【百合】男装の麗人にして悪役令嬢ですが困ってます

鯨井イルカ

文字の大きさ
25 / 40

丸め込まれてます

しおりを挟む
 カイが帰ってからもトレーニングは続き、途中で昼食をはさみ、夕方になるころに全てのドミノを並べきった。

「ふむ、たしかに全てのドミノが並べられていますね」

 ドミノで一杯の床を見回して、ヒスイがパチパチと拍手をしだした。

「お疲れ様でした、元帥」

「ああ、本当に疲れたよ……」

 我ながら、回復してもらったとはいえ、筋肉痛の状態でよくここまで並べられたなぁ……。

「それでは、今日のトレーニングはここまでです」

「そうか」

「ちなみに、明日からはまた、光の聖女人形殿を抱きかかえてのランニングですからね」

「そうか……」

「距離は昨日よりも長くなる予定ですので、どうかお楽しみに!」

 ……ヒスイめ、笑顔で恐ろしいことを言ってくれて。
 でも、ミカエラと二人で元の世界に帰るためなんだから、仕方ないか。ただ、なんとなくミカエラの方が究極魔法の素質みたいなのがあるっぽい気がするし……、私のやってることって意味あるのかな……?

「……元帥、どうか究極魔法を習得なさってくださいね」

「あ、うん。そうだ……な?」

 あれ?
 ヒスイ、なんでこんなに淋しそうな顔してるんだ?
 今日のトレーニング、なにかまずかったのかな……。

「なあ、ヒスイ、今日のトレーニ……」

「それでは、私は夕食の支度を手伝いにまいりますので、ドミノのお片付けをお願いいたします」

「えぇぇぇぇ……」

 反射的に、ものすごく嫌そうな声が出ちゃったよ……。

「ふふふ、元帥。お片付けまでがトレーニングですよ。それでは、私はこれで」

「あ、ちょっと待って!」

 制止の言葉も聞かずに、ヒスイは大広間を出ていった。
 さっきの表情の意味を聞くどころか、文句の言葉すら言えずじまいになっちゃったけど……、今は片付けを優先しよう。モタモタしてると、夕飯までに終わりそうにないから……。

