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1僕はルミエール

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 大陸の南に君臨する常夏の国。その名も炎の国フレムベルジュ。その地に住む王族は皆、炎属性であり、火魔法が得意であった。火柱や火炎など炎を操る魔法を多彩にくりひろげることが出来る。性格も豪胆で明朗活発。悪く言えば脳筋で単細胞。赤髪に陽に焼けた褐色な肌が特徴的だ。

 その中でただ一人、第五王子である僕。ルミエール・フレムベルジュだけは他の兄弟とは違っていた。側室だった母さまが北国出身のせいか僕の肌は陽に焼けても赤くなるだけで褐色にならない。火魔法もろうそくの炎しか灯すことが出来ない。周りからもとても王族とは思えない、役立たずのろうそく王子と言われ続けてきた。
 父である王は自分の周りにいない母さまの白い肌や銀の髪が珍しかったのだという。だが僕が産まれて徐々に興味を失くしたらしい。この国では単純に力がすべてだった。炎も操れない男子など必要ないと思われたのだ。

 それでも母さまは気丈にふるまった。雄弁に相手に向かい、なんとか城の離れの屋敷に移り住んだ。城を離れるときに僕らについてきてくれた使用人は戦力外になる老兵や年配者ばかりだった。王族たちがいつか僕や母さまが歯向かうのではないかと危惧しての措置だったのだろう。何故なら僕は本来は第三王子にあたるから。チカラを求める王がなかなか我が子と認めず継承権の順位を下げるため第五王子となった。僕は表舞台には出ず、屋敷の裏庭にやってくる動物たちと本が友達だった。穏やかな日常が崩れたのは病弱だった母さまが亡くなられてからだ。僕は高齢化が進んでる長年仕えて来てくれてる侍従たちを解放した。そこからは兄達からのいじめがエスカレートし罵られる日々が続く。屋敷も取り上げられた。最初は使用人部屋。今は馬小屋で暮らしている。食事もろくに与えられず。生きる気力もなくなっていた。

 そんなある日の事。遠方からとても偉いお客様が来るのだと朝から城は大騒ぎだった。普段は僕の事なぞ誰も相手もしないのに今日ばかりは猫の手も借りたいようでたくさんの用事を言いつけられている。
「おいっ! 邪魔だっ」
 ガシャンと僕の床掃除用のバケツを蹴飛ばしたのは第四王子のヴァンだ。短く刈りあげた赤髪に意地悪そうな笑みを浮かべている。普段は上着も着ないくせに今日は正装だ。僕はこぼれた水を拭きとるために床に這いつくばった。
「掃除もろくに出来ないのか。僕の靴を汚さないでくれよ」
 装飾だらけの服を着た第三王子のグロウが僕の手を踏みつける。
「痛いっ」
「あぁん? なんか文句があるのか?」
 ボォッと炎を手から出したヴァンが僕の服の裾を燃やした。
「やだっ! 熱いっ。やめてよ!」
 急いで裾をはたいて火を消すと慌てる僕の姿を見たヴァンが笑い転げる。
「このバカ! 僕の服にまで火の粉が飛ぶだろうが!」
 グロウがヴァンを投げ飛ばした。火柱があがり兄弟げんかが始まった隙に僕は逃げ出す。こんなのは日常茶飯事だ。物陰に隠れるようにして僕は火傷の箇所に回復魔法をかける。火属性以外の魔法が使えることは周りには内緒だ。母さまから他者にバレたらもっとひどい目に合うかもしれないと誰にも言わない様に約束させられた。もう嫌だ。母さま。僕も母さまのところに逝きたい。

 ふいに大広間の方が騒がしくなった。今日のお客様が来たのだろうか? 皆が騒ぐほどの方なのだろう。だが今の自分は裾が燃えた薄汚れた服だ。とても人前にでれらるような姿ではない。そっと吹き抜けの階段を登り2階から広間を見下ろす。そこには銀色の髪に軍服姿の男性が居た。
「母さまと同じ髪の色だ。なんて綺麗なんだろう」
 しばらく見惚れていると男性が疲れている様子に気づいた。きっと母と同じ北の国からいらしたのだろう。南国の熱さにやられたのかもしれない。周囲に何か告げるとこちらに向かって階段を登り始めた。
「え? こちらに来る。どうしよう」
 迷うと同時に広間の端にヴァンとグロウが見えた。互いに喧嘩に夢中でお客様が到着したのに気付いていない。グロウの服がところどころ焦げて装飾が燃えている。これには頭に血が上っているのだろうな。そう思った瞬間、グロウの放つ火花がゴォッと膨れ上がった。業火だ! ヴァンがそれを避ける。避けた業火はこちらに飛んできた。

 お客様の護衛が業火を氷の壁で遮断する。凄い。さすがだ。だがその衝撃でお客様の身体が揺らぐ。
「ダメだ! 危ないっ」
 僕はお客様を庇い階段から転げ落ちた。激しい衝撃が後頭部に走る。

 ああ。最後にこんな綺麗な方を助けることが出来て良かった………………って? 痛ってぇな。あれ? ここどこだ? お腹減ったなあ。コンビニのシュークリームはどこだ? なんでこんなに頭がいてえ……のかな?


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