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「お父様。あたしも一緒に行きます。そしてお兄様に、お父様がなんとかしてくださるからもう大丈夫ですと、伝えます」
ルソー伯爵は、ふっと諦めにも似た笑顔を浮かべた。
「……お前は心から、エディを愛しているのだな」
「はい!」
「……果報者だよ、あいつは。コーリー、私のことは愛しているかい?」
「ええ? もちろんですよ。ふふ。なんだか照れくさいですね」
「──そうか。なら、もう……」
「お父様?」
「いや、なんでもない。一緒に行くのなら、早くお前も支度をしてきなさい」
「はい、わかりました!」
すっかり元気を取り戻したコーリーが、侍女に声をかけ、自室へと向かって行く。その一連の流れをぼんやり見ていたルソー伯爵に、ルソー伯爵夫人が、あなた、と静かに声をかけた。
「王都の城門は、もう閉まっていますよ。それに突然の訪問は、どんな理由であれ、礼をかく行為かと……」
コーリーとの会話で少し頭が冷えたのか。ルソー伯爵はルソー伯爵夫人を一瞥したあと、出立は明日の朝にすると使用人に告げ、ジェンキンス伯爵への手紙を書くため、自室に戻った。
ルソー伯爵夫人は顔を歪め、玄関ホールから、じっとルソー伯爵の自室を見詰める。
「──母上」
声をかけたのは、ルソー伯爵家の長男、イーモンだった。ルソー伯爵夫人と同じく、険しい顔をしている。
「……聞いていたのですか」
目線は夫の部屋に向けたまま、ルソー伯爵夫人は呟いた。イーモンが、ええ、と答える。
「なにか飲もうと。食堂にいましたので」
「……そうですか」
ルソー伯爵夫人は、はあと大きくため息をついた。
「よいのですか? 父上は、コーリーの言うことは、どんなことでも信じてしまいますが、あいつは悪気もなく、嘘をつく。いや、嘘をついているという自覚すら、ないのかもしれません」
「……わかっていますよ。けれど、あの人がわたくしの言うことに、耳を傾けると思いますか?」
イーモンは、ですね、と肩を竦めた。
「ミア嬢がコーリーに理不尽に暴行、ですか……どこまでが本当なのやら」
「どうであれ、ジェンキンス伯爵は、娘をとても大切に想っている。そしてエディのことも、随分と気に入っているようですし……すんなり事が運ぶとは、とても思えません」
「少なくとも父上が考えているようには、いかないでしょうね」
「……冷静ですね、イーモン」
「そうですか? まあ、ルソー伯爵家が没落でもすれば、父上の顔色を常にうかがうことも、コーリーのご機嫌とりもしなくてよくなるので、それはそれでいいかなと」
ルソー伯爵夫人が、ふっと鼻で笑う。
「……エディの比ではないでしょうに」
「それはそうですが。母上だって、同意見でしょう?」
「もともとわたくしは、誰も愛していませんよ」
「実の息子の前で、随分と堂々とおっしゃる」
「あなたには、あの男の血が混じっていますから。それにもう、あなたには、わたくしの愛は必要ないのでしょう?」
それに対しイーモンは、酷い両親だと、薄く笑うに留めた。
ルソー伯爵は、ふっと諦めにも似た笑顔を浮かべた。
「……お前は心から、エディを愛しているのだな」
「はい!」
「……果報者だよ、あいつは。コーリー、私のことは愛しているかい?」
「ええ? もちろんですよ。ふふ。なんだか照れくさいですね」
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「いや、なんでもない。一緒に行くのなら、早くお前も支度をしてきなさい」
「はい、わかりました!」
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ルソー伯爵夫人は顔を歪め、玄関ホールから、じっとルソー伯爵の自室を見詰める。
「──母上」
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「……聞いていたのですか」
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「なにか飲もうと。食堂にいましたので」
「……そうですか」
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「よいのですか? 父上は、コーリーの言うことは、どんなことでも信じてしまいますが、あいつは悪気もなく、嘘をつく。いや、嘘をついているという自覚すら、ないのかもしれません」
「……わかっていますよ。けれど、あの人がわたくしの言うことに、耳を傾けると思いますか?」
イーモンは、ですね、と肩を竦めた。
「ミア嬢がコーリーに理不尽に暴行、ですか……どこまでが本当なのやら」
「どうであれ、ジェンキンス伯爵は、娘をとても大切に想っている。そしてエディのことも、随分と気に入っているようですし……すんなり事が運ぶとは、とても思えません」
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ルソー伯爵夫人が、ふっと鼻で笑う。
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「それはそうですが。母上だって、同意見でしょう?」
「もともとわたくしは、誰も愛していませんよ」
「実の息子の前で、随分と堂々とおっしゃる」
「あなたには、あの男の血が混じっていますから。それにもう、あなたには、わたくしの愛は必要ないのでしょう?」
それに対しイーモンは、酷い両親だと、薄く笑うに留めた。
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