26 / 40
王子様なんて・その四
しおりを挟む
サキとは中学の間、ずっと同じクラスだった。
だから、どんな行事のときも、一緒に行動してた。
遠足でも、文化祭でも、修学旅行でも……、課外活動でも。
他のやつらとは距離を置いてたから、ずっと二人きりで。
そんな中、三年のころ、職業体験ということで、近くの保育園にいくことになった。
職業体験なんていっても、私たちがするのは子供の遊び相手くらいだったけど。
ただ、小さな子供はあんまり得意じゃないから、憂鬱だった。
でも、サキが一緒だから、我慢しようと思った。
職業体験の当日、子供たちのキーキー高い声に、挨拶の時点で帰りたくなった。
でも、隣にいたサキは、顔色一つ変えずに、ニコニコしていた。
遊び相手になるときも、本当に楽しそうに笑ってた。
「ねえ、サキ」
「ん? どうしたの、ミカ」
「子供たちに囲まれてたけど、大変じゃなかった?」
職業体験が終わって、なんとなくそんな質問をしてみた。
「うん、別に大変とは思わなかったな」
「ふーん、そうなんだ。私は、ちょっと疲れたかな。小さい子って苦手だし」
「あー、それだと今日の職業体験はつらいよね」
サキは、小さい子供が苦手、と言う私を責めることなく、笑顔でうなずいてくれた。
「私は、けっこう子供好きだから、そんなに苦じゃなかったよ」
それから、笑顔のまま、そんなことを言った。
子供が好き、か。
優しくて、格好良くて、しかも母性があるなんて、サキは完璧超人かなにかなんだろうか……。
……あれ?
母性が、ある?
「ミカ、どうしたの? 急に黙り込んだりして」
「あ、ごめん、ごめん、なんでもないよ! ただ……」
「ただ?」
「サキって、きっといいお母さんになるんだろうな、って感心してたんだ!」
「な、ちょ、ちょっと変なこと言わないでよ!」
そう言いながらも、サキの表情は照れくさそうだった。
このとき、分かってしまった。
サキとはずっと一緒にいられない……、いたらいけないと。
もしも、サキに告白したら、きっと受け入れてくれるはず。
サキも、私に特別な感情を持っているのは、気づいてるから。
そうすれば、サキと一緒にいられる時間は長くなる。
上手くいけば、もっと大人になっても、サキを独占できるかもしれない。
でも、それだと、いいお母さんになる、というサキの可能性を潰してしまうことになる。
……ひょっとしたら、サキは「そんなこと気にしないで」って言ってくれるかもしれない。
でも、大好きな人の可能性を潰すなんてことはしたくない。
だから、自分から想いを伝えることは絶対にしないと決めた。
いつか、サキに好きな人ができたら、笑ってこの場所を明け渡そうと。
それからは、一歩距離を置いて接するように心がけた。
控えていた乙女ゲームにも、また手をつけるようになった。
サキへの恋心を諦めて、少し淋しくなったから。
そんな状態で、二人して同じ高校に受かったころに、このゲームが発売された。
改めて思い返しても、本当にいいゲームだったなぁ……。
ストーリーも好きだったし、闇の元帥も格好良かったし、戦闘システムがまさかの縦シューティングなおかげで、サキも興味を持ってくれたし……。
それに、サキへの想いを闇の元帥への想いとして、本人の前で語れるようになったし、コスプレに乗じてイチャイチャする算段も立てられたし。
……でも、そんなことをしていても、むなしさが増すだけだった。
結局、私の想いは叶えたらいけないんだから。
だから、あのとき――
「光の聖女様、カイ、筋肉痛の治療に来ました」
――突然聞こえた声で我に返った。
振り返ると、緊張した表情のカイが、杖を握りしめながら立っていた。
窓辺に座って星をながめてると、光の勇士が部屋に来るフラグでも立つのかな?
