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5章【外交編・モットー国】

40 帝国兵

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「〈あの子、どこ行った!?〉」
「〈くそっ!逃げ足の速い娘だ〉」

人混みに紛れて、しゅしゅしゅっと歩調を速めながら人と人の合間を器用に抜けていく。

小さい身体で小回りが効くのが幸いしたと思いながらも、なるべく他の人達に逃げてるのを察されないようにしつつも、先程の2人組から距離を開けるようにできるだけ迂回してから集合場所へと行くようにした。

下手に追跡されたまま集合場所になど行ってしまったら、万が一追いつかれたり見つかったりしたときに騒ぎになり、大きなリスクになりかねない。それはなんとしても避けなければならないことだった。

(んー、てかここどこ……?)

さすがモットー国第2の大きさを誇ると言われている都市である。無駄に広い。しかも、広いだけでなく様々な店や催しなどがやっており、正直現在地がどこだかサッパリだった。

一応ある程度来た道を戻れば戻る自信はあるものの、さすがに来た道を戻る勇気はない。ヒューベルトとメリッサには悪いが、探索がてら遠回りをしつつ戻れるように努力しよう。

ドンっ!

考えごとをしながらさらによそ見をしていたせいで、思いきり誰かにぶつかる。すかさず「〈ごめんなさい!〉」と謝りながら顔を上げれば、そこには帝国兵がいた。

サーっと血の気が引くのがわかる。

あれほどリスク回避を意識していたにも関わらず、こうして不注意によって自ら敵に遭遇されるなどあってはならないことだった。

とりあえず慌てて瞳の色を見られないように俯く。

(本当最悪……。いや、今のは私が完璧悪かったのだけど!注意力散漫すぎでしょ!!)

見つかるどころか遭遇してぶつかるなんて、酷すぎる事態に内心パニックになりながらも、引き攣りそうな顔を頬の内側を噛みながら平静を装うように努める。

(あぁ、どうしよう)

見た目は細身のヒューベルトに似たちょっと薄い顔のイケメン風だが、帝国兵であることを考えると気性が荒い可能性がある。

有無を言わさずヒジャブを取られ、連行されたらどうしよう、と最悪のシチュエーションを想定しながらすぐさま逃げ道を逡巡した。

「〈大丈夫ですか?〉」
「〈は、はい。大丈夫です。あの、申し訳ありません、不注意でぶつかってしまって〉」

とりあえずすぐにヒジャブを取られなかったことにホッとしつつ、どうか見逃して、と願いながら重ねて謝る。

すると、その兵士は私の肩に軽く触れる。思わずドキっと身体を震わせると、「〈こちらこそ、ワタシの不注意ですまなかった〉」と謝られた。

(あれ、なんか思ってたのとちょっと違う……。まぁ、よかったけど)

帝国兵のわりに随分と物腰が丁寧だな、と思いつつも、サッとお辞儀してその場を切り抜けようとすれば、「〈おい!いたぞ!〉」と先程の2人が私に気づいたのか、大きな声を上げるのが聞こえた。

(あぁ本当、ツイてない……)

何もなければいい、と思っているときに限ってこういうことが起こる辺り、ある意味悪い勘が当たるというのは悪運が強い私ならではなのかもしれない。

「〈お知り合いですか?〉」

不意に、帝国兵の人に声をかけられる。そっと顔を上げれば、彼は2人組のほうを見ていた。

「〈いえ、道で絡まれてしまって。なぜか先程から追いかけられている状態でして〉」

ここで嘘を言ってもしょうがないのでそう素直に言えば、「〈そうでしたか〉」と言うやいなや、帝国兵は2人組のところへ向かっていく。

一体何をする気だろうか、と思いつつ彼らの様子を見れば、ちょっとしたやりとりのあと、先程の威勢のよさはどこへやら、急に帝国兵にペコペコし始める2人。

そして、キッと私を睨んだかと思うと、そのまま逃げるようにどこかへ行ってしまった。

(な、なんだったんだ、一体……)

「〈もう大丈夫ですよ〉」
「〈あ、ありがとうございます〉」
「〈いえ、この辺りは治安が悪いですからね。人身売買なども横行しているそうですから、女性は特にお気をつけてください〉」

まさか帝国兵からそんなことを言われるとは思わず、戸惑いながらも頷く。すると、「〈随分と大きなお荷物ですが、運ぶの手伝いましょうか?〉」と聞かれる。

先程の彼らと同じような言葉なのに、物腰の違いでここまで印象が変わるのかと感心しつつ「〈いえ、自分で運べますので〉」と丁重に辞退した。

「〈そうでしたか。では、お気をつけて〉」
「〈ありがとうございます〉」

帝国兵にもこんな人がいるのか、ちょっとこれはよい発見だったな、と思いつつ、私は自分が指名手配の娘だとバレないようにそそくさとその場をあとにするのだった。
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