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4章【外交編・サハリ国】
16 2人きり
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「お待たせしました。ヒューベルトさん。ちょっとお席をお外しいただいてもよろしいでしょうか?」
「え、えぇ。ですが、大丈夫でしょうか……?」
部屋に戻ってマーラと2人きりになりたいとヒューベルトに申し出ると、不安げに私とマーラを交互に見やるヒューベルト。きっと、先程の私の激情にかられた姿を見ているから心配しているのだろう。
「大丈夫です。もう、落ち着きましたから」
「……それなら、いいのですが」
相変わらず訝しげな表情ではあるが、渋々と言った様子で引き下がってくれる。
「先程はお見苦しいところを見せてしまい、すみませんでした。あぁ、ケリー様にもお願いしているのですが、船長にうまくこのことを伝えていただけると助かります。……ケリー様はちょっと口下手なので、ヒューベルトさんが口添えをしていただけるとありがたいのですが」
「承知しました。あの、無理だけはせずに。その……」
「どうもありがとうございます。すみません、お2人にそこまでお気遣いさせてしまって。お時間はそんなにいただかないと思います」
ヒューベルトを見送ると、俯いたままのマーラの前に椅子を引っ張り座る。視線を彼女の高さに合わせたあと、予め用意しておいた濡れたタオルを取り出した。
「先程は、失礼しました。丁重にお詫び申し上げます。頬、腫れるといけませんから……」
「結構よ!」
「……腫れたお顔のままでは痕が残るかもしれませんよ?」
「……っ、ならさっさとやりなさいよ!」
彼女の髪を搔きあげて、頬に濡れたタオルを当てる。一瞬びくりと身体が弾んだが、それを隠すようにふん、と再びそっぽを向かれた。
(髪もグシャグシャ。自分ではどうにもできなかったのでしょうね)
以前会ったときは綺麗な黒髪を丁寧に結わえていたというのに、今は見るも無残なボサボサだ。服もきっと私のところから持って行ったのだろうが、着方が間違っているし、香油も色々と匂いを混ぜたのかどことなく臭い。
食事もきちんと取らなかったせいか、はたまた暴飲暴食だったせいか、それとも日々のストレスだろうか、顔にいくつか出来物もできているし、ケアなど全然していないのだろう。
「もしよければ身体拭きます?」
「何よ、ワタクシが臭いって言うの!??」
「否定はしません」
「!!!!」
まさか肯定されると思っていなかったのか、目を見開きこちらを見るマーラ。だが、指摘されて急に自分の身形を思い出したのか、何か言いたそうにはしているものの、口を噤んでいる。
「ずっと身体を拭いたり、髪を梳かしたりされてなかったのでしょう?」
「や、やってたわよ!やってたけど……ちょっと上手くいかなかっただけで。ふ、普段はできるのよ!普段は!!」
威勢はいいが、この感じでは普段から全くやって来なかったのだろう。まぁ、一応第8皇女なのだし無理もない。アーシャの侍女ほどではないだろうが、それでも侍女の数はきっと多いことだろう。
自分がしなくても周りがやってくれる。普段から人が手を加えるのを待っているだけで何もしていなかったら、自発的に何かしようとする方が不自然である。
(そう、私みたいなのはイレギュラー)
自分が他の姫と違うのはわかっている。だから、私のようにできることが当たり前だとは思わない。
でも、ここにいる以上、ある程度自分でできなければいけないことも出てくる。そのためには、少しずつでも自分でできることは自分でしてもらっても問題はないだろう。
「わかりました。とりあえず人払いはしますから、一度綺麗に身繕いしませんか?マーラ様も、このままではクエリーシェル様の前に立つのはお嫌でしょう?」
「……っ!」
言われて、自分の姿を見下ろすマーラ。明らかに乱れている自分の姿に、何も言い返せないようだった。
「私が一通りやりながら教えますから」
「あ、貴女がワタクシのお付き侍女として仕えればよいのではなくて?」
「それは無理です」
「何でですの!?」
即答すれば、食ってかかられる。案外、お喋り好きなのかもしれない。そういえば、先日の食事会でもひたすらクエリーシェルに喋りかけていたような気が。
「それは、マーラ様のためにはなりませんから」
「は、……はぁ!??」
「ではでは、善は急げということで。暗くなる前にちゃちゃっと済ませてしまいましょう」
