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第22話 愚かな勘違い男の再試験
しおりを挟む開始の合図と共に試験問題を見た俺は固まった。
(───は? 待て。これはどういう事だ?)
この試験は特例による特別措置だから難易度は上げる……確かそう言っていた。
だから俺は、どうやら要点を纏めるのが素早いリーファの手を借りようと会いに行って、死にそうな目にまであった。
だが……
(……ははっ! なんて事だ。これは……! ははは!)
そうかそうか……奴らは俺を脅すような口振りだったが、本音はこの俺を落とす気なんて全く無かったんだな?
全くだ。冷や冷やさせやがって。拍子抜けしたぞ?
───再試験……なんて簡単な問題なんだ! スラスラ解けるじゃないか!
俺はスラスラと問題を解いていく。
二次試験の時は全く分からなかったのが嘘のようだ。
(まともに勉強が出来なかったと言うのに!)
結局、あれから、あのアクィナス伯爵家の強面の大男の顔がなかなか頭から離れてくれず、俺は残りの日々、まともに勉強に集中出来なかった。
色々不安だったがこんなにも問題が簡単ならリーファの元に行く必要なんて無かったじゃないか!
無駄に恥と命を危険に晒しただけだったな……
しかし、なぜこんな簡単な問題ばかりなのだろうか?
いや、違う。簡単なのではない。きっとこの俺が優秀だからに違いない!
一次試験……やはり、リーファは関係なかったのだ! 俺の実力なんだ!
俺はそう確信した。
(こうなると、やはり二次試験の結果は何かの間違いだった、と言うことか)
試験中だというのにさっきから笑いが止まらない。
試験官たちはこの俺の解答を見てさぞかし驚くことだろう。
ティモン・モズレーはやはり当初見込んだ通りの男で、期待通り優秀な奴だ……とな!
(ははっ! あまりにも簡単すぎて試験時間はこんなにいらないぞ!)
さっさと終わらせれば、ローゼに会いにいく時間を早められるかもしれないな。
試験時間をたくさん余らせておきながら、完璧な解答……これはもう俺が誰よりも優秀だと認めざるを得ないだろう。
(ははははは!)
俺は心の中で笑いが止まらなかった。
そうして、試験が開始して三十分ほど経った時、俺は全ての問題を解き終えた。
終わってみれば、何だか一次試験より楽勝だった気がした。
だが、試験時間はまだまだ残っている。さすが俺……優秀過ぎる。
軽く見直しもしてみたが、抜けもないし特に問題も無さそうだ。
(何がひっかけ問題も出しますだ……どこがだ! どこにあったのか全く分からなかったぞ? 無駄に脅しやがって!)
優秀な俺の実力を試すのが目的だったのなら最初からそう言えば良かったものを……回りくどい事をする奴らだ。
まぁ、いい。ここで俺の実力を示せたのだから良しとしよう!
(さて、そろそろいいか)
「───すみません。全ての解答が終わりましたので、まだ時間内ではありますがもう終了とし、帰っても宜しいでしょうか?」
「え!?」
俺が手を挙げて目の前の試験官に声をかけると、驚いた顔をされた。
後ろに控えている試験官たちもざわついている。
「ほ、ほ、本当に全て解き終えたのですか?」
「はい」
そう言って俺は全て解答済みの用紙を見せる。
試験官はそれを受け取って一枚一枚確認していく。
「た…………確かに全て解答されてはいるようですが……こんなに早く……?」
「見直しまで終えたのでもうこれ以上はする事がないので、ここで切り上げさせて頂いても宜しいでしょうか?」
俺がそう訴えると試験管は少し考えた後、俺に訊ねる。
「……本当によろしいのですか?」
「ああ!」
(早くローゼに会いたいからな!)
もう、俺の頭の中は数日ぶりにのローゼとのお楽しみの時間のことで一杯になっている。だから、早く俺を帰してくれ!
「……本当に後悔しませんか?」
「ああ!」
「……後になって、もっと時間はあったはずだ! などと言っても通用しませんよ?」
「ああ!」
(しつこい試験官だな……もういいと言ってるんだからさっさと帰らせろよ!)
その試験官は困った顔をしながら、他の試験官とも話し合いを始めていた。
そして少し待たされたがようやく結論が出たようだ。
「では、ティモン・モズレー殿。あなたの特例措置による再試験はこれにて終了となります。最後の確認ですが、本当に宜しいのですね?」
「ああ!」
(だって、こんな簡単な問題なんだぞ? 絶対に合格間違い無しだからな!)
俺は満面の笑みで頷きながらそう答えた。
───
(ははは! ようやく終わったぞ!)
試験から解放された俺はローゼと待ち合わせている宿に急いで向かう。
「ローゼ!」
「え? ティモン……? もう試験終わったの? 早かったのね?」
予め伝えていた時間よりも早く俺がやって来た事にローゼは目を丸くして驚いていた。
「試験は? どうだった? 大丈夫だったの?」
「ああ! もうバッチリだ! 俺の実力を見せつけられたはずだ!」
俺が自信満々に答えたのでローゼはホッとしたのか俺に抱きついてきた。
「ふふっ……ティモン、素敵だわ!」
「ははは! ありがとう、ローゼ! これで俺は未来の官僚、間違い無しだ。優秀過ぎて何か優遇されるかもしれないぞ」
「ティモン……!」
「ローゼのおかげさ」
そう言ってオレはそのまま、ローゼをベッドに押し倒す。
「ん……ティモンのせっかち……」
「ははは、いいだろう? ここのところ会えていなかったんだからさ」
「ふふ、そうだけどー……」
ローゼともお預け生活で、結局、リーファとも出来なかったからな。
「ローゼ……結果発表では世間がきっと俺の凄さに驚くに違いないぞ! 楽しみにしていてくれ!」
「まあ! 凄いわね、ふふ、楽しみ!」
俺の今回の試験結果は他の奴らの二次試験の結果発表と同時に行われるらしい。
(あぁ、結果発表の時が楽しみだな)
皆からの尊敬の眼差し……想像するだけで笑いが止まらない。
「ローゼ……」
「ふふ、ティモン……」
ローゼにキスをしようとして、ふと頭の中にリーファの地味な顔が浮かんだ。
リーファ……俺はこれから皆から尊敬され、一目置かれる存在となる。
あの二日間、頑なに俺に会わないと言った事を後悔しても今更、遅いんだぞ?
あの時、素直に俺を招き入れていれば、一度きりのお情けを与えてやったのにな……
俺は自分の合格を確信し、頭の中ではまだ俺に未練タラタラなリーファが後悔する姿を想像しながらほくそ笑んでいた。
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