「あ、あの、カイ、お邪魔でしたか?」
「ううん、大丈夫だよ。気遣ってくれてありがとう。あ、それと、元帥さんの治療をしてくれて、ありがとうね」
「いえいえ! カイ、光の聖女様のお役に立ちたいですから!」
「ふふふ、そう言ってもらえると嬉しいね」
「喜んでもらえたら、なによりです! でも……」
「でも、どうしたの?」
「でも……、カイ、あの計画には、反対です!」
珍しく凜々しい表情をして、なにを言うかと思えば……。
「あの計画って、なんのこと?」
「とぼけないでください! カイ、お人形にメッセージを吹き込んでるの、聞いちゃったんですから!」
「ああ、じゃあ、私がサキだけを元の世界に帰そうとしてるっていうの、知ってるんだね」
「それだけじゃ、ないですよね!?」
……そこまで詳しく聞かれてたのか。
「だって、あの計画だと、光の聖女様は……」
「カイ、私の目を見て」
「……えっ?」
目を覗き込んだ瞬間、カイの動きが止まり、目が虚ろになっていく。
「貴方は、なにも見ていないし、なにも聞いていないし、知らない……、いいわね?」
「はい……、カイは、なにも、見ていないし……、聞いていないし……、知りません……」
よし。上手く、暗示魔法がかかってくれたみたいだ。
「はい! じゃあ、カイは自分の部屋にもどろうか」
「はい……。あれ? そういえば、カイなんでここに来たんでしたっけ?」
「やだなー、カイったら! おやすみを言いに来てくれたんでしょ!」
「あれ……? そう、ですよね……。じゃあ、おやすみなさい、光の聖女様」
「うん、おやすみー!」
首をかしげながらも、カイは納得して部屋を出ていってくれた。
あんまりムダな魔力は使いたくなかったけど、今回ばかりは仕方ないよね。
あの計画は、サキのためにも、絶対に成功させないといけないんだから。
ちょっとだけ、未練があるのはたしかなんだけどね……。
だから、どんな行事のときも、一緒に行動してた。
遠足でも、文化祭でも、修学旅行でも……、課外活動でも。
他のやつらとは距離を置いてたから、ずっと二人きりで。
そんな中、三年のころ、職業体験ということで、近くの保育園にいくことになった。
職業体験なんていっても、私たちがするのは子供の遊び相手くらいだったけど。
ただ、小さな子供はあんまり得意じゃないから、憂鬱だった。
でも、サキが一緒だから、我慢しようと思った。
職業体験の当日、子供たちのキーキー高い声に、挨拶の時点で帰りたくなった。
でも、隣にいたサキは、顔色一つ変えずに、ニコニコしていた。
遊び相手になるときも、本当に楽しそうに笑ってた。
「ねえ、サキ」
「ん? どうしたの、ミカ」
「子供たちに囲まれてたけど、大変じゃなかった?」
職業体験が終わって、なんとなくそんな質問をしてみた。
「うん、別に大変とは思わなかったな」
「ふーん、そうなんだ。私は、ちょっと疲れたかな。小さい子って苦手だし」
「あー、それだと今日の職業体験はつらいよね」
サキは、小さい子供が苦手、と言う私を責めることなく、笑顔でうなずいてくれた。
「私は、けっこう子供好きだから、そんなに苦じゃなかったよ」
それから、笑顔のまま、そんなことを言った。
子供が好き、か。
優しくて、格好良くて、しかも母性があるなんて、サキは完璧超人かなにかなんだろうか……。
……あれ?
母性が、ある?
