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4兄の手紙
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──アリシア。可愛いアリシア。俺の自慢の妹、可愛いアリシア。俺も心からアリシアを愛しているよ。いつも俺に大好きと手紙をくれるが、俺はようやく国王になった。よって血を繋ぐ為に近親婚が許される立場となった。これでようやくアリシアも俺にお兄様大好きと遠回しに愛を伝える必要はなくなった。セドリックを愛していると、その声で聞きたい。早く会いたい。会いたくて堪らない。いつもアリシアに関する報告を読んでいる。定期的に描かせている絵姿でアリシアの成長を見守ってきたが、これからは直接この目でアリシアを愛でることが出来る。楽しみで仕方ない。さぞ美しくなっていることだろう。愛してるよ。アリシアに会って直接伝えたい。早くアリシアに触れた──バン!
「………………」
足元から虫が這い上がってくるような感覚に思わず手紙をバン!と机に裏返した。そして額もバン!と机にぶつけた。
ちょっと今は理解が追い付かないです。
…………え?
なんで? なんで愛してる?
「……アリシアお嬢様、っ」
背後にいた侍女を見ると、泣きながらポケットから紙を出してきた。
「それは、なに?」
……随分と古い紙だ。
薄く茶色がかっている。なんとなく見覚えもあるような……。
「……っ、お嬢様は……セドリック様が留学する日、わたしにこの手紙を処分しろと命じました……セドリック様が隣国に婿入りすると決まった日も、セドリック様からきた手紙を読まれませんでしたっ……辛くて、辛くて……読めなかったんですよね? セドリック様をお慕いしているからっ。あああっっ、でもようやく、ようやくお二人は結ばれることができるんですよね? 毎晩セドリック様が大好きだと紙に綴るお嬢様を見るのは、わたしも辛かったですぅ……」
「…………待って待って、ちょ、待っ」
「大丈夫です! お嬢様は何も心配することはありません! この手紙を読んだら、不安なんて吹き飛びます! あの日お嬢様からこの紙を処分しろと言われて、もしかしてわたしの悪口でも書いてあるのかと疑って思わず手紙を読んでしまいましたが、この手紙にはセドリック様のアリシアお嬢様に対する愛に溢れた謝罪文と求婚の言葉と新婚旅行先の候補と子供は何人欲しくて男の子と女の子ならどっちがいいかと、」
「待て待て待て待て待て! ちょっと待ってよう!」
侍女が顔面崩壊させながら鼻水にまみれた手紙をひろげて押し付けてくる。
混沌だ。
一体なにがどうなってこうなったの?
「……あっ」
あの日処分したと思っていた手紙の冒頭には……お兄様の気持ちが長々と綴られていた。
──アリシア。どうしてもお前の姿を見ると可愛くていじめたくて素直になれない。でも先日アリシアにお兄様が欲しいと言われて気付いた。俺はお前に嫌われたかったんだ。お前の姿を見ると可愛くてずっと側に置いておきたくなる。抱き締めたら離したくなくて、胸が苦しくて堪らなくなる。こんな気持ちを抱いたままだと、いつか俺はお前を傷つけてしまう。きっと取り返しがつかないほど酷いことをしてしまう。そう考えたらアリシアが俺に近付かないように、嫌われるしかないと思った。今までずっとお前の物ばかり欲しがってごめん。アリシアに酷いことをしないよう、アリシアだけには手を出さない、そう決めたら、悲しくて虚しくて仕方なくて、生きている意味さえ解らなくて、せめてお前の物が欲しかった。お前が手に入らないなら、お前の物、お前が欲しがる物だけでも手に入れたかった。最低な兄でごめん。俺はアリシアさえいれば他には何も要らな──
「…………お兄様」
残りは侍女の鼻水で文字が滲んでいて読めませんでした。
というか理解も追い付かないし納得も出来ないし意味が解りません。お兄様が私を愛している? ならあの仕事自慢や重宝自慢は? 更には遠い存在になったのを何度も仄めかして…………あ。
「お兄様の手紙は私に届く前に事前に隣国の王家に内容を知られていたかしら?」
「それは当然あるかと。セドリック様は王女の婚約者でしたから。それにあんな弱小国に大国の公爵令息が婿入りするなんて、むしろ乗っ取りを危惧して実家へ送る手紙でも必ず内容をあらためるかと」
「…………そうね」
ならあの仕事自慢は私への近況報告で、重宝自慢は婿入り先の王家への配慮であった可能性がある。遠い存在になったアピールは……もしかしたら乗っ取りを気取られない為のものだった……その可能性もある。
そこで勢いよく部屋のドアが開いて、慌てた様子の両親が入ってきた。
「あ、あ、ああアリシア! すぐに身支度を整えて客室にきなさい!」
「え?」
「セドリッ……隣国の国王陛下の御成りよ! アリシアを隣国の王妃として迎えにきたのよ!」
「なっ、……に?」
「………………」
足元から虫が這い上がってくるような感覚に思わず手紙をバン!と机に裏返した。そして額もバン!と机にぶつけた。
ちょっと今は理解が追い付かないです。
…………え?
