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私こそが王太子妃に相応しい! (エリザベス視点)

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  たかが身代わりのくせに私と半分だけ血の繋がった妹とやらが騒いだせいだろう。

「エリザベス様!  大丈夫ですか!?」

  扉をドンドンと叩かれた。
  どうやら、この身代わりの妹は扉の前に護衛を配置していたらしい。
  なんて面倒な事を……してるのよ。

「あなた、護衛を用意していたの?」
「……」

  身代わりは答えない。
  答えないけど、今すぐにでも蹴破られそうなドアを叩いているのは間違いなく護衛の声だ。

  (用意周到ね……油断ならない子)

  私は着ていたローブを脱いで、お父様に叩かれた衝撃で床にへたり込んでいる身代わりに無理やり着せる。
  フードを被せて顔が見えなくなった事を確認してから私は扉から顔を出す。

「……お騒がせしてごめんなさい。ちょっとお父様とお会いするのが久しぶりだったから話が白熱してしまったの。何でもないのよ?」
「そ、そうですか……?」

  護衛はあんまり納得いっていない顔をする。
  
  (大丈夫って言っているんだからさっさと引き下がりなさいよっ!!)

「その通りだ。すまない、娘に会えた嬉しさでつい騒いでしまった」

  お父様が助け舟を出してくれた。
  その際にへたり込んでいる身代わりの姿もさり気なく身体で隠してくれているわ!
  なんて有難いの。さすがお父様ね!

「もう、話は終わったから大丈夫よ。私は部屋に戻るわ。一緒に来てくれる?」
「……は、はっ!」

  ちょうどいい。このままこの護衛に部屋まで案内させましょう。

「では、お父様」
「あぁ、エリザベスまたな。──行くぞ」

  最後の言葉は身代わりに向けて、お父様も部屋を出る準備をする。

  (ふふん、あの身代わり、生意気な事を言っていたけどお父様に叩かれて大人しくなったわね)

  何が全てを話すべき、よ。
  冗談じゃないわよ。
  王太子妃になれるのよ?  それを手放すなんて馬鹿な真似するわけないでしょう?

  (卑しい女の血をひく平民女には、分からないでしょうけどね!)






  私は、エリザベス・マクチュール。
  マクチュール侯爵家の娘。
  一人娘だと思っていた。だけど、実は異母妹がいたらしい。

  どうやらその妹とやらは、昔、この侯爵家で働いていたメイドとお父様の子供らしい。
  お父様はメイドに手を出した事がお母様にバレて散々怒られ、そのメイドはクビになったらしいけど。

  存在だけは知っていた妹。
  だけど、侯爵家を追い出され、平民として暮らしているらしいその妹とは会う事も関わる事も一生無いと思っていた。


  ──私が王太子殿下の婚約者と決定したとの話が来るまでは。



「エリザベス!  王家から連絡が来たぞ!  婚約者としてお前が決定したらしい!」
「は?」

  その日、お父様から告げられた言葉に心の底から驚いた。
   私が殿下の……婚約者?  
 
「お、お父様……本当に?」
「あぁ、間違いない!  エリザベス・マクチュール侯爵令嬢と書いてある!」

  私が王太子妃に!?
  ゆくゆくは王妃!  この国の一番の女性になれる!
  素晴らしいわ!

「殿下には噂があったからな……だが、まさかお前が射止めるとは!  さすがだ、エリザベス」
「当然よ!」

  王太子殿下は、昔会った初恋の女性が忘れられないから婚約者を作りたがらない……そんな噂があったけど、ついに婚約者が選ばれた。それが私!!
 
  (私の絵姿に一目惚れでもしたのかしらね、ふふ)

  最高だわ!  私が王太子妃!!
  
  (……って、ちょっと待って?  ……しまった、私!)

