大好きだったあなたはもう、嫌悪と恐怖の対象でしかありません。

ふまさ

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「……マリー様っ!!」

 ルイスの叫びに、マリーが前を向く。無表情のジャスパーが、手を振りおろそうとする。とっさに目をつぶったマリーだったが、ジャスパーの手は、ランゲ公爵によって止められた。

「──貴様。いま、何をしようとした?」

 ぎりっ。ランゲ公爵がジャスパーの手首を強く握る。いたっ。ジャスパーが顔を歪めた。

「よくも大事な娘に手をあげようとしてくれたな。いい度胸だ」

 絶対零度の表情と声音に、ジャスパーが小さく悲鳴をあげた。シュルツ伯爵が真っ青な顔で「も、申し訳ありません! ランゲ公爵!!」と、土下座する。

「ジャスパー! お前も謝罪せんか!」

 ランゲ公爵が手をはなすと、ジャスパーは掴まれた手首をさすった。不快そうに「……でも、マリーが悪いのです。婚約者のぼくより、ルイスなんかを庇うから」と吐き捨てた。

「この期に及んで、まだ人のせいにするのか」

 心底呆れた様子のランゲ公爵は、シュルツ伯爵に視線を移した。

「シュルツ伯爵」

「は、はい!」

「こんな男に、大事な娘はやれん。婚約はなかったことにしてもらおう」

 シュルツ伯爵はつかの間沈黙したあと「──は、はい……」とうなだれた。それに異を唱えたのは、ジャスパーだった。

「な、何故です! たったこれだけのことで!」

「──これだけ、だと?」

 ランゲ公爵の刺すような視線に、ジャスパーがひるむ。だがランゲ公爵はふと、表情をゆるめた。ジャスパーが「……な、何ですか」と訝しむ。

「いや。存外、お前は簡単に本性を見せたなと思ってな」

「……何のことですか」

 ジャスパーの問いには答えず、ランゲ公爵はシュルツ伯爵の名を呼んだ。

「今すぐに、屋敷の使用人全てをここに集めてくれ」

「し、使用人ですか? どうして……」

「これだけカッとしやすい性格だ。その本性を誰にも知られず、ずっと演技していたとはとても思えなくてな」

 誰もが頭に疑問符を浮かべるなか、マリーだけは父親の考えを察したように「お父様……もしかして」と顔を強ばらせた。

「まだわからん──が、もう会うこともないだろうし、この機会に徹底的に暴いておこうと思ってな」

(まあ、証言や証拠がなくても、たかが伯爵令息一人、どうにでもなるのだがな)

 ランゲ公爵が口角をあげる。だが、目は決して笑ってはいなかった。

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