なんで? なんで愛してる?
「……アリシアお嬢様、っ」
背後にいた侍女を見ると、泣きながらポケットから紙を出してきた。
「それは、なに?」
……随分と古い紙だ。
薄く茶色がかっている。なんとなく見覚えもあるような……。
「……っ、お嬢様は……セドリック様が留学する日、わたしにこの手紙を処分しろと命じました……セドリック様が隣国に婿入りすると決まった日も、セドリック様からきた手紙を読まれませんでしたっ……辛くて、辛くて……読めなかったんですよね? セドリック様をお慕いしているからっ。あああっっ、でもようやく、ようやくお二人は結ばれることができるんですよね? 毎晩セドリック様が大好きだと紙に綴るお嬢様を見るのは、わたしも辛かったですぅ……」
「…………待って待って、ちょ、待っ」
「大丈夫です! お嬢様は何も心配することはありません! この手紙を読んだら、不安なんて吹き飛びます! あの日お嬢様からこの紙を処分しろと言われて、もしかしてわたしの悪口でも書いてあるのかと疑って思わず手紙を読んでしまいましたが、この手紙にはセドリック様のアリシアお嬢様に対する愛に溢れた謝罪文と求婚の言葉と新婚旅行先の候補と子供は何人欲しくて男の子と女の子ならどっちがいいかと、」
「待て待て待て待て待て! ちょっと待ってよう!」
侍女が顔面崩壊させながら鼻水にまみれた手紙をひろげて押し付けてくる。
混沌だ。
一体なにがどうなってこうなったの?
「……あっ」
あの日処分したと思っていた手紙の冒頭には……お兄様の気持ちが長々と綴られていた。
──アリシア。どうしてもお前の姿を見ると可愛くていじめたくて素直になれない。でも先日アリシアにお兄様が欲しいと言われて気付いた。俺はお前に嫌われたかったんだ。お前の姿を見ると可愛くてずっと側に置いておきたくなる。抱き締めたら離したくなくて、胸が苦しくて堪らなくなる。こんな気持ちを抱いたままだと、いつか俺はお前を傷つけてしまう。きっと取り返しがつかないほど酷いことをしてしまう。そう考えたらアリシアが俺に近付かないように、嫌われるしかないと思った。今までずっとお前の物ばかり欲しがってごめん。アリシアに酷いことをしないよう、アリシアだけには手を出さない、そう決めたら、悲しくて虚しくて仕方なくて、生きている意味さえ解らなくて、せめてお前の物が欲しかった。お前が手に入らないなら、お前の物、お前が欲しがる物だけでも手に入れたかった。最低な兄でごめん。俺はアリシアさえいれば他には何も要らな──
「…………お兄様」
残りは侍女の鼻水で文字が滲んでいて読めませんでした。
というか理解も追い付かないし納得も出来ないし意味が解りません。お兄様が私を愛している? ならあの仕事自慢や重宝自慢は? 更には遠い存在になったのを何度も仄めかして…………あ。
「お兄様の手紙は私に届く前に事前に隣国の王家に内容を知られていたかしら?」
「それは当然あるかと。セドリック様は王女の婚約者でしたから。それにあんな弱小国に大国の公爵令息が婿入りするなんて、むしろ乗っ取りを危惧して実家へ送る手紙でも必ず内容をあらためるかと」
「…………そうね」
ならあの仕事自慢は私への近況報告で、重宝自慢は婿入り先の王家への配慮であった可能性がある。遠い存在になったアピールは……もしかしたら乗っ取りを気取られない為のものだった……その可能性もある。
そこで勢いよく部屋のドアが開いて、慌てた様子の両親が入ってきた。
「あ、あ、ああアリシア! すぐに身支度を整えて客室にきなさい!」
「え?」
「セドリッ……隣国の国王陛下の御成りよ! アリシアを隣国の王妃として迎えにきたのよ!」
「なっ、……に?」
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