「さぁ、王宮に上がる準備だ、エリザベス!  ……って、どうしたんだ顔色が悪くなったぞ?」

  お父様が怪訝そうに私を見る。
  それもそのはず。今、私の顔色はとても悪い。

  (まずいわ……がバレてしまったら私は王太子妃になれない)

  でも、私は王太子妃になりたい!
  たとえ、殿下を騙してでも。

  その為には……ちょっとだけ時間が必要だ。
  仕方ないわ。お父様には話さないと。
  
「……お父様……実は大事な話があるのです」
「何だ?」
「実は───」





  お父様とお母様には怒られたけれど仕方が無いわ。
  だけど、二人とも私を王太子妃にしたい気持ちは同じ。だからこそ時間稼ぎに協力してくれる事になった。
  なので、私が晴れて王宮に上がれるようになるまで替えの存在が必要となる。

  (下手な事を言って婚約を引き延ばして外されるなんて冗談じゃないもの)

  そこで目に付けたのが、永遠に会う事がないと思っていた妹だった。


   平民の異母妹を侯爵令嬢に仕立て上げるのは並大抵なことでは無い。
   そこはどうにかお父様が嘘の報告をして何とかなったらしい。

   (まさか、今すぐ王宮に上がれなくても待ってもらえるなんてね!  そんなにも殿下は私を望んでいるのかしら?  これなら身代わり用意しなくても良かったかも……)

  やっぱり殿。そう思うと笑いが止まらなくなった。

  とりあえず異母妹を教育する為、侯爵家に連れてくるらしい。
  私がその場にいるわけにはいかないので、ひっそりと領地に籠る事にした。



  ──実を言えば、私が心配していた事はすぐに解決した。
  そう。少なくとも異母妹が私の振りをして王宮に上がる頃には戻っても問題ない頃合いだった。

  (せっかくだから、もう少し自由を満喫したいわ~)

  王宮に上がればきっと王太子妃教育とやらが待ってるに違いない。
  勉強なんて面倒。
  公務も何もかも他の人が私の代わりにやればいいと思う。

「そうよ!  王太子妃教育も異母妹身代わりにやらせればいい!」

  適度な所までを身代わりの異母妹にやらせて、私はそれらが終わった後にでも入れ替われば楽できるのでは?
  そう考えた。
  なので、私は出来る限り入れ替わりまでを引き延ばすことに決めた。


***



  引きこもり領地生活は数ヶ月もすると暇になり、時々、隣の領地に顔を出すなどして私は過ごした。
 そして、王宮では婚約披露パーティーも開かれたという。

  (ここまで来れば安泰ね!)

  しかも、お父様によると殿下は“エリザベス”を気に入っているらしい。

「身代わりのくせにやるわね……ふふ、まぁ、元々見初められたのは私だから当然だけどね!  今でも気に入られてるなら本物に入れ替わった後はもっと愛されまくりが確定ね!」

  正直、王太子殿下からの愛は期待していなかったけどこれは嬉しい誤算だった。






「エリザベス!  急な話だが明日から殿下が隣国に行くらしい!  これは入れ替わるのに最適だ!  準備を急げ!」
「まぁ!」

  その日、身代わりの異母妹が王宮に上がった後、こっそり屋敷に戻って来ていた私にお父様が興奮しながらそう告げた。
  そろそろこの生活も退屈だったのでちょうどいい頃合だわ。


  ───そうして、私とお父様は王宮に乗り込んだ。
  入れ替わり……いえ、正しい形へと戻す為に。








「……地味な部屋ね」

  無事に入れ替わりは成功した。
  
  (何故かお父様を“エリザベス”に取り次がないように殿下が言い残していたのが気になるけど)

「部屋も地味ながら、ドレスまで地味!  何なのこれ?」

  “エリザベス”の部屋に案内されてまず、最初にそう思った。
  どれもこれも私の趣味では無い。

「殿下ったら私の事を全く分かっていないわ!  これは早急に改善を求めないと……」

  あの身代わりは、用意された物を特に文句も言わずに過ごしたに違いない。

「私になりきるならその辺もしっかりやってくれないと困るのよ!  使えない子!」

  まぁ、あの子の役目は終わった。
  今度こそ二度と会う事は無い。
  だって、私達とは住む世界が違うから。

「……そう言えばお父様はあの身代わりをどうするつもりなのかしら?」

  入れ替え完了後にどうするつもりなのか聞いていなかった事に気付く。

「ま、いいわ。私には関係ないもの」

  王太子妃になるのも私。
  殿下に愛されるのも私。

  全部、相応しいのは私なのだから!

「ふふ、早く殿下戻って来ないかしら?  会えるのが楽しみだわ。ふふふふ」


  ──私のこれからはバラ色の日々よ!


  と、この時はそう信じていた。

  
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