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第六部:「ヤシマ星系を死守せよ」
第四十二話
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宇宙暦四五二三年六月二十九日 標準時間一三〇〇。
時は会戦前日、ゾンファ艦隊がジャンプアウトした直後に遡る。
アルビオンの第十一艦隊が潜んでいる浮きドックの一つに、イーグンジャンプポイント会戦で降伏したゾンファの戦艦が二隻隠されていた。
そこにはヤシマの情報機関の職員十数名と降伏したゾンファ軍の下士官約百名がいた。
ゾンファ軍の下士官たちはあるシステムを使って、進攻してくるゾンファ艦隊のうち、シオン・チョン艦隊とシー・シャオロン艦隊に対し、極秘裏に通信を送っていた。
そのシステムは下士官たちが独自に構築したもので、艦隊内であれば士官たちに見られることなく、連絡を取り合うことができるものだ。
『……我々はゾンファ革命軍だ。こんなことは言わなくても分かっているだろうが、今の祖国の支配者たちは完全に腐っている。俺たち兵士は消耗品であって、人ではないと思っていやがるんだ。そんな奴らが政権を握っていては、俺たちだけじゃなく、子供たちにも未来はない……』
ここにいる下士官たちは“ゾンファ革命軍”と名乗り、ハースとクリフォードが素案を作ったシナリオに従って、艦隊にいる同僚たちにプロパガンダを行っていたのだ。
『……このまま国家統一党の連中を勝たせてしまっていいのか? ここで奴らが勝利を手に入れたら、俺たちは更に酷使される。それを阻止するんだ……これだけの大艦隊だから負けるはずがないと思っているんだろうが、そんなことはない。具体的な作戦は言えないが、連合艦隊には強力な隠し玉がある……』
勝利の可能性に言及した後、具体的な行動について説明していく。
『……隠し玉が発動したら、士官たちは大混乱に陥るはずだ。その隙を突いて、立ち上がれ。その準備として、まずは戦闘指揮所、緊急時対策所、機関制御室に武器を隠しておくんだ。戦闘準備が始まる前なら俺たち下士官と准士官連中が口裏を合わせれば、簡単に持ち込めるはずだ……あとは艦隊が混乱したところでその三ヶ所を占拠しろ。そして、対消滅炉を止めるんだ。そうすれば、降伏したことになる。連合艦隊は降伏した艦には攻撃しないことを約束してくれた……』
更に情報のリークについても注意を促していた。
『……裏切りを考えている奴に言っておく。ここで士官にたれ込んでも、奴らはお前の言うことなど聞きはしない。あの政治将校どもなら、話を聞いてくれるかもしれんが、お前も同罪だといって罰を与えるだろう。奴らはそれだけを楽しみに生きているんだからな……それに士官どもがこの話を知ったとしても問題はない。士官だけで戦争はやれんのだから、下士官や兵士をCICに入れるしかないんだ……』
その言葉を信じたのか、この通信の内容は一切漏洩しなかった。准士官以下の兵士たちの政治将校や士官たちへの怒りが大きかったこともあるが、仲間を裏切った場合、政治将校が与える体罰以上に厳しい私刑が待っているためだ。
『……決行のタイミングはこちらから指示する。それまでは大人しく奴らの言うことを聞いておけ。明日のこの時間には俺たちは自由になっているはずだ……』
通信を終えると、下士官はふぅと息を吐き出す。そして、ヤシマの情報機関の職員に笑顔で話しかけた。
「これでいいですか?」
職員もそれに笑顔で応える。
「問題ないです。お疲れ様でした」
「ところで、こんなことで本当に反乱が起きるんですかね。確かに俺たちは撤退のどさくさで艦を乗っ取りましたが」
「その点は大丈夫だそうですよ。アルビオン一の知将が考えた策なので。と言っても、私もちょっと不安なんです。でも何としてでも成功してもらわないと……」
職員はやや困惑した表情でそう答えた。
■■■
シー艦隊の戦艦ファンシャンの下士官、チェン・ツォは同僚であるリャン・シャンと備品倉庫の片隅で在庫の確認をする振りをしながら、小声で話し合っていた。
