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6章【外交編・ブライエ国】

17 反省会

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「で、ご用件は?」
「だから、さっきも言ったが反省会だっつーの!」
「セツナさん、すみません。先程は……」
「いーって、いーって。気にすんな。オレさまもちょーっと煽り過ぎたかな、って自覚はあったし」

殺されかけたというのにけろっと言いのけてしまうセツナ。ある意味さすがである。

「では、私は失礼して……」
「おい、お前もここにいろ、クソ餓鬼。ついでだ、お前にも色々話しておく」

クエリーシェルと反省会をするならと部屋から出ようとすれば、なぜか留まれと言われて渋々残る。一体、私に何を話すというのか。

「まず今日の試合だが、わざとヴァンデッダさんを煽ったのは、ヴァンデッダさんが頭に血が昇りやすく、すぐにカッとなって周りが見えなくなるからだ」

図星に、クエリーシェルが言葉が返せず黙り込む。

「それは確実に治したほうがいい。今後の戦闘に響くし、最悪死ぬぞ。こいつも、あんたも」
「でも、今までは……」
「煩い、黙れ」

私がフォローを入れようとすると、すぐさまセツナから圧倒的な威圧感を出されて押し黙る。直接こうして彼の殺気を浴びたのは初めてだが、恐怖で身体は震え、冷や汗がぶわっと溢れ出す。

「今まで?今までが大丈夫だったからって今後が平気かなんてわからねぇだろ?いいか、今後相手にするのは帝国だ。その辺の国とは訳が違う。あっちは人数もさることながら精鋭が多い。弱肉強食がモットーだからな。弱いやつはとことん叩きのめして、残ってるのは強者ってわけだ。そいつらが一気に攻め込んでくるんだぞ?クソ餓鬼は経験者だから一番よくわかってるんじゃないのか?」
「それは……」

過去を思い出す。

全てを燃やし尽くすかのように至るところに放たれた火、火、火。

断末魔、絶叫、悲鳴、親を呼ぶ声、子の名を必死で呼ぶ声が響き、耳を塞いでいても聞こえてきては精神を蝕んだ。

まるで自分が燃やされているのではないかと錯覚するほどの真っ赤な光景、肌を焼くような熱、誰も彼もが助けを求めて散っていく姿に絶望しながらも、無我夢中で逃げた。

途中で死体が幾重にも積まれ、彼らはきっと無抵抗だったというのに、見るの無残な状態でまるでゴミのように打ち捨てられていたのを見ては涙が溢れ、嘔吐しながら震える脚を引き摺りながら前を見て進み続ける。

(あぁ、私はわざと忘れようとしていた)

思い出さぬように、忘れるように記憶に蓋をしてきていたが、思い出されるのはつらくて苦しくて吐き出しそうなほどの恐怖。

いつ自分が殺されるのではないか、でも姉の意志を継がねばという使命感がせめぎ合いながら、見たくないものは見ないようにしながら、ただ必死に逃げ出したことを思い出す。

誰も助けられなかった。

自分しか助からなかった。

その事実から目を逸らしたくて、必死に自分の心に鍵をかけていた。

「リーシェ、大丈夫か?」
「え、あ……大丈夫です」

いつの間にか伝っていた涙。それをクエリーシェルに拭われて、初めて自分が泣いていることに気づいた。

「怒りは力であり、諸刃の剣だ。制御できなければ自分を殺す。また、恐怖を知っているからこそ、慎重に行動ができる。いいか、どれも自分で理解して、自分なりに昇華させるのが大事だ。支配されても振り回されてもいけない。己の意思で利用するんだ。そうしないと帝国には勝てない」
「はい」
「ヴァンデッダさんもクソ餓鬼も、傷の舐め合いしてるだけじゃダメだ。それぞれ自分自身としっかり向き合って自分の力にしろ。いいな?」

セツナの言葉に静かに頷く。クエリーシェルも同様だった。

(私達、似たもの同士だったということかしら)

セツナの指摘は的確だった。私とクエリーシェル、お互いに見たくないものを見て見ぬフリをして傷の舐め合いをしていた気がする。それでお互いを支え合っていたような気になっていた。

だが、今後帝国を相手にする場合、それではお互いがお互いの足を引っ張ることになるかもしれない。それは避けねばならないことだった。

「オレさまからの助言は以上だ。何か質問はあるか?」
「セツナさんも、恐怖とか怒りとか感じることあるんですか?」

好奇心や興味というよりも今まで彼からそう言った感情を見出したことがなかったため、彼にもそういう感情があるのかが知りたかった。

するとセツナはにっこり笑うと「しょっちゅうだよ。バーカ」と私の頭を撫でるのだった。
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