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13. 何かを企んでいる?
しおりを挟む「あなた……ロベリア、よね?」
「……」
私の問いかけに相手は答えない。
答えないけれど、私は絶対に彼女だと確信している。
(どうして王宮に……)
「ロベリア!」
私がもう一度名前を呼んだら、ようやく彼女が答えた。
「……そんなに何度も呼ばなくても聞こえています、ユディット様……」
「それなら私の質問に答えて? なぜ、あなたがここにいるの?」
「……」
ロベリアが、そっと私から視線を逸らす。
「わ、私、ユディット様と顔を合わせる事はきつく咎められていますけど、外を出歩く事までは禁止されていません」
「だとしても、何故王宮にいるの? と聞いているのよ」
「な、失くした記憶の手がかり……そう、手がかりの為です! 王宮に行かなくちゃ……そう思ったからです」
その言葉に一瞬だけドキッとした。
普通の人は失くした記憶の手がかりに王宮に行こう! などとは考えない。
(いいえ、落ち着くのよ……ロベリアは、ジュディス王女じゃない……絶対に違う)
私の中でそう確信はしているけれど、少し思う事がある。
───ロベリアは、本物の王女では無いけれど、王女と関係する人なのかもしれない、と。
「……それで? 何か記憶を取り戻す手がかりはあったの?」
「い、いいえ……」
「何か思い出した事は?」
「い、いいえ……」
話にならない。
これは下手に他の誰かと鉢合わせする前に、連れ帰った方がいい。
そう思った。
もし、ジュディス王女の顔を知っている人に見つかったら、ますます変な噂が広がってしまう。
(……バーナード様が部屋で療養中で良かったわ……)
さすがにロベリアがバーナード様の部屋に近付くという事は出来ないし、バーナード様も今日はもう部屋から出ないはず。
だから二人が顔を合わせることは……無い。
その事だけは良かったと安堵した。
「なら、もう王宮にいても意味は無いでしょう? 帰りましょう」
「え? で、でも……私、もう少し……」
「ここは、用もなくフラフラする所ではないわ! そもそも、どうやって通してもらったの?」
「それは……ユディット様の使いだと言えば通してくれましたよ?」
「……私の?」
(そういうこと……)
ロベリアは、きっと殿下の話を聞いて私が慌てて王宮に向かったのを聞いていたんだわ。
それに便乗してやって来た───
(……本当に何を考えているの)
「ユディット様って凄いんですね。名前を出すだけで──……」
「ロベリア! 勝手に私の名前を使わないで!」
「え? でもー……」
「これ以上、勝手なことをすれば外出だって禁止になるわよ?」
「……!」
さすがにそれは嫌だったようで、ロベリアは悔しそうな表情で俯いた。
「仕方ない……今日はもう…………でも、待ってて………………様」
「ロベリア? 何か言った?」
ロベリアの発した言葉はあまりにも小さすぎてよく聞こえなかった。
「───いいえ? 何も」
顔を上げた時のロベリアのその微笑みがとても不気味に見えた。
❋❋❋❋❋
「殿下、ドゥルモンテ国のヘクトール陛下から手紙が届いております」
熱を出して倒れてしまった後、愛しのユディットと入れ替わるようにして、ローランが僕の部屋にやって来た。
目が覚めて容態が落ち着いたと聞いて様子を見に来たようだ。
「殿下、今日くらいは休んでいて下さい。また、倒れるつもりですか?」
「……ベッドの中にいるじゃないか。ここからは動いてない」
「そういう問題じゃないと思うんですが?」
ローランが呆れた顔で手紙を僕に手渡す。
「返答かな……ジュディスの噂の件と……」
「はい。この国に現れたジュディス王女にそっくりの女……ロベリアに関する件の返事でしょう」
「……」
ロベリア……
記憶喪失だと言って突然現れた謎の女のせいで、僕はユディットのお見舞いに行けなかった。
その恨みは深い。
(ユディットが倒れたと聞く度に僕の胸は締めつけられる……)
無事な姿をこの目で見ないと安心出来ない。
もう、ジュディスの時のようなあんな思いと後悔するのだけは絶対にごめんだ。
そんな事を思いながら、僕はヘクトール陛下からの手紙を開封した。
「……ローラン。陛下の手紙によると、行方不明らしい」
「行方不明……ですか?」
そのロベリアという女の素性に、もしかして……と心当たりがあった僕は、ヘクトール陛下にとある人物の行方を聞いていた。
そして本日戻って来たその返答は“行方不明”
「ロベリアの正体は十中八九、この女だろう」
「そんなにも、その女は昔からジュディス王女と似ていたのですか?」
「いや……」
……ジュディスと似ていたのは髪の毛の色だけだったと思ったが……
僕の記憶違いだろうか?
(……ん?)
僕はヘクトール陛下が同封してくれた女の報告書に目を通していたら、ある事に気付いた。
これは……偶然か?
「ローラン。その記憶喪失女の“ロベリア”という名前は誰がつけたんだ?」
「ユディットです」
「ユディットが?」
「はい。庭に咲いていた花から取った……と言っていましたが……それが何か?」
「いや……それなら、さぞかし驚いた事だろうと思ってね」
「?」
ローランは首を傾げながら、話題を変えてきた。
「それで、ドゥルモンテ国で噂の件はどのような様子なのですか?」
「噂が流れ始めている事は、陛下も知っていて懸念していたらしい」
手紙には我が国にまで混乱を招いてしまい申し訳ないと書かれている。
だが、これはあくまでも噂。
ジュディスがもういない事は、陛下だって分かっている。
「どこから出た噂なのかは調査中……広がりすぎて時間がかかりそうだ」
「……ヘクトール陛下もようやく事件の傷が癒え、やっと手に入れた新婚生活を満喫中のはずなのに……いまだ心労が絶えませんね」
「ローラン……」
ローランが切なそうな顔でそう口にした。
ヘクトール陛下は最近結婚したばかりの新婚だ。
「……陛下はジュディスをとにかく可愛がっていたからね。まぁ、それはどこかの誰かと同じようなものだろうけどね」
僕はじっとローランを見る。
「……うっ! ……コホッ………殿下には分からないと思いますが、い、妹というのは可愛い存在なのですよ! そ、それより、殿下……ユディットの事ですが……」
「何だ?」
ユディットに何かあったのかとドキッとする。
「それが……こちらが止めるのも聞かずに殿下の元に駆け付けようとした際……ちょっと様子が」
「様子が?」
聞き返した僕にローランが目を伏せながら言った。
「殿下…………嘘をつき続けるのは、そろそろ限界なのかもしれません」
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