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丸め込まれてます

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 カイが帰ってからもトレーニングは続き、途中で昼食をはさみ、夕方になるころに全てのドミノを並べきった。

「ふむ、たしかに全てのドミノが並べられていますね」

 ドミノで一杯の床を見回して、ヒスイがパチパチと拍手をしだした。

「お疲れ様でした、元帥」

「ああ、本当に疲れたよ……」

 我ながら、回復してもらったとはいえ、筋肉痛の状態でよくここまで並べられたなぁ……。

「それでは、今日のトレーニングはここまでです」

「そうか」

「ちなみに、明日からはまた、光の聖女人形殿を抱きかかえてのランニングですからね」

「そうか……」

「距離は昨日よりも長くなる予定ですので、どうかお楽しみに!」

 ……ヒスイめ、笑顔で恐ろしいことを言ってくれて。
 でも、ミカエラと二人で元の世界に帰るためなんだから、仕方ないか。ただ、なんとなくミカエラの方が究極魔法の素質みたいなのがあるっぽい気がするし……、私のやってることって意味あるのかな……?

「……元帥、どうか究極魔法を習得なさってくださいね」

「あ、うん。そうだ……な?」

 あれ?
 ヒスイ、なんでこんなに淋しそうな顔してるんだ?
 今日のトレーニング、なにかまずかったのかな……。

「なあ、ヒスイ、今日のトレーニ……」

「それでは、私は夕食の支度を手伝いにまいりますので、ドミノのお片付けをお願いいたします」

「えぇぇぇぇ……」

 反射的に、ものすごく嫌そうな声が出ちゃったよ……。

「ふふふ、元帥。お片付けまでがトレーニングですよ。それでは、私はこれで」

「あ、ちょっと待って!」

 制止の言葉も聞かずに、ヒスイは大広間を出ていった。
 さっきの表情の意味を聞くどころか、文句の言葉すら言えずじまいになっちゃったけど……、今は片付けを優先しよう。モタモタしてると、夕飯までに終わりそうにないから……。

 それから、筋肉痛で震える身体でドミノをかき集めて片付け、夕食を済ませ、長めに入浴して部屋に戻った。

 今日もなんだかんだで疲れたから、このまま寝ちゃいたいけど――

「ミカエラ、もし見てるなら、私の通信機に連絡してくれる?」

 ――抗議だけはしておこうかな。

  ガタガタガタガタ

 ミカエラ人形に向かって話しかけると、鏡台の上に置いた通信機が震えだした。
 うん、やっぱり見てたみたいだね。

「やっほー、サキ! 元気してた?」

 通信機を耳に当てると、楽しげなミカの声が響いてきた。
 まったく……。

「やっほー、じゃないよ、もう……」

「あれ、どうしたの? そんなに疲れた声だして……、はっ! 私に二日も会えないから、淋しかったんだね!?」

「いや、疲れの原因はそれじゃなくて……」

「やったー! 淋しかったこと自体は否定してない! やっぱり、私たちってラブラブ!」

「ミカエラ、ちょっとだけでいいから話を聞いて……」

「ふふふ、ごめんごめん。それで、どうしたの?」

「どうしたのも、なにも、人形に監視機能なんてつけないでよ……」

「えぇ!? 監視機能ダメだったの!? なんで!?」

「……むしろ、なんでいいと思ったのか、小一時間ほど問い詰めたい」

「えー、だって、大好きな人の全てを知りたいって思ったから……」

「ミカエラ……、なにかの法に引っかかりそうなことは、本当に控えようよ……」

「ふっふっふ、この世界では、愛の力ははどんな法も超えるのだよ」

「まあ、この世界は色々とファンタジーだからいいけど……、元の世界に戻ったときにこんな調子だと、色々まずいでしょ?」

「……うん。そうだね!」

 返事になんか間があったような……。まさか、元の世界に戻っても監視的なことをするつもりなんじゃ……。いや、でもさすがのミカエラでもそこまではしないか。

「でもさー、サキ。監視機能のおかげで、筋肉痛の治療にカイを派遣できたんだよ?」

「あー……、まあ、その件はたしかに……、ありがとう……」

「いえいえ! 光の聖女が魔法を用いてまで元帥さんのことを監視してたのは無理して身体を壊しちゃわないか心配してたからなんですからね!」

「web小説のタイトルみたいなセリフで、いいわけしないで……」

「でも、本当にサキのことが心配なんだよ?」

「まあ、心配してもらえるのはありがたいけど……」

「それに、監視できるのは人形が一緒のときだけだから、お風呂とかのものすごくプライベートな部分は見てないよ?」

「まあ、そうなのかもしれないけど……」

「分かった! じゃあ、サキが大丈夫なところまでしか見ないから!」

「じゃあ……、まあ、トレーニング中くらいなら……」

「わーい! やったー!」

「……なんか、ものすごく丸め込まれた気がするのは、気のせいかな?」

「気のせい、気のせい!」

「でも、せっかくなら監視機能じゃなくて、相互通信できるような機能にしてくれれば、休憩中とかお喋りできたのに」

「あ……、その手があったか……」

「その手があったかって……、もしかして、今気づいたの?」

「サキの可愛い姿を記録することに執心しすぎて、忘れちゃってた! てへ!」

「オーケー、ミカエラ。記録してるものは、全部消そうか」

「えー!? なんで、そんな酷いことを!?」

「友人の行動を無許可で撮影するのは、酷くないこととでも?」

「うー……、でも、人形の置き場に困ってさんざん悩んだあげく、結局は添い寝をすることになったときの、ちょっと照れた可愛い顔だけは残してもいいよね?」

「よくない! 恥ずかしいから消して! 記録からも、記憶からも!」

「分かった……。ちぇー、せっかく一生の思い出にしようと思ったのになー」

「お願いだからそんな物騒な思いでの作り方をしないで……、ほら、元の世界に帰る前でも、平和条約の調印が終われば、究極魔法を使う前に二人で遊びに行ったりとかできるだろうし」

「……うん。そうだね!」

 ……なんか、また返事に間があったような。

「それじゃあ、サキも疲れてるだろうし、今日はこのへんで」

「あ、うん。そうだね、ミカエラもトレーニングお疲れ様」

「ふっふっふ、サキのためならなんそのだよ! それじゃあ、おやすみ!」

「うん、おやすみ、ミカエラ」

 通信を切ると、昨日と同じように部屋の中がやけに静かに感じた。
 なんかまた、いいように丸め込まれた気がするけど……、無防備な状態で監視される可能性はなくなったし、録画は消すという言質が取れただけでもよしとすることにしようか……。
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