 それから、筋肉痛で震える身体でドミノをかき集めて片付け、夕食を済ませ、長めに入浴して部屋に戻った。

 今日もなんだかんだで疲れたから、このまま寝ちゃいたいけど――

「ミカエラ、もし見てるなら、私の通信機に連絡してくれる?」

 ――抗議だけはしておこうかな。

  ガタガタガタガタ

 ミカエラ人形に向かって話しかけると、鏡台の上に置いた通信機が震えだした。
 うん、やっぱり見てたみたいだね。

「やっほー、サキ! 元気してた?」

 通信機を耳に当てると、楽しげなミカの声が響いてきた。
 まったく……。

「やっほー、じゃないよ、もう……」

「あれ、どうしたの? そんなに疲れた声だして……、はっ! 私に二日も会えないから、淋しかったんだね!?」

「いや、疲れの原因はそれじゃなくて……」

「やったー! 淋しかったこと自体は否定してない! やっぱり、私たちってラブラブ!」

「ミカエラ、ちょっとだけでいいから話を聞いて……」

「ふふふ、ごめんごめん。それで、どうしたの?」

「どうしたのも、なにも、人形に監視機能なんてつけないでよ……」

「えぇ!? 監視機能ダメだったの!? なんで!?」

「……むしろ、なんでいいと思ったのか、小一時間ほど問い詰めたい」

「えー、だって、大好きな人の全てを知りたいって思ったから……」

「ミカエラ……、なにかの法に引っかかりそうなことは、本当に控えようよ……」

「ふっふっふ、この世界では、愛の力ははどんな法も超えるのだよ」

「まあ、この世界は色々とファンタジーだからいいけど……、元の世界に戻ったときにこんな調子だと、色々まずいでしょ?」

「……うん。そうだね!」

 返事になんか間があったような……。まさか、元の世界に戻っても監視的なことをするつもりなんじゃ……。いや、でもさすがのミカエラでもそこまではしないか。

「でもさー、サキ。監視機能のおかげで、筋肉痛の治療にカイを派遣できたんだよ?」

「あー……、まあ、その件はたしかに……、ありがとう……」

「いえいえ! 光の聖女が魔法を用いてまで元帥さんのことを監視してたのは無理して身体を壊しちゃわないか心配してたからなんですからね!」

「web小説のタイトルみたいなセリフで、いいわけしないで……」

「でも、本当にサキのことが心配なんだよ?」

「まあ、心配してもらえるのはありがたいけど……」

「それに、監視できるのは人形が一緒のときだけだから、お風呂とかのものすごくプライベートな部分は見てないよ?」

「まあ、そうなのかもしれないけど……」

「分かった! じゃあ、サキが大丈夫なところまでしか見ないから!」

「じゃあ……、まあ、トレーニング中くらいなら……」

「わーい! やったー!」

「……なんか、ものすごく丸め込まれた気がするのは、気のせいかな?」

「気のせい、気のせい!」

「でも、せっかくなら監視機能じゃなくて、相互通信できるような機能にしてくれれば、休憩中とかお喋りできたのに」

「あ……、その手があったか……」

「その手があったかって……、もしかして、今気づいたの?」

「サキの可愛い姿を記録することに執心しすぎて、忘れちゃってた! てへ!」

「オーケー、ミカエラ。記録してるものは、全部消そうか」

「えー!? なんで、そんな酷いことを!?」

「友人の行動を無許可で撮影するのは、酷くないこととでも?」

「うー……、でも、人形の置き場に困ってさんざん悩んだあげく、結局は添い寝をすることになったときの、ちょっと照れた可愛い顔だけは残してもいいよね?」

「よくない! 恥ずかしいから消して! 記録からも、記憶からも!」

「分かった……。ちぇー、せっかく一生の思い出にしようと思ったのになー」

「お願いだからそんな物騒な思いでの作り方をしないで……、ほら、元の世界に帰る前でも、平和条約の調印が終われば、究極魔法を使う前に二人で遊びに行ったりとかできるだろうし」

「……うん。そうだね!」

 ……なんか、また返事に間があったような。

「それじゃあ、サキも疲れてるだろうし、今日はこのへんで」

「あ、うん。そうだね、ミカエラもトレーニングお疲れ様」

「ふっふっふ、サキのためならなんそのだよ! それじゃあ、おやすみ!」

「うん、おやすみ、ミカエラ」

 通信を切ると、昨日と同じように部屋の中がやけに静かに感じた。
 なんかまた、いいように丸め込まれた気がするけど……、無防備な状態で監視される可能性はなくなったし、録画は消すという言質が取れただけでもよしとすることにしようか……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生したら乙女ゲームの主人公の友達になったんですが、なぜか私がモテてるんですが?

山下小枝子
恋愛
田舎に住むごく普通のアラサー社畜の私は車で帰宅中に、 飛び出してきた猫かたぬきを避けようとしてトラックにぶつかりお陀仏したらしく、 気付くと、最近ハマっていた乙女ゲームの世界の『主人公の友達』に転生していたんだけど、 まぁ、友達でも二次元女子高生になれたし、 推しキャラやイケメンキャラやイケオジも見れるし!楽しく過ごそう!と、 思ってたらなぜか主人公を押し退け、 攻略対象キャラからモテまくる事態に・・・・ ちょ、え、これどうしたらいいの!!!嬉しいけど!!!

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな
恋愛
 オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。 見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!  殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。 ※糖度甘め。イチャコラしております。  第一章は完結しております。只今第二章を更新中。 本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。 本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。 「小説家になろう」でも公開しています。

転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎

水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。 もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。 振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!! え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!? でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!? と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう! 前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい! だからこっちに熱い眼差しを送らないで! 答えられないんです! これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。 または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。 小説家になろうでも投稿してます。 こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。

義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話

よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。 「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。

政治家の娘が悪役令嬢転生 ~前パパの教えで異世界政治をぶっ壊させていただきますわ~

巫叶月良成
ファンタジー
政治家の娘として生まれ、父から様々なことを学んだ少女が異世界の悪徳政治をぶった切る!? //////////////////////////////////////////////////// 悪役令嬢に転生させられた琴音は政治家の娘。 しかしテンプレも何もわからないまま放り出された悪役令嬢の世界で、しかもすでに婚約破棄から令嬢が暗殺された後のお話。 琴音は前世の父親の教えをもとに、口先と策謀で相手を騙し、男を篭絡しながら自分を陥れた相手に復讐し、歪んだ王国の政治ゲームを支配しようという一大謀略劇! ※魔法とかゲーム的要素はありません。恋愛要素、バトル要素も薄め……? ※注意:作者が悪役令嬢知識ほぼゼロで書いてます。こんなの悪役令嬢ものじゃねぇという内容かもしれませんが、ご留意ください。 ※あくまでこの物語はフィクションです。政治家が全部そういう思考回路とかいうわけではないのでこちらもご留意を。 隔日くらいに更新出来たらいいな、の更新です。のんびりお楽しみください。

処理中です...