溺愛されていると信じておりました──が。もう、どうでもいいです。

ふまさ

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 心配そうに見送るジェマたちに笑顔で礼を述べ、フィオナはミックと共に、馬車へと乗り込んだ。

「フィオナからの手紙がアイン侯爵家に届いたとき、ぼくはまだ、侯爵家の屋敷にいたんだよ。きみにどうしてもおやすみが言いたくてね」

 正面に座るミックが笑う。フィオナは「そうなの?」とだけ答えた。

「そしたら、きみがあの子の屋敷に泊まるというから心配で心配で。まだ朝だというのに、たまらず迎えに来てしまったよ」

「何が心配だったの?」

「そんなの、いろいろだよ。あの子に変なことを吹き込まれたりしてないか、ちゃんとぼくたちのこと、話せているかってね。きみは純粋で、人を疑うことを知らないから」

「そうね。フローラお姉様は、そうだったわね」

 フィオナの科白に、ミックは一瞬固まったものの。すぐに「やだなあ」と口元をゆるめた。


「いまぼくが話しているのは、きみのことだよ。フィオナ」


 フィオナとミックの視線が交差する。ややあって、フィオナはふっと小さく笑った。

「──そう。あなたは、わたしの名前は呼んでくれるのよね。一度だって、フローラと呼んだことはなかった。だからかしら。馬鹿な期待をしてしまったのは」

「……何のこと?」

「ええと。何だったかしら。わたしはフローラお姉様と同じ顔をしていて、フローラお姉様になろうとしているから、愛してあげている。そうとしないわたしには、何の価値もない……だったかしら」

 ミックは、ぴくりと片眉をあげた。

「……それ、あの子から聞いたの?」

「いいえ。わたしが直接聞いたの。音楽室の扉のすぐ近くで、聞き耳を立てていたから」

「……はしたないなあ。フローラはそんなこと、しなかったよ?」

「でしょうね。でも、わたしはフローラお姉様ではないから」

「確かに、きみはフローラにはなりえない。けれど、努力はし続けないといけないよ。じゃないと──」

「あなたに愛してもらえない?」

 続けた言葉に、けれどミックは戸惑うことなくそれを肯定した。何の悪びれもなく。

「ぼくだけじゃなく、誰からも愛してもらえないよ。それでもいいの?」

 ミックが憐れみの目を向けてくる。あの音楽室で言っていたことを、フィオナが聞いていたと知っても、見せたのは僅かな動揺だけ。それも一瞬で消え去り、今は──これだ。

 これはミックのからかいなどではなく、本心なのだろう。

 怒りもある。哀しみも。けれどフィオナは何よりもまず、自身の目を覚まさせてくれたジェマに、心から感謝した。

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