「あの話は本当だと思うか?」とリャンが問うと、チェンは肩を竦める。
「どうなんだろうな? 俺のような学のない奴が見ても、我が軍の勝ちは揺らぎようがない。隠し玉がどれほどのものかは分からんが、上の連中も馬鹿じゃない。そう簡単に引っかからんだろう」
「なら、どうするんだ? あの話は聞かなかったことにするのか?」
そこでチェンは大きく首を横に振る。
「いや、確率は低くとも賭ける価値はある。それに武器を持ち込んだとしても士官連中にバレやしないんだ。隠し玉とやらが失敗に終わったら何事もなかったように命令に従っておけばいい」
「なるほどな。確かにそれならリスクは少ないな。なら、この話を他の連中に回しておく。お前の次の戦闘配置は戦闘指揮所だったな」
「そうだ」とチェンは頷く。
「なら、お前がこの艦の大将だ。ことが始まったら、お前が指揮を執ってくれ」
「俺がか? 柄じゃねぇよ。准士官の誰かの方がいいだろう」とチェンは難色を示す。
「お前なら他の連中も納得する。それに甲板長や掌砲長はCICにはいねぇ。操舵長は手を離せんだろうし、度胸のあるお前が適任なんだ。それにどうせ賭けるなら、俺はお前に賭けたい」
リャンは真剣な表情でチェンを見つめる。
「分かった。なら、お前は緊急時対策所を掌握してくれ。あと機関士のワンにも話を通しておいてくれ……」
チェンとリャンは秘密回線を使い、仲間を増やしていった。
そして、戦闘準備が始まる前に熱線銃を戦闘指揮所などに隠していった。
六月三十日に日付が変わり、戦闘配置が発せられると、チェンは自らの席に何気ない表情で座るが、内心では冷や汗を流していた。
(武器を持ち込んだことがバレたら銃殺ものだろうな。他の連中が焦って失敗したら俺も道連れになる。しくじったかもしれんな……)
そう考えるものの、既に賽は投げられたと考え、任務に集中していった。
標準時間〇二二〇に本格的な戦闘が始まると、チェンの目にもゾンファ軍の優位は揺るぎようがないとしか見えなかった。
(圧倒的じゃないか。これで逆転できるのか?)
そんなことを考えているが、司令官であるシーの命令に従い、前進を続けていく。
標準時間〇二四五。
シー艦隊はヤシマ艦隊とロンバルディア艦隊に猛攻を加え、チェンは諦めかけていた。
(やはりデマだったか……ブラスターをどうやって、ここから持ち出すかだな……)
その時、索敵員の焦った声が耳を打つ。
「敵の伏兵です! 天頂方向の浮きドックから攻撃してきます!」
更に他の索敵員も大声を上げる。
「ステルスミサイル接近中! ステルス機雷が隠されています!」
「迎撃準備! とりあえず、上方の敵は無視してミサイルを撃ち落とせ!」
それから五分ほどは何も考えることなく、戦闘に没頭した。
標準時間〇二五〇。
突然、メインスクリーンにヤシマの首相タロウ・サイトウの顔が映し出された。鹵獲したゾンファ艦を使って強引にシステムに侵入したのだ。
『ゾンファ共和国艦隊に告ぐ! 直ちに機関を停止し、降伏せよ! さもなくば、一艦残らず殲滅する!』
その言葉に艦長が侮蔑を込めた口調で答える。
「くだらん。伏兵如きで我らが負けるわけがない! このような戯言は聞き流せ!」
艦長の声を聴きながら、チェンはコンソールの下に隠してあったブラスターをゆっくりと取り出した。
(そろそろ合図があるはずだ……)
他の下士官兵たちも同じ思いなのか、チラチラとチェンの方に視線を送っている。
その時、再びメインスクリーンが切り替わった。
『我々はゾンファ革命軍である! 同胞たちよ! 今こそ立ち上がれ! 人を人とも思わぬ軍上層部に正義の鉄槌を下すのだ!』
その直後、チェンは立ち上がった。
「貴様! 戦闘中だぞ!……」と士官の一人が叱責し始めるが、チェンは冷静にブラスターの引き金を引いた。
「革命軍万歳! 今こそ立ち上がれ!」
チェンはそう叫ぶと、驚きの表情を浮かべている艦長も撃ち殺す。更に士官たちを次々と射殺し、艦長席に座った。そして、マイクを握ると、艦内に向けて放送を行った。
「CICはチェン・ツォが掌握した! 我々は革命軍に合流する! 直ちに対消滅炉停止せよ!」
