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11. 事件は既に起きていた

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  その後も、エリィ様は何かと私とルシアンの前に現れては接触を試みようとするけれど、私もルシアンも彼女を警戒してとにかく避け続けていた。

  (ルシアンはエリィ様の特殊能力の事を魔術師協会に報告するとは言っていたけれど)

  今から話を聞いて動き出したのではもう色々と遅かった気がする。
  だって、エリィ様は相変わらず多くの人を既に引き連れているのだから。

  (……あれ?  そう言えば……)

  そこで私はふと気付いた。

「ねぇ、ルシアン。私、最近リシェリエ様の姿を見ていない気がするわ」
「え?  そういえば……見ていないな」

  リシェリエ様は、当初こそアレンディス殿下の件でエリィ様によく絡んでいたのに、最近はめっきりその姿を見かけなくなっていた。
  まさか、取り巻きの中に?  と思ったけれどそこにもリシェリエ様の姿は無い。

「リシェリエ様の取り巻きだった方達は、エリィ様の元にいるのに。何でリシェリエ様だけいないのかしら?」
「まさか、学院にも来ていないのか……?」
   
  私とルシアンは顔を見合わせる。
  だって、こんなの嫌な予感しかしない。

「……」
「……」

  衝突していた2人。
  対となる光属性と闇属性の使い手。
  これは──

「ル、ルシアン……!」
「……」

  私達は再び顔を見合わせてから黙り込む。おそらく同じような事を考えているはず。

「か、考え過ぎ……よね?」
「……」

  (お願いだから黙り込まないで何か言って欲しい……)

  リシェリエ様はアレンディス殿下の事でかなり落ち込んでいたから、たまたま学院を欠席しているだけ。
  欠席していたからエリィ様と接触する機会が無かっただけ。


  ───そう思いたかったのに。
  事態は私達が思っていたよりも深刻な事になっていた。






  それから、数日後。
  学院にラモニーグ公爵……リシェリエ様のお父様がルシアンに会いたいと訪ねて来た。
  内密に呼び出されて公爵と話をしたルシアンは、とても酷い顔色で教室に戻って来た。

「ルシアン、顔色が真っ青よ!?」
「……あぁ」
「大丈夫?」
「…………あぁ」

  これは、全然大丈夫じゃない。

  (公爵様は何の用で訪ねていらしたのだろう。やはり、リシェリエ様の事?)

  でも、私が口を出せる事では無いし……と、頭を悩ませていたら顔色が悪いままのルシアンが私に向かって言った。

「フィーリー。頼みがある」
「え、何?」
「公爵からは許可を貰った」
「許可?  公爵様?」

  意味が分からず私は首を傾げる。

「そうだ。明日の休みに俺と一緒にラモニーグ公爵家へ行ってくれないか?」
「え!?」

  ルシアンのその頼みに私は目を丸くして驚きの声をあげた。



*****



「……それで?  ちゃんと説明してくれるんでしょうね?」

  翌日。
  私とルシアンは共にラモニーグ公爵家へと向かっている。
  馬車は、ルシアンの家であるハフェス侯爵家が出してくれた。まぁ、平民の私にはどうする事も出来なかったのでそこは素直に甘える。

「……昨日、ラモニーグ公爵が学院に俺を訪ねて来ただろう?」
「えぇ」
「公爵は、そこで俺に頼み事をしたんだ」
「頼み事?  ルシアンに?」

  私が、よく分からない……という顔をすると、ルシアンは苦笑しながら続けた。

「俺の鑑定スキルが必要らしい」
「は?  え、あぁ、スキル。え?  でもそれって……」

  ラモニーグ公爵様がルシアンの鑑定スキルを必要とする事態って何?

「…………リシェリエ嬢に関する事だ」
「!!」
「今、彼女は深い眠りについている……らしい」
「眠り!?」
「何をしても全く目覚めないらしい。だから、俺の力で原因を探って欲しいとの要請だったんだ」

  ……なるほど!
  だから、ルシアンだったのね。
  リシェリエ様の魔力はそこそこと言っても、王族の婚約者となるほどで一般よりは強い為、その辺の鑑定スキル持ちの人間では弾かれてしまって調べる事が出来なかったという事だろう。
  ようやく納得した。でも……

「……ん?  ちょっと待って?  ルシアンが呼ばれた理由は分かったけれど、それなら何で私まで連れてくる必要があったの?  それも、わざわざ公爵様の許可までとって」

  私の疑問にルシアンは、何かを思案するような仕草と表情をした後、ようやく口を開いた。
  その顔はとても真剣だったので、胸がドキッとした。

「……フィーリーの力が必要になる気がしたんだ」
「え?」
「はっきり言ってただの勘だ。理由は分からないけどな」
「!」

  ルシアンはそう言って自嘲気味に笑った後は黙り込んでしまった。

  (ルシアン……)

  前々から感じてはいたけど、ルシアンは本能で私の隠している力に気付いているのかもしれない。
  そんな風に改めて思ったけれど、追求されても嫌なので私もそのまま口を閉じた。





  ラモニーグ公爵家に着くと、挨拶もそこそこに私達は公爵様にリシェリエ様の部屋に通された。

「……かれこれ2週間になります」
「2週間も!?」

  そう説明されたリシェリエ様は確かに眠っていた。
  そんな長い間……

「この2週間、王家にも相談したり、伝手を使って人を呼んだりと色々、試したのですが、そもそもの原因を探る事も出来ず……」

  公爵様はとても、やつれていた。

「何をしても、誰がどんな魔術をかけても目覚めません。辛うじて私の力を注ぎ込む事で今は何とか生きながらえていますが、どうしても限界があります。このままではリシェリエはどんどん衰弱していき、やがては……」

  ラモニーグ公爵様は辛そうに、そして悔しそうにそう口にした。
  確かに、眠っているリシェリエ様は明らかに衰弱していて、魔術の力でかろうじてどうにか命を繋いでいる様に感じた。
  
  (公爵様も闇属性なのね。それでも出来る事はリシェリエ様の衰弱を遅らせるだけ……)

「…………リシェリエ様」

  あんなに元気だったのに。
  正々堂々と立ち向かって来ていたあのリシェリエ様のあの姿が嘘みたいだ。

「……力を使う。少し静かにしていてくれるか?」
「はい」
「分かったわ」
「ありがとう。では……」

  そして、静かにルシアンが鑑定の力を使った。

「……」

  少しの間、部屋は静寂に包まれた。
  そして、粗方鑑定し終えたルシアンは「ふぅ……」と一息つく。

「……闇の力だ」
「え?」
「リシェリエ嬢は闇の力で眠っている」
「何だって!?」

  ルシアンの言葉に私も公爵様も驚きを隠せない。
  リシェリエ様は闇属性の力を持っている。そんな方が自分の力で眠っている?
  どうしたら、そんな事態になり得るの?

「公爵殿、2週間前……眠りに着く前にリシェリエ嬢を訪ねて来た人物はいなかったのでしょうか?」
「娘にですか……?」

  ルシアンの質問に公爵様は顎に手を当てながら、うーんと記憶を辿る。

「あぁ、そう言えばリシェリエの学院のクラスメートを名乗る生徒が1人訪ねて来ていたとは聞いたが……」
「!」
「それは誰ですか!?」

  私とルシアンに詰め寄られた公爵様は戸惑っている。

「ほら、えっとあの……そうだ!  最近見つかったと言う希少な光の使い手!  マドリガル男爵家の養女になったと言う女生徒だ」
「「!!」」

  ────エリィ様だ!!

  私とルシアンは思わずそう叫び出しそうになった。

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