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本章

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 プレゼンという山を越え、初めてのイベントにスタッフとして参加するという山も越えた。
 あとはイベント本番に備えるだけなのだが、目の前に越えるべき山がもうひとつ残っていた。

 中間テストだ。

 イベントに向けての練習をしながらになるから、時間管理が大切だ。
 体調を崩すわけにもいかないから、無理も禁物。余裕を持った計画にしよう。

 バイトはイベントまで少し減らしてもらおうと思っている。
 徳島への遠征を考えると本当はお金を稼いでおきたい。が、案件獲得のお祝いだと、お父さんが交通費も含めたお小遣いをくれた。
 現地やイベント会場でおいしいごはんを食べたり、クラスの友だちや、イベントに参加できなかったメンバーへのお土産を買ったりしても余るくらいの金額だ。

 前までのわたしだったら受け取らなかった。今は甘えようと思えるようになっていた。


 テスト前はなんとなくクラスの雰囲気もそわそわしている気がした。


 わたしが山を越え、次の山に挑むということは、同じ年齢、同じ学校、同じクラスにいる柊にとっても同じことが起こる。


「ねー、どうしよう」
 
 柊が情けない顔で訊いてきた。


 お昼は柊、しいちゃん、ルカ、みやちゃんの五人で、机を島にしてお弁当を食べることが多かった。

 席をくっつけ島を作る。ルカとみやちゃんは購買にパンを買いに行った。お弁当持参の残ったわたしたちは、先にいただくことにしたのだが、お弁当を開けた途端の柊の情けない声。
 
「全然勉強してない」
 
 牽制でそういうことを言うひとはいるが、柊は言葉通り、本当に、全く勉強していないのだろう。
 顔も声も言っていることも情けないのに、お弁当は元気に食べている柊。

 
「勉強していないことをどうしようって、答え出てない? 勉強するしかないよね」

 お弁当に入っていたちくわの輪切りを食べながら答える。
 どうするも何も無い問いだ。やっていなくて、やっていないことが問題なら、やるしか無いでは無いか。
 
「うわ! 冷た!」
 
「え? だって、それしか無くない?」
 
「それはそーなんだけどさー。それができるならやってるよー」
 
 何かを諦めたように言う柊。
 何個目かの唐揚げを食べながら。

 しいちゃんは海老マヨみたいなのを美味しそうに食べている。

「柊のお弁当、唐揚げ多くない?」
 この前のイベントの時も唐揚げ食べてたし、唐揚げ好きすぎでしょ。

「この前の唐揚げはなんかで金賞獲ったやつだよー。これとは違うよ。お寿司だってマグロとかっぱ巻きは違うでしょ? 同じお寿司って名前でもさ。それと一緒」

 そう? 一緒じゃない気がするけど。

「話変えないでよー。勉強できないんだよー」

 話変えたことには「ごめん」と言いつつ、柊の言っていることはよくわからない。

「? 勉強するだけでしょ?」
 
「それができないのっ」
 
「勉強ができない、わからない、ってことじゃなくて、勉強をすることができないの? なんで?」
 
 問題がわからないのはわかる。でも、問題を解く作業や、回答法を読む動作などは、やろうと思えばだれでもできることでは?
 
「わたし、がんちゃんとは分かり合えないみたい……」
 
 えっ、なんでそんな悲しいこと言うの⁉︎
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