マーラが混乱している間に、バタバタと水浴びの用意をする。その用意の間に帰ってきたクエリーシェルとヒューベルトに部屋に誰も入れないように伝えると、私は部屋に戻り、腕を捲くって彼女の服を引っぺがすのだった。
「え、えぇ。ですが、大丈夫でしょうか……?」
部屋に戻ってマーラと2人きりになりたいとヒューベルトに申し出ると、不安げに私とマーラを交互に見やるヒューベルト。きっと、先程の私の激情にかられた姿を見ているから心配しているのだろう。
「大丈夫です。もう、落ち着きましたから」
「……それなら、いいのですが」
相変わらず訝しげな表情ではあるが、渋々と言った様子で引き下がってくれる。
「先程はお見苦しいところを見せてしまい、すみませんでした。あぁ、ケリー様にもお願いしているのですが、船長にうまくこのことを伝えていただけると助かります。……ケリー様はちょっと口下手なので、ヒューベルトさんが口添えをしていただけるとありがたいのですが」
「承知しました。あの、無理だけはせずに。その……」
「どうもありがとうございます。すみません、お2人にそこまでお気遣いさせてしまって。お時間はそんなにいただかないと思います」
ヒューベルトを見送ると、俯いたままのマーラの前に椅子を引っ張り座る。視線を彼女の高さに合わせたあと、予め用意しておいた濡れたタオルを取り出した。
「先程は、失礼しました。丁重にお詫び申し上げます。頬、腫れるといけませんから……」
「結構よ!」
「……腫れたお顔のままでは痕が残るかもしれませんよ?」
「……っ、ならさっさとやりなさいよ!」
彼女の髪を搔きあげて、頬に濡れたタオルを当てる。一瞬びくりと身体が弾んだが、それを隠すようにふん、と再びそっぽを向かれた。
(髪もグシャグシャ。自分ではどうにもできなかったのでしょうね)
以前会ったときは綺麗な黒髪を丁寧に結わえていたというのに、今は見るも無残なボサボサだ。服もきっと私のところから持って行ったのだろうが、着方が間違っているし、香油も色々と匂いを混ぜたのかどことなく臭い。
食事もきちんと取らなかったせいか、はたまた暴飲暴食だったせいか、それとも日々のストレスだろうか、顔にいくつか出来物もできているし、ケアなど全然していないのだろう。
「もしよければ身体拭きます?」
「何よ、ワタクシが臭いって言うの!??」
「否定はしません」
「!!!!」
まさか肯定されると思っていなかったのか、目を見開きこちらを見るマーラ。だが、指摘されて急に自分の身形を思い出したのか、何か言いたそうにはしているものの、口を噤んでいる。
「ずっと身体を拭いたり、髪を梳かしたりされてなかったのでしょう?」
「や、やってたわよ!やってたけど……ちょっと上手くいかなかっただけで。ふ、普段はできるのよ!普段は!!」
威勢はいいが、この感じでは普段から全くやって来なかったのだろう。まぁ、一応第8皇女なのだし無理もない。アーシャの侍女ほどではないだろうが、それでも侍女の数はきっと多いことだろう。
自分がしなくても周りがやってくれる。普段から人が手を加えるのを待っているだけで何もしていなかったら、自発的に何かしようとする方が不自然である。
(そう、私みたいなのはイレギュラー)
自分が他の姫と違うのはわかっている。だから、私のようにできることが当たり前だとは思わない。
でも、ここにいる以上、ある程度自分でできなければいけないことも出てくる。そのためには、少しずつでも自分でできることは自分でしてもらっても問題はないだろう。
「わかりました。とりあえず人払いはしますから、一度綺麗に身繕いしませんか?マーラ様も、このままではクエリーシェル様の前に立つのはお嫌でしょう?」
「……っ!」
言われて、自分の姿を見下ろすマーラ。明らかに乱れている自分の姿に、何も言い返せないようだった。
「私が一通りやりながら教えますから」
「あ、貴女がワタクシのお付き侍女として仕えればよいのではなくて?」
「それは無理です」
「何でですの!?」
即答すれば、食ってかかられる。案外、お喋り好きなのかもしれない。そういえば、先日の食事会でもひたすらクエリーシェルに喋りかけていたような気が。
「それは、マーラ様のためにはなりませんから」
「は、……はぁ!??」
「ではでは、善は急げということで。暗くなる前にちゃちゃっと済ませてしまいましょう」
マーラが混乱している間に、バタバタと水浴びの用意をする。その用意の間に帰ってきたクエリーシェルとヒューベルトに部屋に誰も入れないように伝えると、私は部屋に戻り、腕を捲くって彼女の服を引っぺがすのだった。
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