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第一章

え、クビ? その・一

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 一年と少し前、僕はずっと憧れてた王都最強と呼ばれるパーティーに入隊した。
 同期との折り合いはあまり良くなかったけど、前回の依頼ではリーダーのベルムさんと一緒に行動することができた。しかも、ターゲットの大型モンスターに、僕がとどめを刺したんだ。
 だから、きっと、リーダーも僕の実力を見て、感動したはずだ。


 それなのに――

「フォルテ、お前は本日付で解雇だ」

 ――リーダーが端正な顔に、わずらわしそうな表情を浮かべて、僕を見てる。
 これは、夢でも見てるんだろうか?
 

 でも、さっきから胃のあたりがキリキリ痛むし、夢じゃないのかも。なら、反論しないと……。

「なんでなんですか!? リーダー!」

 問い正すと、リーダーはわずらわしそうに銀髪の頭を掻いて、ため息をついた。

「なぜも何も、お前はうちのパーティーには必要ないからだ」

 ……必要ない?
 なんで、あれだけ活躍した僕が、そんなことを言われてるんだ?

「一応、言いたいことがあれば、聞いてやるぞ」

 言いたいこともなにも……。
 そうか、リーダーは、同期のやつらから、また何か吹き込まれたのかも。

「お言葉ですがリーダー、同期のやつらが、役立たずなんて言ってたのは、僕の固有スキルを上手く扱えないからじゃないですか! 本当の実力は、前回一緒に行動して、分かっていただけたでしょう!?」
 
「……お前の固有スキルは、ひるみ無効化、だったよな?」

「ええ。たしかに地味ですし、最近流行のスキルではありませんが、どんな攻撃を受けても痛みを感じずに、魔術の詠唱を続けられま……」

「そのスキルに頼りすぎた戦い方をした結果、前回の依頼で何があった?」

 突然、リーダーの声がいつもより低くなった。
 何があった、なんて言われたって……。

「お前は、魔力に敏感なモンスターが多い場所だからメインの攻撃は弓術師に任せてサポートに徹しろ、という命令を無視して、強力すぎる魔術を詠唱した」

 ……だって、弓術師みたいな地味な職にメインの攻撃を任せてたら、いつまで経っても倒せないじゃないか。
 いや、あの弓術師はリーダーと仲が良いから、言い返すのはやめておこう。

「そのおかげで、少し離れた場所にいた中型モンスターまでこちらに集まり、その場にいた全員を危険にさらした」

 ……でも、さすが、この言葉には聞きすごせない。

「なんだ? 不満があるなら言ってみろ」

「……それは、タンクであるリーダーが、もっとしっかり敵を引きつけていれば良かったんじゃないですか?」

「たしかに、敵を引きつけて、お前のような攻撃職や、回復職に攻撃がいかないようにするのは、タンクである俺の仕事だ。だから、装備や日々の訓練で、高い防御力や体力を維持しているさ」

 なんだ、自分の役割を分かってるんじゃないか。なのに、なんで僕のせいにしようとしてるんだよ?

「だがな、限度があるんだよ。想定外に引き寄せられた中型モンスター二十匹の相手まで、できるわけないだろ!」

 ……たしかに、そうなのかもしれない。
 でも……。

「だから……、リーダーの方には、中型モンスターを向かわせなかったじゃないですか……」

「向かわせなかったんじゃなくて、振り切れなかっただけだろ」

 リーダーがまたしても、ため息を吐く。

「それどころか、ターゲットの大型すらお前の方に向かおうとしていたんだぞ」

「……でも、結果的には無傷のうちに、僕の一撃でターゲットを倒したじゃないですか」

「それができたのは、弓術師のルクスがとっさに狙いを中型モンスターに変えたのと、回復術師のアンリが高度な保護魔法をかけてくれたおかげだろ。二人がいなければ……」

 ……また、あの弓術師の話か。
 たしかに、あの人の腕は良いのかもしれない。だけど、魔術の方が狙った場所に正確に攻撃を当てることができるはずだし、なんであんなに重用するんだろう? パーティーのサブリーダーにもなってるし……。
 

 ……ああ、そうだ。あの人も、このパーティーの最古参なんだっけ。
 だから、リーダーは、あの人のことをひいきしてるんだ。


 それなら、僕はどんなに頑張っても、評価されるはずないか。
 だったら……。

「……ん? 今、何か言ったか?」

「……だったら、僕なんて放っておけば、良かったじゃないですか」

 どうせ、サブリーダー以外の攻撃職なんて、人数あわせか足手まといとしか考えてないんだ。なら、わざわざ助けたりしなければよかったのに。
 
「あのな、パーティーで死人なんか出したら……」

 リーダーがため息まじりにまた何か言い出したけど、内容が頭に入ってこない。


「自分が死んだりせず、仲間も死なせないことを最優先にするってのが、このパーティーの掟なんだよ……」


 どうせ僕をけなして、サブリーダーのことを褒めてるんだろう。たしかに、こそこそと戦うのは、僕よりもあの人の方が向いてる。でも――

「俺からは以上だ。法律に則り、三ヶ月分の基本給料はまとめて支払うし、各種事務手続きも速やかに行う。だから、早く新しいところへ……」

「――だって、仕方ないじゃないですか」

 ――言葉が、思わずこぼれてしまった。

「ん?」

「僕の固有スキルを活かすためには、多少の危険があったとしても、あの戦い方をするしかないんですよ!」

 僕だって、スキルがこそこそとした戦い方向きなら、安全地帯から卑怯に戦っていたさ。
 でも、僕のスキルを活かすためには、モンスターの攻撃を顧みず勇敢に戦うしかないんだ。

「……危険があると分かっているなら、固有スキルにこだわった戦い方をしなければいいだけだろ? 固有スキルなんて使わなくても、戦う方法はいくらでもあるんだから」

「うっ……」

 たしかに、リーダーの言うとおりかもしれない。
 
 でも、怯み無効を使わない戦い方をするには――



「本当のところは、モンスターの攻撃を避けながら呪文を詠唱するトレーニングを続けるのがきついから、固有スキルと周りのサポートに頼り切っていただけなんだろ?」



 ――そんなこと、ほんの少ししか思っていない。

 でも、仕方ないじゃないか。僕は魔術は得意だけど、運動神経がいいわけじゃないんだから。
 それなのに、リーダーは軽蔑したように、僕を見つめてる。ずっと、憧れていた人に、こんな目を向けられるなんて……。

 

「違うか?」


「……うるさい! うるさい! ともかく、僕のことを認めないお前らが悪いんだ! 僕がいなくなってパーティーが壊滅状態になっても、もう戻ってやらないんだからな!」

 
 僕が叫んでも、リーダーの表情は変わらなかった。
 ふん、平然としていられるのも、今のうちだ。
 僕みたいな有能な人間を切り捨てたんだから、絶対に痛い目を見るんだからな!
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