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6章【外交編・ブライエ国】

32 無双

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「{おや、随分と大急ぎで何をなさっているんです?}」

そこにはしっちゃかめっちゃかになった紙の数々。そして、慌てて掻き集めたであろう高価な装飾品や工芸品などがあった。

恐らくここが中枢部なのだろう。大きな机にいくつも椅子が並び、壁などには基地らしく色々な地図や情報が書かれた紙がいくつも張り出されている。

きっと形勢が悪くなったことで、上層部だけが逃げ出そうとしたことがよくわかる。状況を総合的に鑑みて、ギルデルも含めて帝国の統率が取れていないことが伝わった。

「{ギルデル!貴様、なぜここに!!}」
「{ボクですか?ボクは人を案内しておりまして}」
「{案内、だと……?}」

そしてバッと私に向けられた視線。一同がクエリーシェルではなく、私に集中しているのがわかった。

「{その髪とその瞳の色……まさか、指名手配のペンテレアの姫か!}」

隊長が気づいた瞬間、周りの兵の表情が変わる。きっとギルデルが私を捕らえたとでも思ったのだろう、その表情は歓喜に満ちていた。

「{でかした、ギルデル!素晴らしい土産ではないか!}」
「{何か勘違いされているのでは?}」
「{何……?}」

喜んだのも束の間、ギルデルの言葉に今度は険しい顔になる帝国兵達。一喜一憂の激しい人達だ。

「{まさか、貴様……やはり裏切っていたのか!?}」
「{裏切ったなんてとんでもない。元からボクは誰の味方でもない。しいて言うならボク自身の味方です}」
「{なん、だと……?貴様、それは皇帝様への不敬に値するぞ!}」
「{不敬……?はっ、今更あんなクソじじいに従って何になるんです}」
「{貴様……!!}」
「ということで、やっちゃってください、お2人方」
「ちょ、丸投げ!?」
「だって、ボクは非戦闘員ですから。よろしくお願いします」
「もう最悪!信じられないっ!!とにかくケリー様、行きますよ!」
「あぁ、私が前に出るからリーシェはあまり出るなよ」
「承知しました。ケリー様も殺さぬようにお気をつけください」
「あぁ、わかっている」

ギルデルが相手を煽るだけ煽って丸投げしてくるのに抗議しつつ、クエリーシェルの背後に回る。そして、後方支援ということで、棍ではなく連弩を構えた。

「{姫は殺すな!生け捕りだ!}」
「{副隊長はどうします!?}」
「{あいつはそこの男共々殺しても問題ない!!何かあれば巻き添えで死んだとでも報告する!}」
「{承知しました!!}」
「だそうですよ」
「やっぱりリーシェさん、帝国の言葉も理解できているんじゃないですか」
「人並みには教養を持ち合わせておりますので」
「つべこべ言ってないで、戦力にならんのなら下がっていろ!!」

私とギルデルが言い合っているのを諌めるようにクエリーシェルが怒鳴る。クエリーシェルの怒気は凄まじく、相手も少々萎縮しているようだった。

「{怖気づくでない!相手は少人数、しかも戦力になるのはほぼ1人だ。一気に畳みかけるぞ!!}」
「{うぉおおおおお}」

ドドドドド、と狭い空間に一気に帝国兵がクエリーシェルに向かってくる。

ドカッ、ガキン、ガシュッ、ガタン……っ

(やっぱり、凄い、強い……)

「{う、ぐぅ……っく}」
「{かはっ……!}」
「{く……っ、がぁ……}」
「{バカ、な……、1人で3人を倒すだと……!?}」

圧倒的な差だった。

クエリーシェルが剣を抜くまでもなく、その辺にあった椅子を力いっぱいに投げて1人落ちる。

続いてもう片方の手で掴んだ椅子で剣を防いだかと思えば、その勢いのまま相手の剣をはたき落とし、そして振り下げた椅子を振り上げて兵の顎にクリティカルヒットし、そのまま後ろに吹っ飛んだ。

最後の1人は怖気づいた一瞬の隙を見計らって、クエリーシェルの蹴りが兵の鳩尾みぞおちに綺麗に入り、壁まで吹っ飛んだかと思えば思いきり衝突し、そのまま意識を失ってしまったのかずるずるっと落ちていく。

まさに無双の一言に尽きた。
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