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第3章 人と人とが行き交う街 アザレア

3-41(幕間 後書き)緊急依頼! ローデ討伐ミッション

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 ◇

「うっうっうっ……」
「泣くなよ、デイジー。また冒険者として、頑張っていけばいいだろ?」
「でっでも兄さん、私、冒険者ギルドの仕事が好きなの……」

 会場の隅で泣き続けるデイジーの背に、優しく手を添える兄のコブシ。

 優勝して、酒豪ローデを1ヶ月間禁酒にし、アザレアの酒の供給過多を止めて、アザレアに貢献する――。そうして胸を張って冒険者ギルドに返り咲くという、デイジーの目論見は儚くも散ってしまった。

 いつも妹に巻き込まれているコブシも、デイジーがギルド職員としていかに楽しく働いていたのか知っているために、愛しい妹が不憫でならない。

「うっうっうっうっ」
「デイジー……」


「デイジー、コブシ」

 悲しみに暮れる兄妹へ、声をかけたのは――うさみだった。
 うさみの脇には、心配そうな顔を浮かべたミミリとゼラもいる。

「はい、デイジー、受け取って」

「ぐすっ……、ぐすっ……、え――?」

 デイジーは、うさみからずっしりと重い小袋を受け取った。受け取る拍子にチャリン、と音がする。

「――もしかして、お金?」

 クスリ、と優しく微笑むうさみ。
 先程まで見せていた守銭奴の一面はなく、いつもどおりのうさみに戻っていた。

「ええ、そうよ。デイジーにあげようと思って」

「「それは……いくらなんでも……」」

 揃って声を上げたデイジーとコブシの言葉を遮るように、ちょっと照れ臭そうにうさみは言った。

「んもー。スーパープリティラビットうさみちゃんに二言はないのよッ! あげるったらあげるの。これをアザレアに寄付するなり何なりして、社会貢献して、胸張って冒険者ギルドに戻りなさいッ」
 
 涙が溢れる兄妹に、その代わり、とうさみは続ける。

「冒険者ギルドで元気に笑顔で働く姿、私たちに見せてよねん」

「「う、うさみちゃん……」」


 ――こうして、本当の意味で円満に、第1回酒ワングランプリは終了した。
 デイジーとコブシの、感謝とともに……。

 ◇ ◇ ◇

 ――アザレアの工房に、明かりが灯る。
 
 デイジー復職への影の功労者としての噂は一瞬のうちに広まって、名実ともにアザレア一の工房となるのだが……、それぞれが大役を果たした今日のところは、とりあえず、羽を休めて一休み。

「お疲れ様、ミミリ、うさみ。うさみ、カッコよかったぞ! 可愛いし、優しいし、最高のうさぎだな」
「んも~! 恥ずかしいからやめてちょうだいっ。この、スケコマシ」
「ふふふ。うさみったら~。……2人とも、大好きだよっ」

 ミミリの微笑みで、うさみとゼラの心にも、明かりが灯る。

「「「それじゃあ今日は、おつかれさま。かんぱーい」」」

 ミミリたちは【魅惑のはちみつジュース】で、今日という日を労い合った。

「また、明日からたくさんたくさん、頑張ろうね」
「そうだな、頑張ろう」
「ええ、もちろんッ」

 ――今日は本当に、お疲れ様――
 

 
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