そして乙女ゲームは始まらなかった

お好み焼き

文字の大きさ
4 / 7

4兄の手紙

しおりを挟む
──アリシア。可愛いアリシア。俺の自慢の妹、可愛いアリシア。俺も心からアリシアを愛しているよ。いつも俺に大好きと手紙をくれるが、俺はようやく国王になった。よって血を繋ぐ為に近親婚が許される立場となった。これでようやくアリシアも俺にお兄様大好きと遠回しに愛を伝える必要はなくなった。セドリックを愛していると、その声で聞きたい。早く会いたい。会いたくて堪らない。いつもアリシアに関する報告を読んでいる。定期的に描かせている絵姿でアリシアの成長を見守ってきたが、これからは直接この目でアリシアを愛でることが出来る。楽しみで仕方ない。さぞ美しくなっていることだろう。愛してるよ。アリシアに会って直接伝えたい。早くアリシアに触れた──バン!


「………………」

足元から虫が這い上がってくるような感覚に思わず手紙をバン!と机に裏返した。そして額もバン!と机にぶつけた。

ちょっと今は理解が追い付かないです。

…………え?
なんで?  なんで愛してる?

「……アリシアお嬢様、っ」

背後にいた侍女を見ると、泣きながらポケットから紙を出してきた。

「それは、なに?」

……随分と古い紙だ。
薄く茶色がかっている。なんとなく見覚えもあるような……。

「……っ、お嬢様は……セドリック様が留学する日、わたしにこの手紙を処分しろと命じました……セドリック様が隣国に婿入りすると決まった日も、セドリック様からきた手紙を読まれませんでしたっ……辛くて、辛くて……読めなかったんですよね?  セドリック様をお慕いしているからっ。あああっっ、でもようやく、ようやくお二人は結ばれることができるんですよね?  毎晩セドリック様が大好きだと紙に綴るお嬢様を見るのは、わたしも辛かったですぅ……」
「…………待って待って、ちょ、待っ」
「大丈夫です!  お嬢様は何も心配することはありません!  この手紙を読んだら、不安なんて吹き飛びます!  あの日お嬢様からこの紙を処分しろと言われて、もしかしてわたしの悪口でも書いてあるのかと疑って思わず手紙を読んでしまいましたが、この手紙にはセドリック様のアリシアお嬢様に対する愛に溢れた謝罪文と求婚の言葉と新婚旅行先の候補と子供は何人欲しくて男の子と女の子ならどっちがいいかと、」
「待て待て待て待て待て!  ちょっと待ってよう!」

侍女が顔面崩壊させながら鼻水にまみれた手紙をひろげて押し付けてくる。
混沌カオスだ。
一体なにがどうなってこうなったの?

「……あっ」

あの日処分したと思っていた手紙の冒頭には……お兄様の気持ちが長々と綴られていた。



──アリシア。どうしてもお前の姿を見ると可愛くていじめたくて素直になれない。でも先日アリシアにお兄様が欲しいと言われて気付いた。俺はお前に嫌われたかったんだ。お前の姿を見ると可愛くてずっと側に置いておきたくなる。抱き締めたら離したくなくて、胸が苦しくて堪らなくなる。こんな気持ちを抱いたままだと、いつか俺はお前を傷つけてしまう。きっと取り返しがつかないほど酷いことをしてしまう。そう考えたらアリシアが俺に近付かないように、嫌われるしかないと思った。今までずっとお前の物ばかり欲しがってごめん。アリシアに酷いことをしないよう、アリシアだけには手を出さない、そう決めたら、悲しくて虚しくて仕方なくて、生きている意味さえ解らなくて、せめてお前の物が欲しかった。お前が手に入らないなら、お前の物、お前が欲しがる物だけでも手に入れたかった。最低な兄でごめん。俺はアリシアさえいれば他には何も要らな──


「…………お兄様」

残りは侍女の鼻水で文字が滲んでいて読めませんでした。

というか理解も追い付かないし納得も出来ないし意味が解りません。お兄様が私を愛している?  ならあの仕事自慢や重宝自慢は?  更には遠い存在になったのを何度も仄めかして…………あ。

「お兄様の手紙は私に届く前に事前に隣国の王家に内容を知られていたかしら?」
「それは当然あるかと。セドリック様は王女の婚約者でしたから。それにあんな弱小国に大国の公爵令息が婿入りするなんて、むしろ乗っ取りを危惧して実家へ送る手紙でも必ず内容をあらためるかと」
「…………そうね」

ならあの仕事自慢は私への近況報告で、重宝自慢は婿入り先の王家への配慮であった可能性がある。遠い存在になったアピールは……もしかしたら乗っ取りを気取られない為のものだった……その可能性もある。

そこで勢いよく部屋のドアが開いて、慌てた様子の両親が入ってきた。

「あ、あ、ああアリシア!  すぐに身支度を整えて客室にきなさい!」
「え?」
「セドリッ……隣国の国王陛下の御成りよ!  アリシアを隣国の王妃として迎えにきたのよ!」
「なっ、……に?」