その頃、リャンは副長以下の士官を殺害し、ERCを制圧していた。その後、すぐに機関制御室も制圧したという情報がチェンの下に上がってきた。
チェンは完全に艦を掌握すると、艦隊全艦に向けて放送を行った。
「ファンシャンは革命軍が完全に掌握した。志を同じくする者は直ちに行動を開始せよ。これが祖国を変える最後のチャンスだ。我に続け! 革命軍万歳!」
その放送によって、シー艦隊以外でも機関を停止して降伏する艦が現れるようになる。
それを見届けたチェンは政治将校のウー・カイジュンを探し始めた。
他の士官と違い、ウーには戦闘中に決まった配置がない。反乱を成功させるまでは、ウーの存在を無視していたが、機関を止めた今、チェンは復讐を思いついた。
ウーは反乱がおきたことを知ると、士官室の調理室に逃げ込み、隠れた。しかし、艦内のシステムに精通している下士官たちはすぐに彼の居場所を見つけ、引きずり出した。
「た、助けてくれ。私は党の命令に従っただけなんだ……」
涙を流して命乞いをするウーをチェンは冷ややかな目で見つめる。
「鞭打ちの懲罰を食らった奴は一発ずつ殴れ! 簡単に殺すな!」
それだけ言うとウーの襟元を掴んで立ち上がらせ、容赦のない一撃を顎に打ち込む。
派手に吹き飛んでいくウーを見たチェンは、それで終わったとばかりにCICに戻っていった。
それから五十人以上の下士官や兵士が代わる代わるウーを殴っていく。
ウーはその行いに相応しい最期を遂げた。
チェンの放送直後、司令官のシー・シャオロンがヒステリー気味に喚いた。
「裏切り者は沈めてしまいなさい! ファンシャンを攻撃するのよ!」
その命令を受けた士官が掌砲手に命令を伝えるが、掌砲手は命令を実行することなく、手を動かさない。
「何をしているの! すぐに攻撃を……」とシーが言ったところで、バシュッという空気を焼く音と共に、彼女の声が途切れた。
秘かに持ち込まれたブラスターによって額を撃ち抜かれ即死したのだ。
「ざまぁみろ! ようやくお前のヒステリーに突き合わされなくて済むぜ!」
勝利の雄叫びを上げたが、すぐに生き残った士官が反撃し、激しい銃撃戦が始まった。
その銃撃戦は唐突に終了した。
シー艦隊の旗艦ウーイーシャンはCICが機能せず、反撃することも降伏することもできないまま、ヤシマ艦隊の砲撃を受けて爆散してしまったのだ。
これにより、シー艦隊の指揮命令系統は混乱に陥り、更に多くの艦で反乱が起きていく。
前衛艦隊は艦隊として機能しなくなった。
時は会戦前日、ゾンファ艦隊がジャンプアウトした直後に遡る。
アルビオンの第十一艦隊が潜んでいる浮きドックの一つに、イーグンジャンプポイント会戦で降伏したゾンファの戦艦が二隻隠されていた。
そこにはヤシマの情報機関の職員十数名と降伏したゾンファ軍の下士官約百名がいた。
ゾンファ軍の下士官たちはあるシステムを使って、進攻してくるゾンファ艦隊のうち、シオン・チョン艦隊とシー・シャオロン艦隊に対し、極秘裏に通信を送っていた。
そのシステムは下士官たちが独自に構築したもので、艦隊内であれば士官たちに見られることなく、連絡を取り合うことができるものだ。
『……我々はゾンファ革命軍だ。こんなことは言わなくても分かっているだろうが、今の祖国の支配者たちは完全に腐っている。俺たち兵士は消耗品であって、人ではないと思っていやがるんだ。そんな奴らが政権を握っていては、俺たちだけじゃなく、子供たちにも未来はない……』
ここにいる下士官たちは“ゾンファ革命軍”と名乗り、ハースとクリフォードが素案を作ったシナリオに従って、艦隊にいる同僚たちにプロパガンダを行っていたのだ。
『……このまま国家統一党の連中を勝たせてしまっていいのか? ここで奴らが勝利を手に入れたら、俺たちは更に酷使される。それを阻止するんだ……これだけの大艦隊だから負けるはずがないと思っているんだろうが、そんなことはない。具体的な作戦は言えないが、連合艦隊には強力な隠し玉がある……』
勝利の可能性に言及した後、具体的な行動について説明していく。