「ミカ、どうしたの? 急に黙り込んだりして」
「あ、ごめん、ごめん、なんでもないよ! ただ……」
「ただ?」
「サキって、きっといいお母さんになるんだろうな、って感心してたんだ!」
「な、ちょ、ちょっと変なこと言わないでよ!」
そう言いながらも、サキの表情は照れくさそうだった。
このとき、分かってしまった。
サキとはずっと一緒にいられない……、いたらいけないと。
もしも、サキに告白したら、きっと受け入れてくれるはず。
サキも、私に特別な感情を持っているのは、気づいてるから。
そうすれば、サキと一緒にいられる時間は長くなる。
上手くいけば、もっと大人になっても、サキを独占できるかもしれない。
でも、それだと、いいお母さんになる、というサキの可能性を潰してしまうことになる。
……ひょっとしたら、サキは「そんなこと気にしないで」って言ってくれるかもしれない。
でも、大好きな人の可能性を潰すなんてことはしたくない。
だから、自分から想いを伝えることは絶対にしないと決めた。
いつか、サキに好きな人ができたら、笑ってこの場所を明け渡そうと。
それからは、一歩距離を置いて接するように心がけた。
控えていた乙女ゲームにも、また手をつけるようになった。
サキへの恋心を諦めて、少し淋しくなったから。
そんな状態で、二人して同じ高校に受かったころに、このゲームが発売された。
改めて思い返しても、本当にいいゲームだったなぁ……。
ストーリーも好きだったし、闇の元帥も格好良かったし、戦闘システムがまさかの縦シューティングなおかげで、サキも興味を持ってくれたし……。
それに、サキへの想いを闇の元帥への想いとして、本人の前で語れるようになったし、コスプレに乗じてイチャイチャする算段も立てられたし。
……でも、そんなことをしていても、むなしさが増すだけだった。
結局、私の想いは叶えたらいけないんだから。
だから、あのとき――
「光の聖女様、カイ、筋肉痛の治療に来ました」
――突然聞こえた声で我に返った。
振り返ると、緊張した表情のカイが、杖を握りしめながら立っていた。
窓辺に座って星をながめてると、光の勇士が部屋に来るフラグでも立つのかな?
「あ、あの、カイ、お邪魔でしたか?」
「ううん、大丈夫だよ。気遣ってくれてありがとう。あ、それと、元帥さんの治療をしてくれて、ありがとうね」
「いえいえ! カイ、光の聖女様のお役に立ちたいですから!」
「ふふふ、そう言ってもらえると嬉しいね」
「喜んでもらえたら、なによりです! でも……」
「でも、どうしたの?」
「でも……、カイ、あの計画には、反対です!」
珍しく凜々しい表情をして、なにを言うかと思えば……。
「あの計画って、なんのこと?」
「とぼけないでください! カイ、お人形にメッセージを吹き込んでるの、聞いちゃったんですから!」
「ああ、じゃあ、私がサキだけを元の世界に帰そうとしてるっていうの、知ってるんだね」
「それだけじゃ、ないですよね!?」
……そこまで詳しく聞かれてたのか。
「だって、あの計画だと、光の聖女様は……」
「カイ、私の目を見て」
「……えっ?」
目を覗き込んだ瞬間、カイの動きが止まり、目が虚ろになっていく。
「貴方は、なにも見ていないし、なにも聞いていないし、知らない……、いいわね?」
「はい……、カイは、なにも、見ていないし……、聞いていないし……、知りません……」
よし。上手く、暗示魔法がかかってくれたみたいだ。
「はい! じゃあ、カイは自分の部屋にもどろうか」
「はい……。あれ? そういえば、カイなんでここに来たんでしたっけ?」
「やだなー、カイったら! おやすみを言いに来てくれたんでしょ!」
「あれ……? そう、ですよね……。じゃあ、おやすみなさい、光の聖女様」
「うん、おやすみー!」
首をかしげながらも、カイは納得して部屋を出ていってくれた。
あんまりムダな魔力は使いたくなかったけど、今回ばかりは仕方ないよね。
あの計画は、サキのためにも、絶対に成功させないといけないんだから。
ちょっとだけ、未練があるのはたしかなんだけどね……。
0
お気に入りに追加
63
あなたにおすすめの小説
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
悪役令嬢に転生したのですが、フラグが見えるのでとりま折らせていただきます
水無瀬流那
恋愛
転生先は、未プレイの乙女ゲーの悪役令嬢だった。それもステータスによれば、死ぬ確率は100%というDEATHエンド確定令嬢らしい。
このままでは死んでしまう、と焦る私に与えられていたスキルは、『フラグ破壊レベル∞』…………?
