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ティディス・クリスティスは皇帝陛下の寝かしつけ係 1
しおりを挟むお食事とお片付けを終えた私は(レイシールド様が食器の片付けまで手伝ってくださったのでそれはもう恐縮した)レイシールド様と一緒に、寝室へ向かった。
たくさんお世話になって、たくさんよくして頂いているレイシールド様のお役に立てそうなのが嬉しい。
レイシールド様は私を傍に置いてくださって、建物とご本人を氷漬けにしても怒らない心の広い方で、裏庭に畑を作る許可もしてくださって、妹たちにチョコレートを贈ってくださったし、お食事を一緒に食べたり、早く仕事をあがらせてくださったり、ともかく、お世話になったことをあげれば枚挙に暇がないほどだ。
そんなレイシールド様が困っているのなら、私は助けたい。
眠れないというのは辛いものね。
私も、お金がなさ過ぎて明日のご飯はどうしようと悩んでしまった夜なんかは、あんまり眠れなくて辛かったもの。
私にくっついて眠るオリーブちゃんとローズマリーちゃんには癒やされたものだわ。
そのうち、ペロネちゃんやリュコスちゃんやティグルちゃんもくっついて眠るようになって、私が不安がっている場合ではないわね、家族は私が守る……!
という感じに、頭の中が切り替わっていったのだけれど。
レイシールド様のお部屋の壁には、相変わらず鹿の頭がどどんとはえている。
「レイシールド様のお部屋、鹿の首がはえていますね」
「あぁ」
「最初はびっくりしましたけれど、鹿は私も食べますし、美味しそうな立派な鹿だと思います」
『そうじゃな、鹿肉はいい』
リュコスちゃんがぱたぱた尻尾を振りながら言った。
ペロネちゃんはリュコスちゃんの背中の上で眠そうにしている。シュゼットちゃんは半分寝ている。
「そうか」
「レイシールド様は狩りも得意なのですか?」
「そうだな。……だが、別に俺の趣味で、飾ってあるわけではない」
「そうなのですか?」
自分の趣味ではないのに飾られている鹿の頭には、どんな意味があるのかしら。
「……これは、シャハルが、突然持ってきた。恐ろしい皇帝を演出するには、鹿の頭ぐらい必要だろうと言って」
「まぁ……ふふ……」
「今の話は、愉快だったのだろうか」
「はい。レイシールド様は、シュミット様にもシャハル様にも、大切にされているのだなと思って」
弟殿下たちは、レイシールド様に協力的で、きっと心配もしているのだろう。
だから、シュミット様は私にレイシールド様のことを話してくれたのだろうし。
「そうだな。……あの二人は、俺が白狼の力を得ても、変わらない」
「昔から、仲のよいご兄弟だったのですか?」
「仲が悪い、ということはなかった」
レイシールド様の返事は曖昧だったけれど、きっと弟殿下たちはレイシールド様に頼っていたのだろう。
今だってこんなに優しい方なのだから、昔からとても優しかったのだろうし。
リビングルームを通り過ぎて、寝室に入る。
私はレイシールド様を期待に満ちた瞳で見上げた。
「レイシールド様、横になってください。今、シュゼットちゃんの力で眠らせて差し上げますね」
「……もう、寝るのか?」
「まだ何かご用事がありますか?」
「酒を、飲もうかと」
「寝室で飲むのですか?」
「あぁ。……いや、今日は辞めよう」
「あっ、ごめんなさい。寝室で飲まれるのなら、お酒を持ってきますね……!」
ベッドサイドに座ったレイシールド様が、私の手を握った。
「いい。ここに、いて欲しい」
どこか懇願するような響きを帯びた声音に、私は立ち止まる。
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