ティディスが傷つけられたのだとしたら、それは許せないことだもの」

「ち、ちがいます……あの、違うのです」

「違うの?」

「違う?」

 怒涛の勢いで私を心配してくれる二人になんとか事情を説明すると、二人とも顔を見合わせた。

「つまり……レイシールド様は、ティディスさんのためにクリスティス伯爵家に里帰りを……?」

「結婚を申し込むということね」

「それも違います……」

「違くありませんわ。男女が同じベッドで抱き合いながら同衾したら、それはもう既成事実ですのよ」

「陛下、情熱的なのね……」

「おめでとうございます、ティディスさん。レイシールド様は無口で不愛想でつまらない男ですけれど、よくよく見たら美形ですもの。祝福いたしますわ」

「ティディスがいいのなら、私はいいと思うわ」

 事情を説明したのだけれど、今度はまた違う誤解がうまれてしまった。
 困り果てている私を、二人は「気を付けていってきて」と言って、送り出してくれる。
 リュコスちゃんがペロネちゃんとシュゼットちゃんを背中に乗せて、私の隣を『女はやかましい』などと悪口を言いながらついてくる。
 私が寮を出ると――そこにはそれはもうおおきな、白狼が鎮座していた。
 女のやかましさについて不機嫌そうにしていたリュコスちゃんが『父上!』と、尻尾をぱたぱたと振った。
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