『……隠し玉が発動したら、士官たちは大混乱に陥るはずだ。その隙を突いて、立ち上がれ。その準備として、まずは戦闘指揮所、緊急時対策所、機関制御室に武器を隠しておくんだ。戦闘準備が始まる前なら俺たち下士官と准士官連中が口裏を合わせれば、簡単に持ち込めるはずだ……あとは艦隊が混乱したところでその三ヶ所を占拠しろ。そして、対消滅炉を止めるんだ。そうすれば、降伏したことになる。連合艦隊は降伏した艦には攻撃しないことを約束してくれた……』
更に情報のリークについても注意を促していた。
『……裏切りを考えている奴に言っておく。ここで士官にたれ込んでも、奴らはお前の言うことなど聞きはしない。あの政治将校どもなら、話を聞いてくれるかもしれんが、お前も同罪だといって罰を与えるだろう。奴らはそれだけを楽しみに生きているんだからな……それに士官どもがこの話を知ったとしても問題はない。士官だけで戦争はやれんのだから、下士官や兵士をCICに入れるしかないんだ……』
その言葉を信じたのか、この通信の内容は一切漏洩しなかった。准士官以下の兵士たちの政治将校や士官たちへの怒りが大きかったこともあるが、仲間を裏切った場合、政治将校が与える体罰以上に厳しい私刑が待っているためだ。
『……決行のタイミングはこちらから指示する。それまでは大人しく奴らの言うことを聞いておけ。明日のこの時間には俺たちは自由になっているはずだ……』
通信を終えると、下士官はふぅと息を吐き出す。そして、ヤシマの情報機関の職員に笑顔で話しかけた。
「これでいいですか?」
職員もそれに笑顔で応える。
「問題ないです。お疲れ様でした」
「ところで、こんなことで本当に反乱が起きるんですかね。確かに俺たちは撤退のどさくさで艦を乗っ取りましたが」
「その点は大丈夫だそうですよ。アルビオン一の知将が考えた策なので。と言っても、私もちょっと不安なんです。でも何としてでも成功してもらわないと……」
職員はやや困惑した表情でそう答えた。
■■■
シー艦隊の戦艦ファンシャンの下士官、チェン・ツォは同僚であるリャン・シャンと備品倉庫の片隅で在庫の確認をする振りをしながら、小声で話し合っていた。
「あの話は本当だと思うか?」とリャンが問うと、チェンは肩を竦める。
「どうなんだろうな? 俺のような学のない奴が見ても、我が軍の勝ちは揺らぎようがない。隠し玉がどれほどのものかは分からんが、上の連中も馬鹿じゃない。そう簡単に引っかからんだろう」
「なら、どうするんだ? あの話は聞かなかったことにするのか?」
そこでチェンは大きく首を横に振る。
「いや、確率は低くとも賭ける価値はある。それに武器を持ち込んだとしても士官連中にバレやしないんだ。隠し玉とやらが失敗に終わったら何事もなかったように命令に従っておけばいい」
「なるほどな。確かにそれならリスクは少ないな。なら、この話を他の連中に回しておく。お前の次の戦闘配置は戦闘指揮所だったな」
「そうだ」とチェンは頷く。
「なら、お前がこの艦の大将だ。ことが始まったら、お前が指揮を執ってくれ」
「俺がか? 柄じゃねぇよ。准士官の誰かの方がいいだろう」とチェンは難色を示す。
「お前なら他の連中も納得する。それに甲板長や掌砲長はCICにはいねぇ。操舵長は手を離せんだろうし、度胸のあるお前が適任なんだ。それにどうせ賭けるなら、俺はお前に賭けたい」
リャンは真剣な表情でチェンを見つめる。
「分かった。なら、お前は緊急時対策所を掌握してくれ。あと機関士のワンにも話を通しておいてくれ……」
チェンとリャンは秘密回線を使い、仲間を増やしていった。
そして、戦闘準備が始まる前に熱線銃を戦闘指揮所などに隠していった。
六月三十日に日付が変わり、戦闘配置が発せられると、チェンは自らの席に何気ない表情で座るが、内心では冷や汗を流していた。
(武器を持ち込んだことがバレたら銃殺ものだろうな。他の連中が焦って失敗したら俺も道連れになる。しくじったかもしれんな……)
そう考えるものの、既に賽は投げられたと考え、任務に集中していった。
標準時間〇二二〇に本格的な戦闘が始まると、チェンの目にもゾンファ軍の優位は揺るぎようがないとしか見えなかった。
(圧倒的じゃないか。これで逆転できるのか?)
