崖っぷち令嬢は冷血皇帝のお世話係〜侍女のはずが皇帝妃になるみたいです〜

束原ミヤコ

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高級紅茶とご休憩

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 申し訳なさの極みだわ。
 お仕事をサボって、見栄えの良い騎士団長様とこんなところで、それはもう高級そうな紅茶を、無料で、飲んでしまうなんて……!

 でも、断れない。せっかく淹れていただいた紅茶を、無駄にできない。飲まないなんて選択肢は私にはない。
 紅茶の一滴も、お水の一滴でさえ、残すのは勿体無いのだから。

「い、いた、いた……」

「痛い? どこか痛いの? まさかすでに死のうとして何かしらの毒を飲んだとか……!」

「いただきます……!」

 手をカタカタ震わせながらいただきますのご挨拶をする私の背中に、クラウヴィオ様が心配して手を置いた。 
 そのまま病人の看護をするようにさすられた。

「いただきますか……よかった。てっきりティディちゃんが、すでに死のうと先に手を打っていたのかと思ったよ」

 クラウヴィオ様は胸に手を当てて、ホッと息を吐く。
 私は「ごめんなさい」と謝って、それからカップに口をつけた。

 よくわからないけれどとても高級そうな味がする……!

 あと、なんだかすごく甘い……!
 喉が焼けるように甘い。高級な紅茶というのはこんなに甘いものなのね。

 多分美味しいのだ。とても美味しいに違いない。
 でも、よくわからない。高級そうなものは、総じて高級そうな味としか表現できない。
 だって、高級なものとか食べたり飲んだりしたことがないもの。

 少なくとも、どう考えても、私がクリスティス伯爵家で飲んでいた白湯よりは美味しい気がする。
 白湯も美味しい。白湯だって慣れれば、甘い味がするような気が、しないでもないのだから。

「美味しいです、クラウヴィオ様。ありがとうございます……」

「そっか、それはよかった。俺は紅茶を淹れるのがそんなに得意ってわけじゃないけれど、甘くしたし、美味しいんじゃないかなって」

「甘いです……」

「うん。エトワール蜂蜜を大さじ五杯入れてみたんだ。俺は甘いものは好きじゃないから、加減がわからないんだけど、美味しいならよかった」

 エトワール蜂蜜。
 蜂蜜の中でも最高級の蜂蜜として名高い蜂蜜が、五杯も入っている。
 眩暈がする。これを飲み終わったら私は、寿命が五年ぐらい伸びているかもしれない。

「ティディちゃんは、甘いものが好きなんだね」

「好きなような、よくわからないような……」

「も、もしかして、心労のあまり好きも嫌いもわからなくなってしまったの? そうだよね、死にたいと思うぐらいだから、甘いものが好き……なんて、思ったりできないよね。そんなに苦しいのなら、レイシールド様の侍女をやめてもいいんだよ?」

「えっ」

「今までの侍女だって、一日か二日で辞めてしまっていたし、辞めるって言ってもいつものことかって思うから、シリウスだって怒らないと思うし。辞めたら辞めたで、他の仕事に回してもらえるだろうし……」

 私の隣に座るクラウヴィオ様は、長い足を組んで身振り手振りを加えながら、話を続ける。

「レイシールド様の顔を見るのが怖いから、仕事を辞めた後の侍女は、大抵の場合自分の家に帰ってしまうけれどね」

「それは困ります……」

「ん?」

 私の声が聞き取りやすいように、クラウヴィオ様は私に顔を近づけてくる。
 悪い方ではなさそうだけれど、気安くて距離が近い。
 騎士団長様とはたくさんの騎士の方々を束ねているのだろうから、他者との付き合い方が上手いのかもしれない。
 私をティディちゃんと呼んでくれるし、いい人かもしれない。

「あ、あの、クラウヴィオ様」

「クウとか、ヴィオとかでいいよ」

「ヴィオ様」

「うん」

 渾名だわ……!
 はじめての渾名だ。すごく、仲良しって感じがする。クラウヴィオ様は誰に対しても多分こんな感じなのだろうけれど、嬉しい。

「私、死にたいわけじゃなくて……死にたいぐらい我が家が貧乏で、もう一家心中するしかないって思い詰めている妹たちのために、お仕事をやり遂げなくてはいけないのです。だから、ご心配していただいたのはありがたいのですが、大丈夫です……」

「し、死にたいぐらいに貧乏……!?」

 クラウヴィオ様は愕然とした表情を浮かべて、それから私の手をぎゅっと握った。

「だから、君はレイシールド様の侍女に選ばれたのだね。ティディちゃん、なんて可哀想なんだ……でも、レイシールド様は噂のような怖い方ではないから、多分大丈夫だとは思うけれど。それでも辛くて苦しいなら、お金は俺がなんとかしてあげる……!」

「だ、駄目です……! 初対面の方にお金を工面していただくわけには……」

「俺とティディちゃんは一緒に紅茶を飲んだ仲だから、もう初対面でも他人でもないよ。大丈夫、いつでも頼って」

「駄目です……」

 初対面の私にお金を貸してくれようとするとか、クラウヴィオ様、いい人すぎではないかしら。
 私が嘘をついていて、お金を騙し取ろうとしている可能性だってあるのに。
 騎士団長様なのだからもう少し慎重になったほうがいいと思う。

「クラウヴィオ。一体何をしている」

 低い声が聞こえた。
 声のした方に視線を向けると、休憩所の入り口に、冬眠から目覚めた熊──じゃなくて、レイシールド様が立っていた。

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