使い方も詳細も何もわからないのですが、DEATHエンド回避を目指して、とりまフラグを折っていこうと思います!
※小説家になろうでも掲載しています
かしましくかがやいて
優蘭みこ
恋愛
紗久良と凜はいつも一緒の幼馴染。夏休み直前のある日、凜は授業中に突然倒れ救急車で病院に運び込まれた。そして検査の結果、彼は男の子ではなく実は女の子だったことが判明し、更に男の子のままでいると命に係わる事が分かる。そして彼は運命の選択をする……
ゲームの序盤に殺されるモブに転生してしまった
白雲八鈴
恋愛
「お前の様な奴が俺に近づくな!身の程を知れ!」
な····なんて、推しが尊いのでしょう。ぐふっ。わが人生に悔いなし!
ここは乙女ゲームの世界。学園の七不思議を興味をもった主人公が7人の男子生徒と共に学園の七不思議を調べていたところに学園内で次々と事件が起こっていくのです。
ある女生徒が何者かに襲われることで、本格的に話が始まるゲーム【ラビリンスは人の夢を喰らう】の世界なのです。
その事件の開始の合図かのように襲われる一番目の犠牲者というのが、なんとこの私なのです。
内容的にはホラーゲームなのですが、それよりも私の推しがいる世界で推しを陰ながら愛でることを堪能したいと思います!
*ホラーゲームとありますが、全くホラー要素はありません。
*モブ主人のよくあるお話です。さらりと読んでいただけたらと思っております。
*作者の目は節穴のため、誤字脱字は存在します。
*小説家になろう様にも投稿しております。
私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~
あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。
「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?
悪役令嬢なので舞台である学園に行きません!
神々廻
恋愛
ある日、前世でプレイしていた乙女ゲーに転生した事に気付いたアリサ・モニーク。この乙女ゲーは悪役令嬢にハッピーエンドはない。そして、ことあるイベント事に死んでしまう.......
だが、ここは乙女ゲーの世界だが自由に動ける!よし、学園に行かなければ婚約破棄はされても死にはしないのでは!?
全8話完結 完結保証!!
【完結】【R18】同窓会で会った元クラスメイトたちが、とてつもなくエロい件
船橋ひろみ
恋愛
【エロシーンを読みたい方へ】タイトルのはじめに※がついています。ちなみに大抵のシーンはエロシーンです。
戸塚隼人、30代半ばで独身。地元飲料メーカーに勤める、スイーツ好きのお気楽営業マン。
そんな平凡で退屈なルートセールスの日々を変えたのは、何気なく参加した数ヶ月前の同窓会だった。
再会したかつての同級生達は卒業後、それぞれの日々を送りながら、隼人の前で熟れきった性欲をさらけ出すのだった。
人妻で欲求不満のかおり。バツイチ女教師で男性不信の清美、独身でキャリアウーマンの佳苗……美熟女達に囲まれた隼人の愛欲を描く、30代の性春ロマン。
※「小説家になろう」と重複投稿しています。こちらの版は「小説家になろう」版に加筆修正したものです。
※挿し絵はAIイラストを使っています。
【完結】悪役令嬢の妹に転生しちゃったけど推しはお姉様だから全力で断罪破滅から守らせていただきます!
くま
恋愛
え?死ぬ間際に前世の記憶が戻った、マリア。
ここは前世でハマった乙女ゲームの世界だった。
マリアが一番好きなキャラクターは悪役令嬢のマリエ!
悪役令嬢マリエの妹として転生したマリアは、姉マリエを守ろうと空回り。王子や執事、騎士などはマリアにアプローチするものの、まったく鈍感でアホな主人公に周りは振り回されるばかり。
少しずつ成長をしていくなか、残念ヒロインちゃんが現る!!
ほんの少しシリアスもある!かもです。
気ままに書いてますので誤字脱字ありましたら、すいませんっ。
月に一回、二回ほどゆっくりペースで更新です(*≧∀≦*)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる