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8.月下に微笑(わら)う女
私を信じて
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1
眩く照らされたEl Doradoのステージに、裸の愛理は気力とプライドだけを纏い立っていた。
乱れた長い黒髪は汗まみれの肌にへばり付き、試合前には完璧に施したメイクもとっくに剥がれ落ち、もはやすっぴんそのものだ。
残り時間は5分。スコアは1ー2で綺羅がリード。
それでも、愛理は勝負を諦めていない。
(私が選んだ道、私がやってきた事……それを美雪に教えてあげる!)
震える両脚を一歩ずつ、綺羅へと進めてゆく愛理。
その気迫に、綺羅は愛理を見つめたまま呆然と立ち尽くす。
(愛理……そんなになってまで、愛理がこのステージに立つ理由って……?)
2
ダンッ!
「はぁぁッ!!」
「うっ!?」
力強く踏み込み、愛理は棒立ちの綺羅目掛けて一気に突進する。
不意を突かれた綺羅は防御のために腰を引き、飛び込んできた愛理の身体を両手で受け止めるのが精一杯だ。
(甘いッ!)
愛理は体重を乗せた突進の勢いそのままに、綺羅を後方へと突き飛ばした。
ドォッ!!
「あぐッ!?」
背中からマットに倒れる綺羅。
そこに愛理が覆い被さるように伸し掛かる。
「うぐッ……愛理ッ……!」
「ふんッ!!」
ポジションを奪われまいと両手を伸ばして突き放そうとする綺羅だが、愛理のパワーの前ではその抵抗も無力に終わる。
仰向けの綺羅に上から抱きついた愛理は、息を切らせて半開きになった綺羅の唇に舌をねじ込んだ。
3
ジュルッ❤︎
「ふッ❤︎んむゥッ❤︎」
「んぅぅッ!?❤︎」
(愛理……ここでこんな……甘いキス……❤︎)
口腔に広がる愛理の味。鼻をくすぐる愛理の汗の匂い。溶け合うように吸い付く愛理の肌の温もり。
激しい闘いの最中に垣間見えた、「元カノ」の愛。
愛理は2人で過ごしたあの日々と、変わらぬ甘い口づけを綺羅に与えながら、手の平を重ねて指を絡める。
チュッ……パ……❤︎
「んッ❤︎……はァッ、はァッ……❤︎」
「あッ❤︎……うぅ……❤︎」
愛理が唇を離すと、綺羅は恨めしそうに上目遣いで愛理を睨む。
「……ふふ、欲しがりなのも変わらないわね❤︎美雪……」
「ズルい……こんな時に、そんな優しいキス……❤︎」
「私が選んだEl Dorado……美雪に教えてあげたいの。そして……私の選択を……信じてほしい……!」
クンッ……!
「うッ!?」
「ガマン比べ……最後まで突っ走るわよッ!!❤︎」
クチュッ……ズリュッ……❤︎
愛理は上体を反らせると同時に、仰向けに寝転ぶ綺羅の両脚の合間に自らの左脚を滑り込ませた。
互いの股間がガッチリと噛み合い、愛液に濡れそぼった陰唇同士がキスをする。
「おッ!?❤︎ほォォォ……ッ❤︎」
「あンッ❤︎こッ、これヤバッ……❤︎」
愛理が仕掛けた最後の責めは「松葉崩し」の体位。
しかも、より密着度を上げるため、綺羅の両手をしっかりと掴んで離さない。
性的興奮により肥大した両者の陰核がヌルヌルと擦れるたびに、愛理も綺羅も痺れるような快感に全身を震わせた。
「くゥゥッ❤︎んぅッ……あァァンッ!!❤︎」
(私が先にイッちゃうリスクだってある……でも、もうコレしかないッ!)
4
クチュッ❤︎クチュッ❤︎ズチュッ❤︎
包皮を剥かれた無防備な女体の核を、一心不乱に擦り付け合う愛理と綺羅。
「はァッ❤︎はァッ❤︎……あァァッ❤︎」
「おぉッ❤︎私のクリッ❤︎愛理のデカクリにッ❤︎潰されるッ❤︎」
品性などかなぐり捨てて、与えられた快楽だけをひたすら貪欲に求め合う雌の姿。
それでもなお、2人にはどちらとも「逃げる」という選択肢はなかった。
裸にプライドだけを纏った、ノーガードの殴り合い。本能剥き出しのレズセックス。
クチュッ❤︎クチュッ❤︎クチュッ❤︎クチュッ❤︎
陰唇が擦れる卑猥な音、白く泡立つ粘液、ステージを覆う淫らな女の匂い。
激しい腰の動きに2人の肌にも玉のような汗が噴き出し、荒く艶かしい吐息も次第に大きくなる。
袂を分かった2人の女が今、肉体と精神をひとつにしながら快楽の頂へと昇ってゆく。
「愛理ッ❤︎愛理ィィッ❤︎」
今にも気を遣りそうな激しい責めに目を白黒させながら、綺羅が愛理の名を叫ぶ。
「はッ❤︎負けたくないッ❤︎愛理に負けないッ❤︎私ッ……綺羅ッ……No.1ソープ嬢だもんッ❤︎……ほォォォッ❤︎」
(美雪!)
覚悟の叫び。愛理の知らない、「綺羅」としての誇り。
その声を受け止め、愛理も叫ぶ。
「美雪ッ……いえ、綺羅ッ!!あなたの想いッ❤︎覚悟ッ❤︎ちゃんと届いてるッ❤︎」
「んぉぉッ❤︎わ、私もッ❤︎届いてるよッ❤︎愛理の想いッ❤︎このッ❤︎El Doradoのステージッ❤︎覚悟ッ❤︎全部届いてるからァァッ❤︎❤︎」
2人は瞳に涙を浮かべながら、一度は離れた心が再び通じた喜びを、肉体の快楽で感じ合う。
そして、その末に生まれた決意も同じものだった。
(だからこそ……❤︎)
(絶対に負けたくないッ❤︎❤︎❤︎)
5
「ほッ!?❤︎おォォォッ❤︎お……❤︎」
綺羅の下半身がヒクヒクと痙攣し始める。
つま先をピンッと張らせて、股間を突き出すように腰が浮かぶ。
「あッ❤︎おッ❤︎おォォォこれイクッ❤︎ヤバいヤバいヤバいイクイクイクイクッ❤︎❤︎❤︎」
汗まみれの黒く焼けた肌は小刻みに震え、綺羅は絶頂の波動の到来に身構える。
だが、激しすぎる波動はそんななけなしの抵抗を嘲笑うように、綺羅の肉体に襲い掛かった。
「ほォッ❤︎イクッ❤︎イッ……あッ!?❤︎お”ォ”ォ”~~~❤︎あ”ォ”ォ”ォ”~~~❤︎あ”~~~~イグぅぅぅぅ~~~~ッ❤︎❤︎❤︎……イ”ッ!?!?❤︎❤︎❤︎」
プシィィィィィィィィィッ!!
「おッ!?おォッ……すっごォォ……❤︎」
絡み合う女同士の股間から、白い水竜のように天へと昇ってゆく潮の柱。
それはステージライトに照らされ鱗のように輝きながら、やがて重力の落下により推進力を失い、真下にいる女たちの火照った肉体に降り注いだ。
(綺麗……)
愛理は恍惚のまま無意識に大きく口を開くと、目一杯に舌を出して「潮の雨」を受け止める。
舌を潤す綺羅の味。
乾坤一擲の賭けに、愛理は勝った。
だがまだ闘いは終わっていない。
(これでイーブンッ!あと……一回ッ!!)
6
……ズルッ❤︎クチュッ❤︎クチュッ❤︎
「まだまだ……ぁ……んぉッ❤︎くゥゥゥッ❤︎❤︎❤︎」
「ふァァァァッ!?❤︎❤︎愛理ッ!!❤︎❤︎ダメッ!!❤︎❤︎イッてるッ!!今イッてるッ!!❤︎❤︎オマンコいじめちゃダメぇぇぇぇぇ❤︎❤︎❤︎」
惚けた綺羅の顔が、一瞬にして苦悶に変わる。
深い性的絶頂を迎えた直後の女の肉体……。
全身の神経を剥き出しにされたかのような、最も鋭敏で脆弱な肉体に、愛理は休む事なく責めを続行させた。
「ひァァァァッ!?❤︎あッ❤︎あッ❤︎あッ❤︎愛理ッ❤︎愛理ダメすぐイクッ❤︎ほッ❤︎ほッ❤︎ほォォォダメダメダメダメイクイクイクイクッ❤︎❤︎❤︎」
綺羅の吠えるような叫びは、もはや「セックスの快楽」ではなく「女体への責め苦」に喘ぐ悲鳴だ。
だが同時に、愛理の肉体も限界が迫る。
「イグッ❤︎オマンコイグッ❤︎女同士の下品なマンズリ交尾ッ❤︎お客に見られてイグッ❤︎あ”~~~ッ!スッゴイのクるッ!!❤︎❤︎マンコぉッ!!マンコイグイグイグイグイグぅぅぅぅッ❤︎❤︎❤︎」
綺羅が絶頂するまでに、愛理自身にも何度も絶頂の波が押し寄せたが、それを耐え抜けたのは「精神力」と「プライド」の差だった。
El Doradoという特殊な環境における一日の長……いや、「この女に絶対に勝つ」と願う心の強さが、愛理と綺羅の勝負の行く末を決した。
「「イグッ!!!!❤︎❤︎❤︎❤︎❤︎」」
7
ドサァ……
刹那、固く繋ぎ合った両手が解かれ、愛理と綺羅は共に仰向けに倒れた。
「はッ……ひッ……ィ……❤︎❤︎❤︎」
「ほォ……ぉぅ……ぅ……❤︎❤︎❤︎」
電流に打たれたようにステージ上でピクピクと悶絶する2人の様子に、観客も息を呑む。
「だ……ダブルKO……?」
「同時イキ……?」
フロアの歓声が不穏な騒めきへと変わっても、倒れ込んだ2人はどちらも起き上がる気配はない。
「愛理ッ!綺羅ッ!」
アナウンスブースから試合を見守っていた恭子は2人の名を叫んだ。
ゴォォォン……ッ!!
その時、試合終了を告げる銅鑼が鳴る。
空間を揺さぶる轟音に、静まり返ったフロア全体がハッと我に返る。
「ど、どっちが勝った!?」
「恭子ッ!!」
誰もが主催者代行の恭子に注目し、この勝負の裁定に耳目を傾ける。
恭子は震える手でマイクを何度も握り返し、大きな深呼吸を一回すると、ありったけの感情を込めて叫んだ。
「4対3……し、勝者……愛理ッ!!」
8
ドワァァァァァァァァッ!!!!
恭子の手が挙げられると、固唾を飲んでいた観客たちは地鳴りのような歓声と拍手で呼応する。
「愛理ィィーッ!!」
「今夜も最高のセックスだったわ!!」
観客たちから口々に寄せられる賞賛と激励の言葉は、愛理がEl Doradoで闘い抜いてきた実績の証明だった。
愛理は自らの選んだ道を、このステージで築き上げたキャリアとプライドを、勝利によって護った。
(よかった……本当に……よかった)
恭子の膝は震えていた。
愛理の勝利を信じ、自らプロデュースしたこのマッチ。
だが、綺羅の実力は予想以上だった。
終盤まで「まさか」の結末を拭い去ることができなかった。たかがエキシビジョン。されどカリスマにとっての「初めての敗北」を……。
その結末を考えた時、愛理が受ける精神的なダメージと周りの評価の変貌を考えた時、今宵の勝利が意味する大きさに、恭子は喜びよりも安堵と解放感を強く覚えた。
(危なかった……愛理、よく勝ってくれた……!)
だが、その愛理は未だステージに倒れたままだ。
9
「そうだ、行かなきゃ……!」
恭子はステージ下に押し寄せた観客を押し退けながら、愛理の元へ向かう。
「愛理ッ!大丈夫!?」
ステージの脇まで勢いよく飛び出した恭子の目に飛び込んできたのは、愛理と綺羅を両脇に抱えたケイの姿だった。
「やっと来た。アンタも手伝って。さすがに2人は無理」
ケイは胸と局部を露出したラバーのハイレッグレオタード姿で恭子を一瞥すると、ステージに上がるように顎で促す。
「ケイ!アンタ、次の試合……!」
「そんなの、この娘らが掃かなきゃ始められないでしょ?とりあえず舞台袖まで連れて行くから」
ケイは眉間に皺を寄せながら、綺羅の肩を抱えてそそくさと舞台袖へと下がってゆく。
「愛理!大丈夫!?」
「うッ……恭子……」
呼び掛けに応えた愛理は、意識こそはっきりとしていたが、脱力した身体は自ら歩くこそさえ困難なように思えた。
「よっ……と」
「ちょッ!?」
キャァァァッ!!
観客席から俄かに黄色い歓声が上がる。
恭子は愛理を両脚ごと抱きかかえる、いわゆる「お姫様抱っこ」の体勢で足早にケイの後を追った。
10
汗を拭き、水分を補給し、多少落ち着きを取り戻した愛理と綺羅は、控え室のソファにそれぞれ休められた。
「私ら次のステージあるから行くけど、何かあったら内線でスタッフ呼んで!」
「しばらく休んでいれば落ち着くわ」
「ええ……ありがと」
慌ただしくフロアへと戻る恭子とケイの背中を、ソファに座ったまま見送る愛理と綺羅。
控え室のドアが閉まると、2人の浅い呼吸音だけが静寂の中に響いていた。
「愛理……」
沈黙の中、綺羅が口を開く。
「El Doradoって……スゴいトコだね……えへへ……」
照れ臭そうに笑い、ペロッと舌を出す仕草。
ギラギラのギャルメイクは激しい闘いの末にすっかり剥がれ落ち、見慣れた童顔の人懐っこい笑顔が愛理に向けられる。
「….…ホントに、美雪なのね」
「え~?いまさら~?」
「….…ふふッ」
ケラケラと笑う綺羅につられて、愛理にも思わず笑みが溢れた。
「だって、まさかココに美雪がいるだなんて思わないもの。驚いたわ」
「驚いてくれた?じゃあ来た甲斐があったね……愛理に会えると思って来たんだから❤︎」
「どこで知ったのよ?私がココにいる事……」
「ちょーっと小耳に挟んで、ね」
2人は目線を合わせないまま、ソファに横並びで会話を続ける。
先程まで死闘を繰り広げた敵同士、されど過去に愛し合った恋人同士……。
複雑な因果を交えた女2人が、バトルファックの舞台を終え、今こうして精魂尽き果てて裸のまま肩を寄せ合っている。
11
「美雪……ありがとう」
「ん?」
「最高に気持ちのいいセックスだったわ……」
「なんか……言葉にされるとエロいね……アハッ」
「美雪とは数え切れないくらいセックスしてきたけど、今日のが一番気持ちよかった……〝想い〟が籠った、本気のセックスだったからね……」
愛理の言葉に、綺羅は黙ったまま少し恥ずかしそうに小さく頷く。
「私もすっごい気持ちよかったよ?大勢にお客に見られながら愛理とセックスして……頭の中グチャグチャになって……身体のどこ触られてもイッちゃいそうで……これが〝El Dorado〟なんだな……って」
「そう……それが〝El Dorado〟の魔力……着飾った見せかけのプライドなんて通用しない、私が本気になれるステージなの……」
「だから愛理は……この場所を選んだんだ……」
「……ええ、そんな感じ」
綺羅の問いかけに、愛理は短い言葉で答える。
語れば様々な想いが溢れ出し、それは綺羅に対する一方的なわがままになる事を、闘いを終えた愛理は理解していた。
今はただ、あるがままの気持ちの一端でも、綺羅に伝われば……。
「美……いえ、綺羅。これからEl Doradoに参戦するの?」
「……」
愛理の問いに、綺羅はしばらく無言で俯いたままだったが、愛理に目線をやると首を横に振った。
「ううん……私は今日、愛理とヤレただけで満足。ソープ嬢〝綺羅〟として生まれ変わった姿を見せられただけで……私は……」
綺羅は瞳に涙を浮かべながら、震える声でそう言った。
愛理もまた、そんな綺羅の想いを聞いて、一筋の涙が頬を伝う。
「ありがとう……このステージに立ってくれて……」
「愛理がいたから……怖くなかったよ……私……幸せだった……!」
「美雪……!」
「んぅ……んッ……」
愛理は綺羅を強く抱きしめ、深く優しいキスをした。
愛理と綺羅。
2人の女の、最後のキス。
倒錯のステージに咲いた二輪の華は、涙色の夜露に濡れて哀しく艶めいていた──。
12
時を同じくして、フロアでは今宵の〝El Dorado特別ステージ〟第3戦目が今まさに始まろうとしていた。
愛理VS綺羅の衝撃の結末……。
その興奮が冷めやらぬ中、ステージ上ではトリを務めるに相応しい「美しい女たち」が闘いの瞬間を待ち焦がれていた。
「んッ……ふぅ……」
両手を頭上に掲げて大きく伸びをするケイ。その表情からは緊張や不安は一切感じられない。
控え室でも充分にウォームアップをしたのだろう、ラバーレオタードの大きく開いた背中には、薄っすらと汗が浮かんでキラキラと輝いていた。
「ニューカマー……ケイッ!!」
恭子のアナウンスに、小さく手を上げて応えるケイ。
笑顔やパフォーマンスは一切無く、無表情にフロア一帯を目線で見渡す。
(まさか私がこのステージに立つとはね……)
黒く艶めくピンヒールを履いたスラリと長い両脚を肩幅より広く開き、腰を深く落として2、3回スクワットをすると、7割程度だったペニスの勃起がもう一段階、グンッと角度を増す。
(私が出なきゃならないくらい、向こうはヤバい相手ってコト)
対面に立つ相手に、ケイは刃のように鋭い視線を向けると、相手は笑みを浮かべて手を振り返す。
「やほー、ケイちゃん」
「……フンッ」
(恭子が狙いに気付かなければ危うかったわ。アイツら、本気で愛理を〝潰し〟にくるつもり……?)
「同じくニューカマー…紅花ッ!!」
名乗りを受けた女はアイドルのような満面の笑顔で観客席に深々と一礼すると、両手を大きく振って声援に応える。
この〝紅花〟という女、前と横髪を直線に切り揃え、うなじを露出した黒いおかっぱヘアが特徴的だが、ケイに劣らず長身であり、身体の前方を隠す丈の短いサテン生地の赤い腹掛け一枚のみを纏い、背後は全くの無防備だ。
そして何より、腹掛けの裾を押し上げる〝力強い隆起〟が、股間に見え隠れしていた。
13
一重の鋭い目線をにっこりと細めながら観客に愛想を振りまく紅花のパフォーマンスは、ケイとは対照的だがやはり初参戦とは思えない堂々たる落ち着きが見て取れる。
ステージ中央で向き合う両者。
紅花がケイに囁く。
「ARISAの子守り役のケイちゃんが、自ら表舞台に出てくるなんて珍しいねェ」
「……アンタこそ、こんなトコで何やってんだか。史織の使いっ走りのくせに、目立つような真似していいワケ?」
ケイの言葉に、紅花の笑顔が一気に引き攣る。
「ハァ?オマエには関係ないから。オマエも愛理も、アタシがこのステージでブチ犯してあげる❤︎」
中指を立てて挑発する紅花に、ケイは鼻で笑って返す。
「ハッ、やっぱりそういう事ね。浅はかというか、芸が無いというか……こんなヤツらと連んでるなんて、史織も随分落ちぶれたわね」
そう吐き捨てるように呟くと、ケイは紅花を一顧だにせず自陣へと戻る。
「チッ……ARISAの雌犬ども……」
紅花は先程までの笑顔などとっくに忘れ、ケイの背中を穴が開くほど睨みつける。
「Ready……?」
あらゆる遺恨と思惑が渦巻く、狂乱のステージ。
「Fightッ!!」
ゴォォォン……!!
〝ひとりの女〟を巡る争いの火種は、凄まじい加速度で燃え広がっていた……。
(第8章 完)
眩く照らされたEl Doradoのステージに、裸の愛理は気力とプライドだけを纏い立っていた。
乱れた長い黒髪は汗まみれの肌にへばり付き、試合前には完璧に施したメイクもとっくに剥がれ落ち、もはやすっぴんそのものだ。
残り時間は5分。スコアは1ー2で綺羅がリード。
それでも、愛理は勝負を諦めていない。
(私が選んだ道、私がやってきた事……それを美雪に教えてあげる!)
震える両脚を一歩ずつ、綺羅へと進めてゆく愛理。
その気迫に、綺羅は愛理を見つめたまま呆然と立ち尽くす。
(愛理……そんなになってまで、愛理がこのステージに立つ理由って……?)
2
ダンッ!
「はぁぁッ!!」
「うっ!?」
力強く踏み込み、愛理は棒立ちの綺羅目掛けて一気に突進する。
不意を突かれた綺羅は防御のために腰を引き、飛び込んできた愛理の身体を両手で受け止めるのが精一杯だ。
(甘いッ!)
愛理は体重を乗せた突進の勢いそのままに、綺羅を後方へと突き飛ばした。
ドォッ!!
「あぐッ!?」
背中からマットに倒れる綺羅。
そこに愛理が覆い被さるように伸し掛かる。
「うぐッ……愛理ッ……!」
「ふんッ!!」
ポジションを奪われまいと両手を伸ばして突き放そうとする綺羅だが、愛理のパワーの前ではその抵抗も無力に終わる。
仰向けの綺羅に上から抱きついた愛理は、息を切らせて半開きになった綺羅の唇に舌をねじ込んだ。
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ジュルッ❤︎
「ふッ❤︎んむゥッ❤︎」
「んぅぅッ!?❤︎」
(愛理……ここでこんな……甘いキス……❤︎)
口腔に広がる愛理の味。鼻をくすぐる愛理の汗の匂い。溶け合うように吸い付く愛理の肌の温もり。
激しい闘いの最中に垣間見えた、「元カノ」の愛。
愛理は2人で過ごしたあの日々と、変わらぬ甘い口づけを綺羅に与えながら、手の平を重ねて指を絡める。
チュッ……パ……❤︎
「んッ❤︎……はァッ、はァッ……❤︎」
「あッ❤︎……うぅ……❤︎」
愛理が唇を離すと、綺羅は恨めしそうに上目遣いで愛理を睨む。
「……ふふ、欲しがりなのも変わらないわね❤︎美雪……」
「ズルい……こんな時に、そんな優しいキス……❤︎」
「私が選んだEl Dorado……美雪に教えてあげたいの。そして……私の選択を……信じてほしい……!」
クンッ……!
「うッ!?」
「ガマン比べ……最後まで突っ走るわよッ!!❤︎」
クチュッ……ズリュッ……❤︎
愛理は上体を反らせると同時に、仰向けに寝転ぶ綺羅の両脚の合間に自らの左脚を滑り込ませた。
互いの股間がガッチリと噛み合い、愛液に濡れそぼった陰唇同士がキスをする。
「おッ!?❤︎ほォォォ……ッ❤︎」
「あンッ❤︎こッ、これヤバッ……❤︎」
愛理が仕掛けた最後の責めは「松葉崩し」の体位。
しかも、より密着度を上げるため、綺羅の両手をしっかりと掴んで離さない。
性的興奮により肥大した両者の陰核がヌルヌルと擦れるたびに、愛理も綺羅も痺れるような快感に全身を震わせた。
「くゥゥッ❤︎んぅッ……あァァンッ!!❤︎」
(私が先にイッちゃうリスクだってある……でも、もうコレしかないッ!)
4
クチュッ❤︎クチュッ❤︎ズチュッ❤︎
包皮を剥かれた無防備な女体の核を、一心不乱に擦り付け合う愛理と綺羅。
「はァッ❤︎はァッ❤︎……あァァッ❤︎」
「おぉッ❤︎私のクリッ❤︎愛理のデカクリにッ❤︎潰されるッ❤︎」
品性などかなぐり捨てて、与えられた快楽だけをひたすら貪欲に求め合う雌の姿。
それでもなお、2人にはどちらとも「逃げる」という選択肢はなかった。
裸にプライドだけを纏った、ノーガードの殴り合い。本能剥き出しのレズセックス。
クチュッ❤︎クチュッ❤︎クチュッ❤︎クチュッ❤︎
陰唇が擦れる卑猥な音、白く泡立つ粘液、ステージを覆う淫らな女の匂い。
激しい腰の動きに2人の肌にも玉のような汗が噴き出し、荒く艶かしい吐息も次第に大きくなる。
袂を分かった2人の女が今、肉体と精神をひとつにしながら快楽の頂へと昇ってゆく。
「愛理ッ❤︎愛理ィィッ❤︎」
今にも気を遣りそうな激しい責めに目を白黒させながら、綺羅が愛理の名を叫ぶ。
「はッ❤︎負けたくないッ❤︎愛理に負けないッ❤︎私ッ……綺羅ッ……No.1ソープ嬢だもんッ❤︎……ほォォォッ❤︎」
(美雪!)
