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本章

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 祷の論理はわかった。確かに提案の余地はあるのかもしれない。でも、その担当者に提案すること自体がそもそも難しいのでは?

「使えるものは何でも使わなくちゃ」

 わたしの疑問に、祷はいたずらっぽく微笑んだ。

「本気になったらね、五人経由したら誰にだって会えるんだよ」

 六次の隔たりというらしい。
 人は誰もがそれぞれコミュニティを持っている。家族や親族、友人知人などの繋がりを持っている。その数をひとりあたり四十四人だとしたら、その六乗で七十億を超える。地球の総人口以上の数と繋がれるという理論だ。
 一人当たりのつながりの平均値が上がれば隔てる人数は減る。SNSの発達で今では四人に満たない人数で届くそうだ。

 これを机上の空論とするのは簡単だ。少しでも現実に近づけるために、「本気」になる必要があるのだという。
 それが、「使えるものは何でも使う」なのだ。

 祷は既に姫田グループ本社で次長の役職を得ているお父さんに打診をしていた。
 部門は全然異なるし、大きい会社だから直接の知り合いでもなかったが、社内の伝手を伝って広報部門で阿波ゼルコーバを担当しているひとと会える段取りを整えていた。

「でもコネが通用するのはここまで。
企業が予算を組むのは安易なことではないし、複数の組織や部門の論理や思惑をぶつからせずこんがらがらせずに手間や労力なく、そして全員にとって魅力的でなくてはならない」

 大企業相手に一番難しい初回のアポ取りは人脈でクリアできたが、一番重要な提案とプレゼン、クロージングは実力で勝ち取らないとならないということだった。


「簡単ではないけど、ここから先はさっき言った原理原則の領域。現実的に無理はないと思ったよね?
会う約束を取り付けるっていう一番の難所は既に超えてるんだから、あとはあくまでも担当が、それを承認する決済権者が、それぞれ納得できるプランを用意するだけ」

 何でもないことのようにいう。
 でも、祷なら。
 既にここまで手順を手際よく進めている祷なら、確かに実現してしまいそうだった。

「それで、どんなプランを提案するの?」

「そこはまだこれから。
っていうか、そこはがんこが考えるんだよ」

 え?

「そして、がんちゃんの言葉で、がんちゃんの想いも載せて、がんちゃんがプレゼンするんだよ!」

 えええー⁉︎
 なにを言っているの?
 なんで勝手に決まっているの⁉︎

 あとなんで祷すごい嬉しそうなのよっ!
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