21 / 56
捕獲
しおりを挟む町に出たら、少年の情報はじわじわと少しずつ、だが確実に集まってきた。
背丈の小さい黒猫の男娼。
スラムの隅で見た。
まだ若い三毛猫の獣人とよく連れ立っている。
16歳と言っていたが、それにしては幼すぎる見た目だった。
他人に無関心なようなスラムの住人は、その実(じつ)、異端な者には敏感だ。
細切れでも集まってくる情報に、深夜になる前には彼の居住地の近くまでは突き止めた。
もちろん他の娼婦や男娼も、怪しいものは調べ、悪事を見つけたら取り締まる。
金切り声を上げながら抵抗する娼婦を部下に引き渡し、然るべき場所へと連れていかせる。
情夫が悪事に手を染めているんだろう。
抵抗すればするほど怪しまれるというのに、娼婦はそのことにすら考えつかないのか、大声で罵り喚き散らしている。
その時、ふわりと嗅いだことのある甘い香りがどこからか漂ってきた。
もしやとあたりに視線を巡らせると……いた。
慌てて隠れたようだが、目の端に映った黒髪。
存在を感じたことで一気に体中に血が駆け巡る。
いた。ようやく見つけた。
体中の細胞が、まだ番でさえない少年を欲して騒ぎ出す。
あれは俺のものだと、俺の獲物だと叫びだしたくなる。
「お前たちはそこで待て」
唸り声を押し込め、訝しがる部下を置いてボロボロの建物の階段を進んだ。
外から見た窓の位置でだいたいの部屋を探りだす。
部屋数は少なく簡単な造りの建物だから、部屋の目星はあっという間についた。
それになにより、隠し切れない甘い匂いがこの部屋から漂ってくる。
普通の猫の獣人とは違う、掴みようのない、だがたまらなく魅力的な匂いだ。
静かにノックをする。
中で息を呑むような音がし……ノックを繰り返すうちにわずかに床が軋む音とともに鍵が開かれた。
逃がすまい、とドアを開くと……やはり、白い顔をしてサタが怯えたように立っていた。
「ひっ……!」
「………………見つけた」
俺の声にガタガタと震えだすサタを哀れに思うが、溢れる怒気を止めることができない。
怖がらせたいわけではない。だが彼が俺のもとからいなくなったという事実が、どうしようもなく俺の心をピリピリと波立たせる。
泣き出しそうな顔を見ると抱き寄せて慰めたくなるのと同時に、酷く嗜虐心が刺激された。
「見つけるのに時間がかかってしまったな……来い」
「……っや、」
サタが咄嗟に逃げようとするのを許さず、細い二の腕を掴んだ。
ちょっとでも強く握ったら、折れてしまいそうなほど細い腕だ。
筋肉も脂肪もなく、俺じゃなくても少し力の強い獣人が握れば、簡単に骨まで砕けるだろう。
誰かの庇護の下(もと)でなければ生きられない腕だ。
それなのに、いやいやと首を振るサタに腹が立った。
「俺から逃げられるとでも思ったのか? こんな細い脚で? それとも俺を煽ろうとわざとやっているのか?」
「ちが、ッ……!」
この部屋に入った瞬間から鼻につく、若い雄の匂いがますます怒気を煽る。
最初は猫かと思ったが、これはおそらく虎の子供だ。
まだ成人前だろうか。今は青臭くまだまだ弱いが、いずれ立派な獣に成長する牙を隠した雄の匂いだ。
「若い雄の匂いがするな……ここに番と住んでいるのか?」
「ちが、い、ます……」
サタが涙目でこちらを睨み付けるが、昨夜俺が噛んだばかりの首筋からも雄の匂いが色濃く漂い、余計に腹立たしい。
「庇うのか? こんなに濃く匂いを付けさせておいて。まあ、どのみち関係ない事だ……ここにはもう二度と帰さない」
真っ白だったサタの顔が、さらに色を失う。
そんなに番と引き離されるのが嫌か。
サタを男娼に堕とし、まともな巣すら作れないような雄でもか。
沸々と湧き上がる怒りを歯を食いしばってこらえる。
もう立っているのさえやっとな風情の彼をマントに包み、部屋からゆっくりと部下のもとへ戻った。