覚悟の叫び。愛理の知らない、「綺羅」としての誇り。
その声を受け止め、愛理も叫ぶ。
「美雪ッ……いえ、綺羅ッ!!あなたの想いッ❤︎覚悟ッ❤︎ちゃんと届いてるッ❤︎」
「んぉぉッ❤︎わ、私もッ❤︎届いてるよッ❤︎愛理の想いッ❤︎このッ❤︎El Doradoのステージッ❤︎覚悟ッ❤︎全部届いてるからァァッ❤︎❤︎」
2人は瞳に涙を浮かべながら、一度は離れた心が再び通じた喜びを、肉体の快楽で感じ合う。
そして、その末に生まれた決意も同じものだった。
(だからこそ……❤︎)
(絶対に負けたくないッ❤︎❤︎❤︎)
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「ほッ!?❤︎おォォォッ❤︎お……❤︎」
綺羅の下半身がヒクヒクと痙攣し始める。
つま先をピンッと張らせて、股間を突き出すように腰が浮かぶ。
「あッ❤︎おッ❤︎おォォォこれイクッ❤︎ヤバいヤバいヤバいイクイクイクイクッ❤︎❤︎❤︎」
汗まみれの黒く焼けた肌は小刻みに震え、綺羅は絶頂の波動の到来に身構える。
だが、激しすぎる波動はそんななけなしの抵抗を嘲笑うように、綺羅の肉体に襲い掛かった。
「ほォッ❤︎イクッ❤︎イッ……あッ!?❤︎お”ォ”ォ”~~~❤︎あ”ォ”ォ”ォ”~~~❤︎あ”~~~~イグぅぅぅぅ~~~~ッ❤︎❤︎❤︎……イ”ッ!?!?❤︎❤︎❤︎」
プシィィィィィィィィィッ!!
「おッ!?おォッ……すっごォォ……❤︎」
絡み合う女同士の股間から、白い水竜のように天へと昇ってゆく潮の柱。
それはステージライトに照らされ鱗のように輝きながら、やがて重力の落下により推進力を失い、真下にいる女たちの火照った肉体に降り注いだ。
(綺麗……)
愛理は恍惚のまま無意識に大きく口を開くと、目一杯に舌を出して「潮の雨」を受け止める。
舌を潤す綺羅の味。
乾坤一擲の賭けに、愛理は勝った。
だがまだ闘いは終わっていない。
(これでイーブンッ!あと……一回ッ!!)
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……ズルッ❤︎クチュッ❤︎クチュッ❤︎
「まだまだ……ぁ……んぉッ❤︎くゥゥゥッ❤︎❤︎❤︎」
「ふァァァァッ!?❤︎❤︎愛理ッ!!❤︎❤︎ダメッ!!❤︎❤︎イッてるッ!!今イッてるッ!!❤︎❤︎オマンコいじめちゃダメぇぇぇぇぇ❤︎❤︎❤︎」
惚けた綺羅の顔が、一瞬にして苦悶に変わる。
深い性的絶頂を迎えた直後の女の肉体……。
全身の神経を剥き出しにされたかのような、最も鋭敏で脆弱な肉体に、愛理は休む事なく責めを続行させた。
「ひァァァァッ!?❤︎あッ❤︎あッ❤︎あッ❤︎愛理ッ❤︎愛理ダメすぐイクッ❤︎ほッ❤︎ほッ❤︎ほォォォダメダメダメダメイクイクイクイクッ❤︎❤︎❤︎」
綺羅の吠えるような叫びは、もはや「セックスの快楽」ではなく「女体への責め苦」に喘ぐ悲鳴だ。
だが同時に、愛理の肉体も限界が迫る。
「イグッ❤︎オマンコイグッ❤︎女同士の下品なマンズリ交尾ッ❤︎お客に見られてイグッ❤︎あ”~~~ッ!スッゴイのクるッ!!❤︎❤︎マンコぉッ!!マンコイグイグイグイグイグぅぅぅぅッ❤︎❤︎❤︎」
綺羅が絶頂するまでに、愛理自身にも何度も絶頂の波が押し寄せたが、それを耐え抜けたのは「精神力」と「プライド」の差だった。
El Doradoという特殊な環境における一日の長……いや、「この女に絶対に勝つ」と願う心の強さが、愛理と綺羅の勝負の行く末を決した。
「「イグッ!!!!❤︎❤︎❤︎❤︎❤︎」」
7
ドサァ……
刹那、固く繋ぎ合った両手が解かれ、愛理と綺羅は共に仰向けに倒れた。
「はッ……ひッ……ィ……❤︎❤︎❤︎」
「ほォ……ぉぅ……ぅ……❤︎❤︎❤︎」
電流に打たれたようにステージ上でピクピクと悶絶する2人の様子に、観客も息を呑む。
「だ……ダブルKO……?」
「同時イキ……?」
フロアの歓声が不穏な騒めきへと変わっても、倒れ込んだ2人はどちらも起き上がる気配はない。
「愛理ッ!綺羅ッ!」
アナウンスブースから試合を見守っていた恭子は2人の名を叫んだ。
ゴォォォン……ッ!!
