溺愛されていると信じておりました──が。もう、どうでもいいです。

ふまさ

文字の大きさ
上 下
16 / 41

16

しおりを挟む
 フィオナは垂らしていた髪を後ろでひとまとめにすると、持っていた紐で器用に束ねた。

 ミックが眉根を寄せる。

「……どういうつもり?」

「わたしはもう、フローラお姉様になるの、やめにするわ」

「……ぼくの話し、ちゃんと聞いてなかったの?」

「聞いていたわ。昨日も、今も。ちゃんとね」

「なら、こんな結論になるわけがない。いいかい? もしきみがフローラであることをやめたら、ぼくはもう、きみを愛してあげられなくなる。それだけじゃない。侯爵だって、侯爵夫人だって、きみを愛することをやめてしまうよ?」

「でしょうね」

 手応えのない返答に苛立ったミックは、追い討ちをかけるように、さらに早口でまくし立てた。

「そしたらきみは、ぼくという婚約者どころか、家族まで失うことになる。きっと屋敷を追い出されて、食べる物も、住むところもなくってしまうんだよ。本当に、理解してる?」

 脅しのような科白も、その可能性は充分にあると考えていたフィオナは、あっけらかんと答えた。

「しているわ。その上で、やめると言っているの。何度も言わせないで」

「いいや、わかってないね。きみはぼくのことが小さなころから好きだったろう? そのぼくが、愛してあげると言っているんだ。それがどれほど幸福なことか、もう一度考えてごらん?」

 ふむ。
 フィオナは顎を掴み、考える素振りを見せた。ミックがほっとしたのもつかの間。

「それについてはわたしなりに考えてみたのだけれど……あの頃のわたしって、交友関係があなたしかいなかったのよね。それがたまたま異性で、偽りとはいえ優しくしてくれたら、それは恋だと勘違いしても仕方ないわよね?」

「……どういう意味?」

「つまりは、別にあなたでなくとも、好きになっていたということよ。ねえ、そんなことより──」

 話しは終わりとばかりに次へと進もうとするフィオナに、ミックは「そんなこと?」と、目を吊り上げた。だが、フィオナは怯まない。

「そう、そんなこと……あのね。ミックは、フローラお姉様であろとしないわたしは愛せないのよね?」

「……その通りだ。だから」

「わたしも、こうしてあなたと向かい合って殊更自覚したわ。わたしはもう、あなたと会話することさえ苦痛なぐらい、あなたが嫌いになってしまったってね。だからお互い合意ということで、婚約は解消しましょう?」

 ミックはそんなこと、予想すらしていなかったのか、大きく目を見開いた。口を半開きにしながら、

「………………は?」

 とたっぷり間をあけてから、一言そう呟いた。



 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妹が公爵夫人になりたいようなので、譲ることにします。

夢草 蝶
恋愛
 シスターナが帰宅すると、婚約者と妹のキスシーンに遭遇した。  どうやら、妹はシスターナが公爵夫人になることが気に入らないらしい。  すると、シスターナは快く妹に婚約者の座を譲ると言って──  本編とおまけの二話構成の予定です。

どうやら婚約者が私と婚約したくなかったようなので婚約解消させて頂きます。後、うちを金蔓にしようとした事はゆるしません

しげむろ ゆうき
恋愛
 ある日、婚約者アルバン様が私の事を悪く言ってる場面に遭遇してしまい、ショックで落ち込んでしまう。  しかもアルバン様が悪口を言っている時に側にいたのは、美しき銀狼、又は冷酷な牙とあだ名が付けられ恐れられている、この国の第三王子ランドール・ウルフイット様だったのだ。  だから、問い詰めようにもきっと関わってくるであろう第三王子が怖くて、私は誰にも相談できずにいたのだがなぜか第三王子が……。 ○○sideあり 全20話

舌を切られて追放された令嬢が本物の聖女でした。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。

腹に彼の子が宿っている? そうですか、ではお幸せに。

四季
恋愛
「わたくしの腹には彼の子が宿っていますの! 貴女はさっさと消えてくださる?」 突然やって来た金髪ロングヘアの女性は私にそんなことを告げた。

わたしを捨てた騎士様の末路

夜桜
恋愛
 令嬢エレナは、騎士フレンと婚約を交わしていた。  ある日、フレンはエレナに婚約破棄を言い渡す。その意外な理由にエレナは冷静に対処した。フレンの行動は全て筒抜けだったのだ。 ※連載

今日も旦那は愛人に尽くしている~なら私もいいわよね?~

コトミ
恋愛
 結婚した夫には愛人がいた。辺境伯の令嬢であったビオラには男兄弟がおらず、子爵家のカールを婿として屋敷に向かい入れた。半年の間は良かったが、それから事態は急速に悪化していく。伯爵であり、領地も統治している夫に平民の愛人がいて、屋敷の隣にその愛人のための別棟まで作って愛人に尽くす。こんなことを我慢できる夫人は私以外に何人いるのかしら。そんな考えを巡らせながら、ビオラは毎日夫の代わりに領地の仕事をこなしていた。毎晩夫のカールは愛人の元へ通っている。その間ビオラは休む暇なく仕事をこなした。ビオラがカールに反論してもカールは「君も愛人を作ればいいじゃないか」の一点張り。我慢の限界になったビオラはずっと大切にしてきた屋敷を飛び出した。  そしてその飛び出した先で出会った人とは? (できる限り毎日投稿を頑張ります。誤字脱字、世界観、ストーリー構成、などなどはゆるゆるです) hotランキング1位入りしました。ありがとうございます

幼い頃に魔境に捨てたくせに、今更戻れと言われて戻るはずがないでしょ!

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 ニルラル公爵の令嬢カチュアは、僅か3才の時に大魔境に捨てられた。ニルラル公爵を誑かした悪女、ビエンナの仕業だった。普通なら獣に喰われて死にはずなのだが、カチュアは大陸一の強国ミルバル皇国の次期聖女で、聖獣に護られ生きていた。一方の皇国では、次期聖女を見つけることができず、当代の聖女も役目の負担で病み衰え、次期聖女発見に皇国の存亡がかかっていた。

【完結】妹が旦那様とキスしていたのを見たのが十日前

地鶏
恋愛
私、アリシア・ブルームは順風満帆な人生を送っていた。 あの日、私の婚約者であるライア様と私の妹が濃厚なキスを交わすあの場面をみるまでは……。 私の気持ちを裏切り、弄んだ二人を、私は許さない。 アリシア・ブルームの復讐が始まる。

処理中です...