そんなことを考えているが、司令官であるシーの命令に従い、前進を続けていく。
標準時間〇二四五。
シー艦隊はヤシマ艦隊とロンバルディア艦隊に猛攻を加え、チェンは諦めかけていた。
(やはりデマだったか……ブラスターをどうやって、ここから持ち出すかだな……)
その時、索敵員の焦った声が耳を打つ。
「敵の伏兵です! 天頂方向の浮きドックから攻撃してきます!」
更に他の索敵員も大声を上げる。
「ステルスミサイル接近中! ステルス機雷が隠されています!」
「迎撃準備! とりあえず、上方の敵は無視してミサイルを撃ち落とせ!」
それから五分ほどは何も考えることなく、戦闘に没頭した。
標準時間〇二五〇。
突然、メインスクリーンにヤシマの首相タロウ・サイトウの顔が映し出された。鹵獲したゾンファ艦を使って強引にシステムに侵入したのだ。
『ゾンファ共和国艦隊に告ぐ! 直ちに機関を停止し、降伏せよ! さもなくば、一艦残らず殲滅する!』
その言葉に艦長が侮蔑を込めた口調で答える。
「くだらん。伏兵如きで我らが負けるわけがない! このような戯言は聞き流せ!」
艦長の声を聴きながら、チェンはコンソールの下に隠してあったブラスターをゆっくりと取り出した。
(そろそろ合図があるはずだ……)
他の下士官兵たちも同じ思いなのか、チラチラとチェンの方に視線を送っている。
その時、再びメインスクリーンが切り替わった。
『我々はゾンファ革命軍である! 同胞たちよ! 今こそ立ち上がれ! 人を人とも思わぬ軍上層部に正義の鉄槌を下すのだ!』
その直後、チェンは立ち上がった。
「貴様! 戦闘中だぞ!……」と士官の一人が叱責し始めるが、チェンは冷静にブラスターの引き金を引いた。
「革命軍万歳! 今こそ立ち上がれ!」
チェンはそう叫ぶと、驚きの表情を浮かべている艦長も撃ち殺す。更に士官たちを次々と射殺し、艦長席に座った。そして、マイクを握ると、艦内に向けて放送を行った。
「CICはチェン・ツォが掌握した! 我々は革命軍に合流する! 直ちに対消滅炉停止せよ!」
その頃、リャンは副長以下の士官を殺害し、ERCを制圧していた。その後、すぐに機関制御室も制圧したという情報がチェンの下に上がってきた。
チェンは完全に艦を掌握すると、艦隊全艦に向けて放送を行った。
「ファンシャンは革命軍が完全に掌握した。志を同じくする者は直ちに行動を開始せよ。これが祖国を変える最後のチャンスだ。我に続け! 革命軍万歳!」
その放送によって、シー艦隊以外でも機関を停止して降伏する艦が現れるようになる。
それを見届けたチェンは政治将校のウー・カイジュンを探し始めた。
他の士官と違い、ウーには戦闘中に決まった配置がない。反乱を成功させるまでは、ウーの存在を無視していたが、機関を止めた今、チェンは復讐を思いついた。
ウーは反乱がおきたことを知ると、士官室の調理室に逃げ込み、隠れた。しかし、艦内のシステムに精通している下士官たちはすぐに彼の居場所を見つけ、引きずり出した。
「た、助けてくれ。私は党の命令に従っただけなんだ……」
涙を流して命乞いをするウーをチェンは冷ややかな目で見つめる。
「鞭打ちの懲罰を食らった奴は一発ずつ殴れ! 簡単に殺すな!」
それだけ言うとウーの襟元を掴んで立ち上がらせ、容赦のない一撃を顎に打ち込む。
派手に吹き飛んでいくウーを見たチェンは、それで終わったとばかりにCICに戻っていった。
それから五十人以上の下士官や兵士が代わる代わるウーを殴っていく。
ウーはその行いに相応しい最期を遂げた。
チェンの放送直後、司令官のシー・シャオロンがヒステリー気味に喚いた。
「裏切り者は沈めてしまいなさい! ファンシャンを攻撃するのよ!」
その命令を受けた士官が掌砲手に命令を伝えるが、掌砲手は命令を実行することなく、手を動かさない。
「何をしているの! すぐに攻撃を……」とシーが言ったところで、バシュッという空気を焼く音と共に、彼女の声が途切れた。
秘かに持ち込まれたブラスターによって額を撃ち抜かれ即死したのだ。
「ざまぁみろ! ようやくお前のヒステリーに突き合わされなくて済むぜ!」
勝利の雄叫びを上げたが、すぐに生き残った士官が反撃し、激しい銃撃戦が始まった。
その銃撃戦は唐突に終了した。
シー艦隊の旗艦ウーイーシャンはCICが機能せず、反撃することも降伏することもできないまま、ヤシマ艦隊の砲撃を受けて爆散してしまったのだ。
これにより、シー艦隊の指揮命令系統は混乱に陥り、更に多くの艦で反乱が起きていく。
前衛艦隊は艦隊として機能しなくなった。
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