その時、試合終了を告げる銅鑼が鳴る。
空間を揺さぶる轟音に、静まり返ったフロア全体がハッと我に返る。
「ど、どっちが勝った!?」
「恭子ッ!!」
誰もが主催者代行の恭子に注目し、この勝負の裁定に耳目を傾ける。
恭子は震える手でマイクを何度も握り返し、大きな深呼吸を一回すると、ありったけの感情を込めて叫んだ。
「4対3……し、勝者……愛理ッ!!」
8
ドワァァァァァァァァッ!!!!
恭子の手が挙げられると、固唾を飲んでいた観客たちは地鳴りのような歓声と拍手で呼応する。
「愛理ィィーッ!!」
「今夜も最高のセックスだったわ!!」
観客たちから口々に寄せられる賞賛と激励の言葉は、愛理がEl Doradoで闘い抜いてきた実績の証明だった。
愛理は自らの選んだ道を、このステージで築き上げたキャリアとプライドを、勝利によって護った。
(よかった……本当に……よかった)
恭子の膝は震えていた。
愛理の勝利を信じ、自らプロデュースしたこのマッチ。
だが、綺羅の実力は予想以上だった。
終盤まで「まさか」の結末を拭い去ることができなかった。たかがエキシビジョン。されどカリスマにとっての「初めての敗北」を……。
その結末を考えた時、愛理が受ける精神的なダメージと周りの評価の変貌を考えた時、今宵の勝利が意味する大きさに、恭子は喜びよりも安堵と解放感を強く覚えた。
(危なかった……愛理、よく勝ってくれた……!)
だが、その愛理は未だステージに倒れたままだ。
9
「そうだ、行かなきゃ……!」
恭子はステージ下に押し寄せた観客を押し退けながら、愛理の元へ向かう。
「愛理ッ!大丈夫!?」
ステージの脇まで勢いよく飛び出した恭子の目に飛び込んできたのは、愛理と綺羅を両脇に抱えたケイの姿だった。
「やっと来た。アンタも手伝って。さすがに2人は無理」
ケイは胸と局部を露出したラバーのハイレッグレオタード姿で恭子を一瞥すると、ステージに上がるように顎で促す。
「ケイ!アンタ、次の試合……!」
「そんなの、この娘らが掃かなきゃ始められないでしょ?とりあえず舞台袖まで連れて行くから」
ケイは眉間に皺を寄せながら、綺羅の肩を抱えてそそくさと舞台袖へと下がってゆく。
「愛理!大丈夫!?」
「うッ……恭子……」
呼び掛けに応えた愛理は、意識こそはっきりとしていたが、脱力した身体は自ら歩くこそさえ困難なように思えた。
「よっ……と」
「ちょッ!?」
キャァァァッ!!
観客席から俄かに黄色い歓声が上がる。
恭子は愛理を両脚ごと抱きかかえる、いわゆる「お姫様抱っこ」の体勢で足早にケイの後を追った。
10
汗を拭き、水分を補給し、多少落ち着きを取り戻した愛理と綺羅は、控え室のソファにそれぞれ休められた。
「私ら次のステージあるから行くけど、何かあったら内線でスタッフ呼んで!」
「しばらく休んでいれば落ち着くわ」
「ええ……ありがと」
慌ただしくフロアへと戻る恭子とケイの背中を、ソファに座ったまま見送る愛理と綺羅。
控え室のドアが閉まると、2人の浅い呼吸音だけが静寂の中に響いていた。
「愛理……」
沈黙の中、綺羅が口を開く。
「El Doradoって……スゴいトコだね……えへへ……」
照れ臭そうに笑い、ペロッと舌を出す仕草。
ギラギラのギャルメイクは激しい闘いの末にすっかり剥がれ落ち、見慣れた童顔の人懐っこい笑顔が愛理に向けられる。
「….…ホントに、美雪なのね」
「え~?いまさら~?」
「….…ふふッ」
ケラケラと笑う綺羅につられて、愛理にも思わず笑みが溢れた。
「だって、まさかココに美雪がいるだなんて思わないもの。驚いたわ」
「驚いてくれた?じゃあ来た甲斐があったね……愛理に会えると思って来たんだから❤︎」
「どこで知ったのよ?私がココにいる事……」
「ちょーっと小耳に挟んで、ね」
2人は目線を合わせないまま、ソファに横並びで会話を続ける。
先程まで死闘を繰り広げた敵同士、されど過去に愛し合った恋人同士……。
複雑な因果を交えた女2人が、バトルファックの舞台を終え、今こうして精魂尽き果てて裸のまま肩を寄せ合っている。
11
「美雪……ありがとう」
「ん?」
「最高に気持ちのいいセックスだったわ……」
「なんか……言葉にされるとエロいね……アハッ」
「美雪とは数え切れないくらいセックスしてきたけど、今日のが一番気持ちよかった……〝想い〟が籠った、本気のセックスだったからね……」
愛理の言葉に、綺羅は黙ったまま少し恥ずかしそうに小さく頷く。
「私もすっごい気持ちよかったよ?大勢にお客に見られながら愛理とセックスして……頭の中グチャグチャになって……身体のどこ触られてもイッちゃいそうで……これが〝El Dorado〟なんだな……って」
「そう……それが〝El Dorado〟の魔力……着飾った見せかけのプライドなんて通用しない、私が本気になれるステージなの……」
「だから愛理は……この場所を選んだんだ……」
「……ええ、そんな感じ」
綺羅の問いかけに、愛理は短い言葉で答える。
語れば様々な想いが溢れ出し、それは綺羅に対する一方的なわがままになる事を、闘いを終えた愛理は理解していた。
今はただ、あるがままの気持ちの一端でも、綺羅に伝われば……。
「美……いえ、綺羅。これからEl Doradoに参戦するの?」
「……」
愛理の問いに、綺羅はしばらく無言で俯いたままだったが、愛理に目線をやると首を横に振った。
「ううん……私は今日、愛理とヤレただけで満足。ソープ嬢〝綺羅〟として生まれ変わった姿を見せられただけで……私は……」
綺羅は瞳に涙を浮かべながら、震える声でそう言った。
愛理もまた、そんな綺羅の想いを聞いて、一筋の涙が頬を伝う。
「ありがとう……このステージに立ってくれて……」
「愛理がいたから……怖くなかったよ……私……幸せだった……!」
「美雪……!」
「んぅ……んッ……」
愛理は綺羅を強く抱きしめ、深く優しいキスをした。
愛理と綺羅。
2人の女の、最後のキス。
倒錯のステージに咲いた二輪の華は、涙色の夜露に濡れて哀しく艶めいていた──。
12
時を同じくして、フロアでは今宵の〝El Dorado特別ステージ〟第3戦目が今まさに始まろうとしていた。
愛理VS綺羅の衝撃の結末……。
その興奮が冷めやらぬ中、ステージ上ではトリを務めるに相応しい「美しい女たち」が闘いの瞬間を待ち焦がれていた。
「んッ……ふぅ……」
両手を頭上に掲げて大きく伸びをするケイ。その表情からは緊張や不安は一切感じられない。
控え室でも充分にウォームアップをしたのだろう、ラバーレオタードの大きく開いた背中には、薄っすらと汗が浮かんでキラキラと輝いていた。
「ニューカマー……ケイッ!!」
恭子のアナウンスに、小さく手を上げて応えるケイ。
笑顔やパフォーマンスは一切無く、無表情にフロア一帯を目線で見渡す。
(まさか私がこのステージに立つとはね……)
黒く艶めくピンヒールを履いたスラリと長い両脚を肩幅より広く開き、腰を深く落として2、3回スクワットをすると、7割程度だったペニスの勃起がもう一段階、グンッと角度を増す。
(私が出なきゃならないくらい、向こうはヤバい相手ってコト)
対面に立つ相手に、ケイは刃のように鋭い視線を向けると、相手は笑みを浮かべて手を振り返す。
「やほー、ケイちゃん」
「……フンッ」
(恭子が狙いに気付かなければ危うかったわ。アイツら、本気で愛理を〝潰し〟にくるつもり……?)
「同じくニューカマー…紅花ッ!!」
名乗りを受けた女はアイドルのような満面の笑顔で観客席に深々と一礼すると、両手を大きく振って声援に応える。
この〝紅花〟という女、前と横髪を直線に切り揃え、うなじを露出した黒いおかっぱヘアが特徴的だが、ケイに劣らず長身であり、身体の前方を隠す丈の短いサテン生地の赤い腹掛け一枚のみを纏い、背後は全くの無防備だ。
そして何より、腹掛けの裾を押し上げる〝力強い隆起〟が、股間に見え隠れしていた。
13
一重の鋭い目線をにっこりと細めながら観客に愛想を振りまく紅花のパフォーマンスは、ケイとは対照的だがやはり初参戦とは思えない堂々たる落ち着きが見て取れる。
ステージ中央で向き合う両者。
紅花がケイに囁く。
「ARISAの子守り役のケイちゃんが、自ら表舞台に出てくるなんて珍しいねェ」
「……アンタこそ、こんなトコで何やってんだか。史織の使いっ走りのくせに、目立つような真似していいワケ?」
ケイの言葉に、紅花の笑顔が一気に引き攣る。
「ハァ?オマエには関係ないから。オマエも愛理も、アタシがこのステージでブチ犯してあげる❤︎」
中指を立てて挑発する紅花に、ケイは鼻で笑って返す。
「ハッ、やっぱりそういう事ね。浅はかというか、芸が無いというか……こんなヤツらと連んでるなんて、史織も随分落ちぶれたわね」
そう吐き捨てるように呟くと、ケイは紅花を一顧だにせず自陣へと戻る。
「チッ……ARISAの雌犬ども……」
紅花は先程までの笑顔などとっくに忘れ、ケイの背中を穴が開くほど睨みつける。
「Ready……?」
あらゆる遺恨と思惑が渦巻く、狂乱のステージ。
「Fightッ!!」
ゴォォォン……!!
〝ひとりの女〟を巡る争いの火種は、凄まじい加速度で燃え広がっていた……。
(第8章 完)
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