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5章【外交編・モットー国】

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「〈師匠、ちょっといいかしら〉」

夜更け、メリッサも自室に行って寝静まったことを確認すると、リビングにいる師匠の前の席に腰掛けた。

意識を失っていたためあまり自覚はないものの、寝たきりであったわりにはそこまで外傷も酷くなかったおかげで、特にどこかが痛いだとか動くのに特に支障がなかったのは幸いだった。

「〈奇遇じゃな。ワシも話をしたいと思っておった。体調は大丈夫か?随分とメリッサに気に入られていたようじゃな〉」
「〈体調はおかげさまで動けるくらいには回復したよ、ありがとう。メリッサは……そうなのかな?とてもよく話しかけてきてくれているとは思うけど。どことなく、ちょっと気になる子だな、とは思ってる。……師匠はあの子とはどういう関係なの?〉」

不躾ではあるとは思うが、確認しておきたいことだった。

どうにも何か引っ掛かるというか、どうしてこんな僻地に子供だけでいるのか、そもそも師匠はどうしてこんなところに住んでいるのかなど気になることはいっぱいあった。

「〈あの子は、孫じゃ〉」
「〈孫……?でも、何でここに?一時的に住んでいるわけではないんでしょう?〉」
「〈あぁ、あの子は捨て子だからな〉」

(捨て子?)

元国王である師匠の孫であるなら、ここの姫なはず。それなのに、どうして捨てられ、師匠と一緒にいるのだろうか。

「〈まぁ、身内の恥じゃ。あまり追及せんでくれ〉」
「〈あ、うん、そっか。わかった〉」

釘を刺されてそれ以上は聞けなかったが、何やら訳ありということだけはわかった。ということは、やはりこの国でも色々と内政がゴタゴタしているのだろう。

「〈ワシも聞きたいことがある。ステラはここに何をしに来たんだ。言っておくが、モットーはかつての国とは様変わりしておる。ワシが言うのも皮肉じゃがな〉」
「〈師匠……〉」

この国のかつての王だからこその自虐だろう。彼らに何があったかはよくわからないが、こうして過去に国王までした人がこんな僻地にいるというのはありえないことだろう。

確実に何か訳があることはわかっていたが、いくら旧知の人間とはいえ、他国の人間に簡単にそのことについて口を割るほど愚かではないだろう。

「〈私は、帝国……バレス皇帝を倒すために来た〉」

私は、あえて自分達の本来の目的を開示することにした。ここで下手に隠し立てをしたところで、ただ壁を作るだけだ。

であれば、こちらからの歩み寄りは必要だろう。もちろん、あちらからの歩み寄ってくれるかどうかは別の話だが。

「〈皇帝を倒す……?随分と大きく出たな〉」

まるで嘲笑するような笑い。何を世迷言を言っているのだ、と言わんばかりの表情だった。

でも、私は表情を崩さずにジッと師匠を見つめる。その瞳に気づいて、師匠の表情もスッと切り替わった。

「〈本気か?〉」
「〈えぇ。だから遥々ここまで来たの。コルジールから海を越えて〉」
「〈復讐か?〉」

さすがにこんな僻地にいるとはいえ、私の事情をある程度は承知しているのだろう。そもそも、当時はこのような状態ではなかっただろうし。

「〈復讐……なのかしらね。どうかしら?そういうのはあまり考えなくなっていたから。でも、もう私と同じような想いをする子は増やしたくないし、この世界も変えたいとは思ってる。あとは単なる保身、かな。皇帝が私を狙っているというのは聞いている?〉」
「〈噂で少女を探している、というのは聞いていたが、まさかステラのことだったのか〉」

やはりある程度走っていたものの、私のことだとまでは知らなかったということは、ここ最近城へとあまり出入りしていないのだろうことが想像つく。

師匠も自分の知らぬ事実に困惑しているようだった。

「〈そう。私に莫大な懸賞金がかかってるそうよ。だから、協力国では私はいい鴨でしょうね〉」
「〈それならなぜこの国に来たんじゃ……?〉」
「〈来たくて来たわけじゃない、というのが正解かしら。帝国打倒を掲げて他国に協力を募っていてね、モットー国にもお願いするはずが帝国と繋がりができたからと聞いてブライエ国に行こうとしたの〉」
「〈なるほど、ブライエ国か。確かにシグバールなら強力してくれそうじゃな〉」
「〈えぇ、だから私はここまで来たのだけど、途中で海賊に襲われて船から落ちてここに流れついてきたというわけ〉」

ことの顛末を話すと何やら考え込み始める師匠。その表情はとても険しかった。

「〈嘘は、言ってなさそうじゃな〉」
「〈えぇ、全て事実〉」
「〈そうか……〉」

そう呟くと、しばらく口籠る師匠。そして、ゆっくりと口を開いた。

「〈メリッサを助けてくれないか?〉」
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