転生ろうそく王子は愛に溺れるだけじゃない!

ゆうきぼし/優輝星

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20好きと言う感情 Sideイスベルク

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「イスベルク!見て!なんか凄いよこの服」
 目の前でルミエールがくるりと回って見せると裾がふわりと広がる。ボトムがスリムな形に対してトップスが淡い色彩のふんわりとしたブラウスだ。手触りのよい光沢のある生地でストロベリーブロンドのルミエールの髪によく似合う。
「キャンベルが送ってきてくれたんだ」
「さすが。あいつやるなあ。今夜は何かお披露目があるんじゃないかと急いで仕上げてくれたらしいぜ」
 ユージナルが俺より先にこの部屋に来ているのが気に入らないが、妖精のような出で立ちのルミエールが可愛いから許してやろう。

 会場にはすでに大勢の側近たちが集まっていた。
「わあ。人がいっぱいいるね。皆偉い人達なの?」
「父と俺の側近達だ。何か事が起きた時に顔をあわせることが多い奴らだな」
「そうなんだ。わかった。なるべく顔を覚えておくよ」
「そうしてくれるとありがたいが無理はするなよ」
「うん。でも必要なことでしょ?頑張るよ」
 なんて健気でいじらしいのだろう。ルミエールが可愛いくて堪らない。仕草も表情も声も。そして性格もすべてが好ましい。前向きでいて物怖じしない。素直だし明るくて思いやりがある。俺の事を想って馬車の中で俺の頭を撫でてくれたのも。あんな風にされたのは幼いころ母上にしてもらったきりだ。誰かにあんな風に甘やかされた事なぞ久しい。心に小さな温かい炎が灯ったような、とても心地よいものだった。


「皆の者。今宵はルミエールの歓迎会だ。存分に楽しんでくれ」
 父上の掛け声でざっと一斉に頭を下げる。ルミエールもマネをして下げているな。つむじが見えて可愛いぞ。
「ルミエール。一言挨拶をしてくれ」
 俺がそっと耳元で囁くと緊張した面持ちでこちらを見た。ああ可愛い。なんど可愛いと言ったかわらかないほどかわいい。
「ルミエールと申します。今日からこの城でお世話になります。よろしくお願いします」
 パチパチと拍手が聞こえる。何人かは様子を伺ってる奴もいる。そいつらの顔は覚えた。後で締め上げてやろう。俺のルミエールの挨拶に拍手をしないなんて!

「わあ。凄い。ごちそうがいっぱい。これボルシチっぽい。こっちはクリームシチュー?わあ。このお肉は皮がぱりぱりしてる。お肉が柔らかい。凄い!シャーベットだあ。幸せ~~」
「くくく。慌てずゆっくり食べろよ」
「うん。美味しいよ。ごはんが凄く美味しい!」
 美味しそうに小さな口をモグモグ動かして食べる仕草がほほえましい。口元についたシチューを舐めてやりたいとじっと見つめていると俺の口元にひとさじすくって持ってくる。食べたいと思われたらしい。
「はい。あ~ん」
「うん。美味いな」

「おい……イスベルク様がほほ笑まれているぞ」
「なんと本当にイスベルク様なのか?」
 外野がうるさい。俺だって笑うときは笑うのだ。ほっておいてくれ。

 食事が一巡したところで家臣たちが交互に挨拶にやってきた。最初のうちはにこにこと答えていたルミエールだがそのうちこくりこくりとやりだした。
 長旅だったからな。疲れが出たのだろう。カクンと首が倒れたのを片手で支え、そのまま膝の上に乗せる。腹もいっぱいになって眠くなったに違いない。年齢に対して少し小さめの身体は栄養が足りてなかったせいだろう。食事に気を付け運動をさせれば健康的になるに違いない。
 
 健康的でないと子供も産むのが大変だろうな……子供。ああ、父上が余計な事を言うから妄想が。子供も可愛いが。まずはルミエールを可愛がりたい。柔らかい髪をそっとかきあげるとおでこにキスを一つ落とした。上気したバラ色の頬をすり寄せると小さな唇が目に入る。うっすらと開かれた唇に舌をこじ入れてみたい。指先で下唇をなぞるとふにゃっと笑う。
「くくく。可愛いな……」

「コホン! あ~。イスベルク様。ルミエール様がお疲れのようでしたらお部屋に連れて行かれてはどうでしょうか?」
 ユージナルに声をかけられるまで俺は周りの視線を集めてる事に気づかなかった。しまった。つい。
「わかった。少しの間席を外す。皆はそのまま歓談しておいてくれ」
 そそくさと立ち上がるとルミエールを横抱きにしてその場を立ち去る。
「頭の固い頑固な連中に仲が良いところを見せつけるためにわざとやってるなら良いんだがよ。無意識だとこっちの目のやり場に困るってばよ!」
 いつの間にか俺の横にいるユージナルが文句を言う。
「すまない。つい、可愛すぎて」
「あ~。もう。やっぱ無意識だったかあ。まあいいんじゃない。こうなったら溺愛してますって姿勢で突っ走ったほうがいいかもよ」
「突っ走るとは?」
「反対派がいるんじゃねえか?お前の縁談とか目論んでたやつらもいるだろうしな」
「俺にはルミエールしか見えないぞ」
「はいはい、ごちそうさま~。とりあえず寝かして来いよ。俺は扉の前で待っているから」

 寝室のドアを開けそっとベットに降ろすとむにゃむにゃと俺の服の裾を掴む。
「くぅ~。……」
 ああ可愛い。可愛すぎておかしくなりそうだ。離れたくない。こっそりと唇を奪う。やわらかな唇に理性が飛びそうになる。長いまつげを舌先で舐め、かわいい鼻先を軽く甘噛みした。まだ起きない。そっと下半身を撫でる。ああもうこのままいっそ……。
「ん……もぉ食べれない……」
「ぷっくくく」
 はあ。あぶなかった。寝言に救われたかもしれない。深呼吸を繰り返し、そっと掴んでいる指を外す。


 これが好きという感情なのだろうか?番に固執してしまう竜人とは厄介なものだと思っていた。戦いで勝つために洞察力も身に着け、人を威圧することも覚えた。だが、感情だけが置き去りになっていると周りからは言われた。自分ではよくわからない。感情とはどういうものか?戦いには必要ない。なくても良いとさえ思っていた。

 だけど今は違う。日に日に思いばかりが募ってしまう。早く。早くこの手にしたい。誰にも渡したくない。俺のものにしてしまいたいんだ。だが、怖がらせたくない。普段は冷静さに努めているがルミエールから触られると欲望があふれそうで固まってしまう。ユージナルが傍に居てくれてよかった。あいつがいなければ俺は襲い倒していたかもしれない。傷つけたくはないのだ。蕩けさせて俺なしでは生きていけなくしたいんだ。
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