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本章

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「味玉入れて良い?」

「良いよー」

 柊に祷が答える。

「ごちそうしてもらっちゃってありがとね」

 ごめんね、ではなくありがとうという言葉を使う穂積さんに、祷は嬉しそうに「遠慮しないでね。たくさん食べよう!」と少しはしゃいだ様子を見せた。
 食券機の前であまり時間もかけられないから、それぞれ勢いよくぽんぽん食券を買っている。

「がんちゃんも味玉いるよね?」

「うん」

「きくらげもいる? みんなもいるよね、これも4枚買おう」

 答えを聞く前に手際よく食券を購入する祷。



 パフォーマンスを終えたわたしたちは、柊の「あー、おなかすいたー!」の声に応えることにした。
 正直いえば、わたしもお腹空いてたし、きっと祷も穂積さんも同じだったと思う。
 それくらい、あの実演にはエネルギーを費やせたと思う。

 祷が、「行きたいお店があるんだ。奢るから付き合ってもらって良い? とんこつラーメンのお店だけど、東京ラーメンってメニューもあるよ」と言うと、柊は「行きたい!」と騒いだ。
 わたしも穂積さんも異論はなかったので、祷に連れられて、高架下のダンジョンのような道を進んで、そのお店に辿り着いた。


 カウンターしかない小さなお店で、お客さんが少し並んでいた。
 祷が言うには、グルメ漫画で取り上げられたお店らしい。
 回転率が早いのか、運が良かったのか、すぐにお店に入ることができた。
 昔の居酒屋さんみたいな雰囲気だった。

 場所柄、店柄、雰囲気柄、店内はスーツ姿の男性ばかりで、ここでも場違い感を味わうことになった。


 穂積さん、祷、柊、わたしの順で座る。

「この缶詰も買えるの?」

 カウンターには調味料などと一緒に缶詰が陳列されていた。
 柊が珍しそうに見ている。

「買えるよ。食べる?」

「うん、食べる!」

「ちょっとひい、食べ過ぎじゃない?」

「だってお腹空いてるし」

「良いじゃない、食べようよ。私もお腹空いてるしさ。がんちゃんも食べるよね?」

「うん、食べる」

「すみませーん! さばとさんま、ふたつずつと取り皿よっつお願いします!」


 などと女子四人で食欲旺盛なやり取りを繰り広げていたら、わたしの隣に座っていた常連ぽいお客さんが、ここのとんこつは高菜と紅生姜で味変すると良いとか、替え玉はマストだとか色々と教えてくれた。


 キョウさんと海に行った帰りにもラーメン食べたなぁと思いながら、出された極細の麺を啜った。あの時もたくさん食べさせてもらったっけ。

 おいしい。
 エネルギーを使い切った身体に染み渡る。

 エネルギーを使い切ったと思えるくらい、やり切れたという思いが残っていた。

 こんなに美味しくラーメンを食べられるのは、緊張のプレゼンを終えたことによる開放感だけでなく、一定の達成感を感じられたからなのだと思った。


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