播磨の美しい姫

阿弖流為

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こころ

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 戦の後、村上の城は一時の静寂に包まれていた。破壊された城壁や戦で負った傷を癒すために、村上の者たちが忙しく動き回っている。蘭姫もまた、傷ついた兵士たちと共に過ごす時間を大切にしていたが、心の中にはまだ解決されない思いが渦巻いていた。

 城の一角に座り込む蘭姫の前には、橘が静かに立っている。

 「蘭、どうした? まだ心に何か引っかかるものがあるのか?」

 橘の問いかけに、蘭姫は少しだけ目を伏せた。

 「勝ったはずなのに……なぜか胸が痛い。私は、戦って、守りたかったものを守ったはずなのに……」

 「それが戦だ。勝っても、何もかもが満たされるわけじゃない」

 橘の言葉は重かったが、蘭姫はその言葉の裏に、彼が抱える闇を感じ取ることができた。

 「でも、私が守ったものって、ほんとうにこれでよかったのか? 何かが足りない気がする。私は、戦いを通して何を成し遂げたのか、見失ってしまった気がする」

 橘は一歩前に進み、蘭姫の前に膝をついて顔を覗き込んだ。

 「蘭、お前はもう何度も戦いを重ねてきた。それだけでも、多くの命を救ってきたはずだ。だが、お前が守りたいものは、ただ土地や人々だけではないだろう?」

 その言葉に、蘭姫は顔を上げた。

 「……私が守りたいもの?」

 橘は静かに頷く。

 「お前が守りたいのは、ただ強さではなく、心だろう。戦いの中で失われたものを取り戻したいという思いが、蘭の中にあったはずだ」

 その言葉が蘭姫の心を揺さぶった。

 「心……」

 蘭姫はその言葉に反応し、静かに目を閉じる。

 (私は、何を守りたかったんだろう……)

 彼女はもう一度、自分の心の中を探り始めた。

 あの日、家族を失った時のこと。あの日、村を守るために戦った時のこと。そして、今、自分がここに立っている意味を考えた。

 蘭姫はふっと息を吐き、目を開けると、橘を見つめた。

 「分かった。私は、失ったものを取り戻したかったんだ。そして、戦いを通して、自分の中にあった迷いをなくしたかった。でも、それだけじゃ足りない」

 「足りない?」

 「私は、私自身をまだ信じていなかったんだ」

 橘はしばらく黙っていたが、やがて静かに言った。

 「それが分かれば、もう大丈夫だろう」

 蘭姫は少し戸惑ったような顔を見せたが、すぐにその表情は晴れた。

 「でも、これからどうすればいいのかが分からない」

 「それは、お前がこれから歩んでいく道で見つけていけばいいさ」

 橘の言葉が、蘭姫の心に深く響いた。

 「歩んでいく道……」

 「蘭、戦いは終わった。でも、すべてが終わったわけではない。これからお前がどう進むかが大切だ。それを見つけるために、また一歩踏み出せばいい」

 蘭姫はしばらく黙っていたが、やがて力強く頷いた。

 「分かりました。私、もう一度、自分を信じて歩んでいきます」

 その言葉が、蘭姫の心を新たに力強くさせた。

 そして、その夜、蘭姫は静かに夜空を見上げた。

 戦いが終わり、村上の者たちは喜びを分かち合っていたが、蘭姫はその空の下で新たな決意を胸に抱いていた。

 「私は、もう一度歩き出す。自分の道を、そして私が守りたいものを見つけるために」

 その夜空には、数えきれない星々が輝いていた。
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