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14. 愛の告白
しおりを挟む「……ユディットは思い出したのか?」
だが、お見舞いに来てくれた時のユディットからはそのような様子は一切感じなかった。
ただ、ひたすら僕の心配をしてくれて……
「いえ……無意識に口走っただけかと思われます」
「なんて?」
「無理してまた倒れたらどうする、と言ったら……私は昔からいつも元気で、それが取り柄だったんですから……と」
「昔から元気……」
その言葉を聞いて、あぁ……と思う。
───ユディット・ノーマンド公爵令嬢は昔から病弱だった。
ユディットのその発言はこの部分と大きく矛盾してしまっている。
「おそらく、口にしたユディット自身も覚えていないのでは? と思ってはいますが」
「そうか無意識……僕は……全て消えてしまったのだと思っていた」
───何の話ですか? 私は私ですよ?
たまらず、君は変わらないね……と口にしてしまった僕に、ユディットはそう答えた。
(その通りなんだ……君は君なんだよ)
たった一人。僕がずっと愛してる人。
「……ローラン。僕はもう少し様子を見よう、と思う」
「殿下……」
「ユディットが無意識にそう口走ったという事は、“受け入れる覚悟”が出来始めたからなんじゃないだろうか?」
療養があけて僕の婚約者となったばかりの時のユディットと、今のユディットでは顔つきが変わったように思う。
特に最近のユディットは……なんだか強くなった気がする。
以前はふとした時にどこか逃げていってしまいそうだったのに、今は僕の側にいたい……そう言ってくれた。
「受け入れる覚悟……ですか?」
「……もしかしたら、ユディット自身も、自分の事を少しおかしいと思っている……かもしれないだろう?」
「ユディットが……」
「僕はたとえ嘘をついてでも、ユディットの心も身体も守りたい。その思いはずっとずっと変わらない」
────あなた、誰? え、私? 私は───……
僕の脳裏にあの日の“彼女”の姿が浮かんだ。
僕は、あの日……人生で初めて奇跡への感謝と絶望を同時に味わうという体験をした。
「承知しました、殿下」
「ありがとう。でも、何かあった時はすぐに教えてくれ。特に……怪しい女……ロベリアの件は」
(彼女の目的は……僕かユディットか……はたまた両方なのか……)
…………だが、ユディットを傷付けることだけは絶対に許さない!
「はい、目を光らせておきます」
「うん」
「それでは、俺は手紙を届けに来ただけなので……失礼します」
そう言ってローランが部屋から出て行こうとするので、僕は慌てて呼び止める。
「……ローラン! “ユディット・ノーマンド公爵令嬢”は病弱だった……それは、ローラン……お前達、ノーマンド公爵家の者達が一番よく知っている」
「え? ……はい、そうですね」
ローランが昔を思い出したのか、切なそうな表情を浮かべながら頷く。
当時、ユディットの患っている病気は不治の病と言われ、このままでは成人を迎えるのは難しい……医者からは常にそう言い聞かされていたという。
(ジュディスもユディットの心配ばかりしていたな……)
ユディが、ユディがって。
何度、話を聞かされただろう。
「すまなかった」
「殿下……?」
「そして、ありがとう」
僕が頭を下げるとローランが慌てだした。
「殿下……頭をあげてください! 大丈夫です、俺は“お兄ちゃん”なんです」
「……あぁ、知っている」
ヘクトール陛下……当時は殿下だったが……と“妹は可愛い”という話で二人が意気投合したと聞いた時にそんな事を言っていたな……
兄の気持ち……こればっかりは僕には分からないが。
「……ローラン、これを」
「はい?」
そう言って僕は手に持っていた物をローランに手渡す。
“それ”を見たローランがハッとした。
「殿下……これは……」
「ヘクトール陛下からローラン宛の手紙だ。一緒に同封されていた」
「……ヘクトール様が……俺に。それって……」
ローランが僕の顔を見たので僕はしっかり頷く。
手紙を貰ったローランは嬉しそうだった。
❋❋❋❋
「最近、お兄様が機嫌が良いのです」
バーナード様が、熱に倒れてから三日後。
私は、お妃教育の合間にバーナード様の元に会いに行った。
「そうなんだ?」
「はい、無茶を言って殿下の元に駆け付けた日も、帰って来たら絶対にお小言を言われると覚悟していたのですけど、怒られなかったのです!」
私がそう話すと、バーナード様がクスッと笑った。
「ユディットが怒られなくて良かった……そして、先日は僕のためにありがとう。嬉しかった」
「!」
「おかげですっかり元気になったよ。ユディットのおかげだね」
バーナード様が、今にも蕩けそうな甘い瞳で私を見つめながら、そんな事を口にする。
(ま、また! そんな目を……)
自分でも分かる。私の頬は赤くなった。
執務室内には他の人もいるのに、バーナード様には見えていないのでは? と、時々思う。
「ユディット……そんなに恥ずかしがらなくてもいいじゃないか。まだ、慣れない?」
「こ、ここでは……ほ、他に人がいますので……目が」
「あぁ、人……」
キョロっと辺りを見回すバーナード様。
本当に周りの目を気にしていなかったんだわ。
うーん、と考えた様子のバーナード様が何かを思いついたのか、ニコッと笑った。
「じゃあ……二人っきりになれる所に行こうか?」
「……え?」
バーナード様はそう言って私の手を取ると、執務室から出て行く。
「え、で、殿下……公務は……?」
「ん? 少しだけだよ。ユディットと息抜きしたらちゃんと戻る」
手を繋いだまま、バーナード様はずんずんと歩いて行く。
いったいどこに行こうとしているの?
(ふ、二人っきりだなんて───……!)
私の心臓は今までにないくらいバクバク鳴っていた。
────
…………なんて、ちょっとはしたない考えが頭に浮かんでしまっていた私だけど、バーナード様が口にした二人っきりになれる場所は、王宮の奥庭の庭園だった。
「庭園……」
「びっくりした? ここは、王族の許可が無いと入れないからね」
「……」
「だから、二人っきり」
そう言ってバーナード様が悪戯っ子のような表情で笑う。
もしかしたら、私がちょっとはしたない事を考えてしまっていたのがバレているのかも。
(それはそれで、ますます恥ずかしい!)
「ユディット、隣に座って?」
「~~!」
バーナード様は私の気も知らずに、呑気に隣に腰掛けるように勧めてくる。
(もう!)
そう思いながら、私はバーナード様の隣に座る。
そして、座ったと同時に抱きしめられた。
「──!?」
「ユディット……」
「でん……」
「僕は……君が好きだよ、ユディット」
(……え?)
突然の告白に私は目を丸くする。
「これまで、僕は君に愛情を示してきたつもりだったけど、ちゃんと言葉にしたことがなかった気がして」
「……!」
「それじゃ駄目だ、そう思った。だから……」
少し、身体を離したバーナード様が私の目を見つめる。
その目はどこまでも真剣だった。
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