「団長……! その者は……?」
「一旦戻る。お前たちは任務を続けろ。副長から指示を出させる」
「では供を……」
「いらん」
明らかに困惑する部下たちを一瞥すると、私邸へ馬を走らせる。
あの様子だと、明日からどんな噂がされるかわかったものじゃない。
だが、頭の中はようやく手に入れた獲物のことで一杯になっていた。
若い騎士たちが信じられないものを見るような目でこちらを見るのも、気にならなかった。
もう二度と逃げられないように、誰にも邪魔されないように、今度こそ俺の『巣』に持ち帰らなくては。
そして俺の腕の中でぐずぐずになるまで甘やかしてしまいたい。
俺の心の中はそれだけだった。
だが。
俺はこの後、彼の大きな秘密に、今まで生きてきたなかで一番と言っていいほど動揺させられることになる。
347
あなたにおすすめの小説
帝に囲われていることなど知らない俺は今日も一人草を刈る。
志子
BL
ノリと勢いで書いたBL転生中華ファンタジー。
美形×平凡。
乱文失礼します。誤字脱字あったらすみません。
崖から落ちて顔に大傷を負い高熱で三日三晩魘された俺は前世を思い出した。どうやら農村の子どもに転生したようだ。
転生小説のようにチート能力で無双したり、前世の知識を使ってバンバン改革を起こしたり……なんてことはない。
そんな平々凡々の俺は今、帝の花園と呼ばれる後宮で下っ端として働いてる。
え? 男の俺が後宮に? って思ったろ? 実はこの後宮、ちょーーと変わっていて…‥。
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新!
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新!
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
悪役神官の俺が騎士団長に囚われるまで
二三@冷酷公爵発売中
BL
国教会の主教であるイヴォンは、ここが前世のBLゲームの世界だと気づいた。ゲームの内容は、浄化の力を持つ主人公が騎士団と共に国を旅し、魔物討伐をしながら攻略対象者と愛を深めていくというもの。自分は悪役神官であり、主人公が誰とも結ばれないノーマルルートを辿る場合に限り、破滅の道を逃れられる。そのためイヴォンは旅に同行し、主人公の恋路の邪魔を画策をする。以前からイヴォンを嫌っている団長も攻略対象者であり、気が進まないものの団長とも関わっていくうちに…。
【本編完結】転生したら、チートな僕が世界の男たちに溺愛される件
表示されませんでした
BL
ごく普通のサラリーマンだった織田悠真は、不慮の事故で命を落とし、ファンタジー世界の男爵家の三男ユウマとして生まれ変わる。
病弱だった前世のユウマとは違い、転生した彼は「創造魔法」というチート能力を手にしていた。
この魔法は、ありとあらゆるものを生み出す究極の力。
しかし、その力を使うたび、ユウマの体からは、男たちを狂おしいほどに惹きつける特殊なフェロモンが放出されるようになる。
ユウマの前に現れるのは、冷酷な魔王、忠実な騎士団長、天才魔法使い、ミステリアスな獣人族の王子、そして実の兄と弟。
強大な力と魅惑のフェロモンに翻弄されるユウマは、彼らの熱い視線と独占欲に囲まれ、愛と欲望が渦巻くハーレムの中心に立つことになる。
これは、転生した少年が、最強のチート能力と最強の愛を手に入れるまでの物語。
甘く、激しく、そして少しだけ危険な、ユウマのハーレム生活が今、始まる――。
本編完結しました。
続いて閑話などを書いているので良かったら引き続きお読みください
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる