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王子様なんて・その四

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 サキとは中学の間、ずっと同じクラスだった。
 だから、どんな行事のときも、一緒に行動してた。
 遠足でも、文化祭でも、修学旅行でも……、課外活動でも。
 他のやつらとは距離を置いてたから、ずっと二人きりで。
  
 そんな中、三年のころ、職業体験ということで、近くの保育園にいくことになった。
 職業体験なんていっても、私たちがするのは子供の遊び相手くらいだったけど。
 ただ、小さな子供はあんまり得意じゃないから、憂鬱だった。
 でも、サキが一緒だから、我慢しようと思った。

 職業体験の当日、子供たちのキーキー高い声に、挨拶の時点で帰りたくなった。
 でも、隣にいたサキは、顔色一つ変えずに、ニコニコしていた。
 遊び相手になるときも、本当に楽しそうに笑ってた。 
 
「ねえ、サキ」

「ん? どうしたの、ミカ」

「子供たちに囲まれてたけど、大変じゃなかった?」

 職業体験が終わって、なんとなくそんな質問をしてみた。

「うん、別に大変とは思わなかったな」

「ふーん、そうなんだ。私は、ちょっと疲れたかな。小さい子って苦手だし」

「あー、それだと今日の職業体験はつらいよね」

 サキは、小さい子供が苦手、と言う私を責めることなく、笑顔でうなずいてくれた。

「私は、けっこう子供好きだから、そんなに苦じゃなかったよ」

 それから、笑顔のまま、そんなことを言った。
 子供が好き、か。
 優しくて、格好良くて、しかも母性があるなんて、サキは完璧超人かなにかなんだろうか……。

 ……あれ?
 母性が、ある?

「ミカ、どうしたの? 急に黙り込んだりして」

「あ、ごめん、ごめん、なんでもないよ! ただ……」

「ただ?」

「サキって、きっといいお母さんになるんだろうな、って感心してたんだ!」

「な、ちょ、ちょっと変なこと言わないでよ!」

 そう言いながらも、サキの表情は照れくさそうだった。


 このとき、分かってしまった。
 サキとはずっと一緒にいられない……、いたらいけないと。


 もしも、サキに告白したら、きっと受け入れてくれるはず。
 サキも、私に特別な感情を持っているのは、気づいてるから。
 そうすれば、サキと一緒にいられる時間は長くなる。
 上手くいけば、もっと大人になっても、サキを独占できるかもしれない。

 でも、それだと、いいお母さんになる、というサキの可能性を潰してしまうことになる。

 ……ひょっとしたら、サキは「そんなこと気にしないで」って言ってくれるかもしれない。
 でも、大好きな人の可能性を潰すなんてことはしたくない。
 
 だから、自分から想いを伝えることは絶対にしないと決めた。
 いつか、サキに好きな人ができたら、笑ってこの場所サキの隣を明け渡そうと。

 それからは、一歩距離を置いて接するように心がけた。
 控えていた乙女ゲームにも、また手をつけるようになった。
 サキへの恋心を諦めて、少し淋しくなったから。

 そんな状態で、二人して同じ高校に受かったころに、このゲームが発売された。
 改めて思い返しても、本当にいいゲームだったなぁ……。
 ストーリーも好きだったし、闇の元帥も格好良かったし、戦闘システムがまさかの縦シューティングなおかげで、サキも興味を持ってくれたし……。
 それに、サキへの想いを闇の元帥への想いとして、本人の前で語れるようになったし、コスプレに乗じてイチャイチャする算段も立てられたし。

 
 ……でも、そんなことをしていても、むなしさが増すだけだった。
 結局、私の想いは叶えたらいけないんだから。
  
 
 だから、あのとき――

「光の聖女様、カイ、筋肉痛の治療に来ました」

 ――突然聞こえた声で我に返った。
 
 振り返ると、緊張した表情のカイが、杖を握りしめながら立っていた。
 窓辺に座って星をながめてると、光の勇士が部屋に来るフラグでも立つのかな?

「あ、あの、カイ、お邪魔でしたか?」

「ううん、大丈夫だよ。気遣ってくれてありがとう。あ、それと、元帥さんの治療をしてくれて、ありがとうね」

「いえいえ! カイ、光の聖女様のお役に立ちたいですから!」

「ふふふ、そう言ってもらえると嬉しいね」

「喜んでもらえたら、なによりです! でも……」

「でも、どうしたの?」

「でも……、カイ、あの計画には、反対です!」

 珍しく凜々しい表情をして、なにを言うかと思えば……。

「あの計画って、なんのこと?」

「とぼけないでください! カイ、お人形にメッセージを吹き込んでるの、聞いちゃったんですから!」

「ああ、じゃあ、私がサキだけを元の世界に帰そうとしてるっていうの、知ってるんだね」

「それだけじゃ、ないですよね!?」

 ……そこまで詳しく聞かれてたのか。

「だって、あの計画だと、光の聖女様は……」
「カイ、私の目を見て」
「……えっ?」

 目を覗き込んだ瞬間、カイの動きが止まり、目が虚ろになっていく。

「貴方は、なにも見ていないし、なにも聞いていないし、知らない……、いいわね?」

「はい……、カイは、なにも、見ていないし……、聞いていないし……、知りません……」

 よし。上手く、暗示魔法がかかってくれたみたいだ。

「はい! じゃあ、カイは自分の部屋にもどろうか」

「はい……。あれ? そういえば、カイなんでここに来たんでしたっけ?」

「やだなー、カイったら! おやすみを言いに来てくれたんでしょ!」

「あれ……? そう、ですよね……。じゃあ、おやすみなさい、光の聖女様」

「うん、おやすみー!」

 首をかしげながらも、カイは納得して部屋を出ていってくれた。
 あんまりムダな魔力は使いたくなかったけど、今回ばかりは仕方ないよね。
 
 あの計画は、サキのためにも、絶対に成功させないといけないんだから。
 ちょっとだけ、未練があるのはたしかなんだけどね……。
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