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3章【外交編・カジェ国】

47 大丈夫なんかじゃない

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アーシャと別れ、自室に戻る。

何となく胸のつかえが取れて、気持ち的にはだいぶ軽くなってルンルン気分だった。

だが、忘れていた。もう1人、説明不足だった人間を。

「で、どういうことなんだ?」
「えーっと……どの話でしょうか……?」

ベッドで正座したまま、私は目の前で仁王立ちしてる御仁の前で冷や汗をかくしかできなかった。

「全部だ。洗いざらい、私に隠し立てはなしだと言っただろう?」
「全くしないとは言って……」
「リーシェ?」

顔を近づけられて凄まれて、ひぇええええ!としか言いようがない状況に追い込まれる。

「はい、すみません、イイマス……」

(それもこれも全部アーシャのせいだ!)

昔話に花を咲かせすぎたための自業自得なのだが、そうアーシャを逆恨みでもしなければ気持ちのやり場がなかったのだった。






「3億ダラーは300億ギネ、だと……?!」
「まぁ、小国では国家予算レベルです」
「本当に何をやらかしたんだ……?!」

まぁ、そう言うのも無理はない。私だってそんな値段設定されているなどとはつゆほども思わなかったし、それほどまでに私に子供を産ませようとしてると思うと恐怖でしかなかった。

バレス皇帝はそれほどまでに、何としてでも生き永らえようとしているというのが伝わってくる。ここまで値段をつけるくらい必死なのだろうが、それはそれで狂気である。

(そもそも、子供ができなかったらどうするつもりなのか)

そういうことなど、きっとまるで頭にないのだろう。ある意味、とても恐ろしい。自分の思い通りにならねば、人を簡単に殺めてしまう人だ、きっと私も使い物にならなければゴミのように捨てられるだろう。

「本当かどうかわかりませんが、風の噂で耳にしたのは、私がとある儀式に必要らしいです」
「儀式……?」
「私も詳しくは存じませんが。それに私が必要だとかで、血眼になって探してるようですよ」

クエリーシェルの顔が一気に複雑な表情に変わる。嘘は言っていない。私の情報はあくまで姉から与えられたものだ。死人から与えられた情報など、信じるに値するかどうかは、正直判断が難しいと言わざるを得ない。

(私は信じているけど)

実際にこのように「生きたまま傷もつけずに」という文言を目の当たりにすると、姉の話の信憑性が増す。

だけど、それをクエリーシェルには言いたくはない。言ったらきっと、アーシャに言った通り、閉じ込めてでも私を守ろうとしてくれるから。

(そんなことは私は望んでない)

ワガママだろうが、私は自ら抗いたい。ただ物語の姫のように守られる存在ではなく、自分の手でこの身の安全と、平和を勝ち取りたい。

(こういう部分は、クエリーシェルとは相容れないのだろうけど)

「いっそ、帰国して城の中で保護というのは」

(やはりそう来たか)

「嫌です」
「どうして!」
「ただ待つのは嫌なんです。それに、もしこのままだったらバレス皇帝は死んでも、あの帝国は変わらない。それは何としても防がねばなりません」

その想いだけは絶対だった。私が何もしないことで産まれる弊害。私はクエリーシェルだけでなく、ロゼットもバースもコルジールの人々、ひいてはアルルや他の人達も幸せに暮らせる世界にしたかった。

そのためにはバレス皇帝だけでなく、ゴードジューズ帝国自体の改変が最重要事項である。

「だが……!リーシェでなくても!リーシェがやる必要があるのか?!」
「私だからできるんです!!」

言い切ると、クエリーシェルからびっくりした表情で見られる。だが、ここだけは折れてはいけない部分だった。

「私だからこそ、できることなんです。ペンテレアの次女、ペンテレアの唯一の生き残り。ステラ・ルーナ・ペンテレアだからこそ……!」
「リーシェ……」
「私だからこそ、国を失くした姫だからこそ、説得力があってみんなを説き伏せることができる。国を巻き込むことができるんです。カジェ国だって、私がいたからこのように支援してくれてます。そして、それは他国でも変わりません。私の存在がこの戦争には不可欠なんです」

真っ直ぐクエリーシェルを見つめる。グッと奥歯を噛み締めているのか、複雑に苦しそうな表情をしている。

彼もまた、私同様に葛藤をしてくれているのだろう。

「私だって恐いですよ。でも、私がやらなきゃ何も変わらないなら、私が頑張るより他、ないじゃないですか……」
「……そうだな、悪かった。覚悟を決めていたつもりだが、しきれていなかったようだ」

グイッと力強く抱きしめられる。

アーシャの前では気丈に振舞えていたのに、段々と溢れる涙。彼の胸の中は温かくて、鼓動が心を安らかにしてくれ、私は静かに声を殺しながらクエリーシェルの胸の中で泣くのだった。
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