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

彼女が高級娼婦と呼ばれる理由~元悪役令嬢の戦慄の日々~

プラネットプラント
恋愛
婚約者である王子の恋人をいじめたと婚約破棄され、実家から縁を切られたライラは娼館で暮らすことになる。だが、訪れる人々のせいでライラは怯えていた。 ※完結済。

この悪役令嬢には悪さは無理です!みんなで保護しましょう!

naturalsoft
恋愛
フレイムハート公爵家令嬢、シオン・クロス・フレイムハートは父に似て目付きが鋭くつり目で、金髪のサラサラヘアーのその見た目は、いかにもプライドの高そうな高飛車な令嬢だが、本当は気が弱く、すぐ涙目でアワアワする令嬢。 そのギャップ萌えでみんなを悶えさせるお話。 シオンの受難は続く。 ちょっと暇潰しに書いたのでサラッと読んで頂ければと思います。 あんまり悪役令嬢は関係ないです。見た目のみ想像して頂けたらと思います。

悪役令嬢に相応しいエンディング

無色
恋愛
 月の光のように美しく気高い、公爵令嬢ルナティア=ミューラー。  ある日彼女は卒業パーティーで、王子アイベックに国外追放を告げられる。  さらには平民上がりの令嬢ナージャと婚約を宣言した。  ナージャはルナティアの悪い評判をアイベックに吹聴し、彼女を貶めたのだ。  だが彼らは愚かにも知らなかった。  ルナティアには、ミューラー家には、貴族の令嬢たちしか知らない裏の顔があるということを。  そして、待ち受けるエンディングを。

悪役令嬢がキレる時

リオール
恋愛
この世に悪がはびこるとき ざまぁしてみせましょ 悪役令嬢の名にかけて! ======== ※主人公(ヒロイン)は口が悪いです。 あらかじめご承知おき下さい 突発で書きました。 4話完結です。

よくある父親の再婚で意地悪な義母と義妹が来たけどヒロインが○○○だったら………

naturalsoft
恋愛
なろうの方で日間異世界恋愛ランキング1位!ありがとうございます! ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆ 最近よくある、父親が再婚して出来た義母と義妹が、前妻の娘であるヒロインをイジメて追い出してしまう話……… でも、【権力】って婿養子の父親より前妻の娘である私が持ってのは知ってます?家を継ぐのも、死んだお母様の直系の血筋である【私】なのですよ? まったく、どうして多くの小説ではバカ正直にイジメられるのかしら? 少女はパタンッと本を閉じる。 そして悪巧みしていそうな笑みを浮かべて── アタイはそんな無様な事にはならねぇけどな! くははははっ!!! 静かな部屋の中で、少女の笑い声がこだまするのだった。

ナイスミドルな国王に生まれ変わったことを利用してヒロインを成敗する

ぴぴみ
恋愛
少し前まで普通のアラサーOLだった莉乃。ある時目を覚ますとなんだか身体が重いことに気がついて…。声は低いバリトン。鏡に写るはナイスミドルなおじ様。 皆畏れるような眼差しで私を陛下と呼ぶ。 ヒロインが悪役令嬢からの被害を訴える。元女として前世の記憶持ちとしてこの状況違和感しかないのですが…。 なんとか成敗してみたい。

逆ハーレムエンド? 現実を見て下さいませ

朝霞 花純@電子書籍発売中
恋愛
エリザベート・ラガルド公爵令嬢は溜息を吐く。 理由はとある男爵令嬢による逆ハーレム。 逆ハーレムのメンバーは彼女の婚約者のアレックス王太子殿下とその側近一同だ。 エリザベートは男爵令嬢に注意する為に逆ハーレムの元へ向かう。

悪役令嬢なのかヒロインなのか、まずはそこからが問題だ

霜月零
恋愛
 わたし、マルガレーテ・フォンディーヌ伯爵令嬢は、生死の境を彷徨った拍子に前世を思い出した。  わたしは、前世で好きだった乙女ゲームのヒロインに転生していたのだ。  だが、ちょっと待って欲しい。  わたしは、本当にヒロインなのか?  前世のわたしはweb小説も好きだった。  中でも悪役令嬢が主人公の物語が好きで、軽く三桁は読み漁ったと思う。  悪役令嬢が主人公の物語では、ヒロインは大抵お馬鹿で自業自得で悲惨な目に合う。  もしかしてわたしは、乙女ゲームのヒロインじゃなく、悪役令嬢の物語の当て馬ヒロインだったりしないかしら。  わたしは乙女ゲームのヒロインなのかそうじゃないのか、まずはそこから調べることが必要だと思う。  破滅の未来を引き寄せない為にね! ※小説家になろう様等、他サイト様にも掲載予定です

処理中です...