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3章【外交編・カジェ国】
41 キーパーソン
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(はぁ、本当悪運だけは強い)
ここまで狙われるなんて人物、早々にいないのではないだろうか。というか、全世界探しても、私くらいじゃないだろうか。
「ステラ、貴女何をしたの」
「いや、私は別に何もしてないけど……」
実際、私は何もしていない。というか、欲してるのは私自身というより、母方から受け継いだ呪術使いの血が流れる身体だ。
(私は一切呪術が使えないというのに)
きっとそんなことを訴えたところで、バレス皇帝には無意味なことだろうが。彼にとって私に呪術が使えるかどうかなんて関係なく、ただ自分の成り代わりの器が産めればいいのだから。
「だったら、こんな最重要人物で最重要機密として取り扱われないでしょ」
「まぁ、そりゃそうだけど……」
ある意味、私はバレス皇帝の弱みともなりうる人間である。ということは、言い換えれば、私が交渉のキーパーソンであり、私の行く末が今後の世界情勢の行方に繋がると言ってもおかしくなかった。
(私の身の振り方で情勢が変わるとか、もう勘弁願いたい)
「……まぁ、いいわ。ということは、今後貴女が狙われる可能性が十分にあるということよ、ステラ」
「えぇ、それはわかってる」
「な……っ、そ、それはあまりにも危険では……!」
クエリーシェルが我慢できずに口を挟む。
(ケリー様……)
彼の想いは確かにありがたい。だが、そうは言ってもこの状況を打破するには私が命を絶つか、バレス皇帝が死ぬかの2択である。
「もう既にこうなってしまった以上、逃げるのは難しいことよ」
「そうね、それはわかってる」
「ですが……!」
なおも反論しようとする彼に畳み掛けるように、アーシャが机をバーンと叩いて立ち上がる。
「貴方も一軍人であれば、分別を持ちなさい!」
ぴしゃりとアーシャに言われて黙り込むクエリーシェル。女性に、しかも年下からこんな風に言われ慣れてないだろう彼だが、さすがの王妃相手だ、大人しく引き下がる。
「会談が先に進まないのなら、退席してもらうわよ」
「いえ、そのつもりは。……申し訳ありません、続けてください」
苦虫を噛み潰してしまったような苦悶の表情を浮かべるクエリーシェルに、私は何も言えなかった。気持ちはとても嬉しいが、だからと言って、その気持ちだけではどうにもできないことがある。
彼もまたそれがわかっているからこそ、こうして複雑な想いを抱いているのだろう。
(いっそ、私達は会わなければ良かったのではないか。そうしたら、彼にこんな想いをさせることはなかったのに)
そんなことをふと考えて、なんてバカで愚かなことを考えているのか、と自嘲する。
(私はクエリーシェルに会ったから、ただ安らかに死ぬだけだった人生ではなく、生きて生きて生き抜いてから死のうと決めたんじゃないか……!)
この旅の目的を思い出して、再び活力が満ちてくる。皇帝が何だ、戦力差が何だ、そんなもの、いくらだってどうにもできる。いや、するためにここにきたのではないか。
「アーシャ、ゴードジューズ帝国の情報は他には?」
「主に派閥は2つ。帝国軍派と執政官派よ。今のところ、分は帝国軍派が有利と言われているようだけど」
「執政官派の方にこちらは根回しするのね」
「えぇ、理由は御察しの通りよ」
帝国軍派ということは、皇帝の意思を継ぐ者達が多い。皇帝は武で支配しようとした人物だ。であれば、皇帝を倒したところで同様の理念を抱いた人物が再び帝国の指導者になったところで意味はない。
つまり執政官、今は迫害されている内務や戦略を練る分野の人々に働きかけたほうがマシだということだ。
彼らは頭がいい。そのため、余程の忠誠心を抱いていない限り、どのように身を振ればいいのか、きちんと把握できるはずだ。
そして我々は、その彼らの分別に付け込まねばならない。
「でも、執政官にはどのように?何か人脈や縁があるの?」
「えぇ、まぁ。私にはないのだけど、サハリ国のブランシェ国王にはあるようよ」
「サハリ国のブランシェ……って、あのブランシェ!?え、ちょっと待って。あいつ、いつの間にサハリ国の国王になったの……!??」
久々に聞く名に、あのでっぷりとしたフォルムを思い出す。すっかり忘れていた存在だが、まさかあいつが国王になっていただなんて。
そして、存在と共に思い出す己の愚行の数々。
(いや、私は悪くない、悪くないはずだが……!ちょーっと怨まれてたり嫌われてたりはする、かも?うん、ヤバい)
まさかの怪しくなる雲行きに、勝手に冷や汗をかきはじめる。
「……次、サハリ国に行かなきゃいけないんだけど」
「えぇ、わかってるわよ」
「下手したら入国させてくれないかも」
「まぁ、そのときはそのときよ」
アーシャはにっこり笑うが、こちらとしては死活問題だ。クエリーシェルとヒューベルトは身内話に全くついていけずに、首を傾げている。
「……ステラ様、サハリ国の現国王に何かなさったのですか?」
最もな質問をクエリーシェルからされて、思わず目が泳ぐ。何かした。……何かはしてる。だが、具体的に何かと言われるとはっきりとは言えない。
「ま、何かしてるって言えばしてるわよね?」
「うー……、隠しても仕方ないことなので、正直に話し、ます……」
私は観念したように俯くと、過去のサハリでの出来事を鮮明に思い出すのだった。
ここまで狙われるなんて人物、早々にいないのではないだろうか。というか、全世界探しても、私くらいじゃないだろうか。
「ステラ、貴女何をしたの」
「いや、私は別に何もしてないけど……」
実際、私は何もしていない。というか、欲してるのは私自身というより、母方から受け継いだ呪術使いの血が流れる身体だ。
(私は一切呪術が使えないというのに)
きっとそんなことを訴えたところで、バレス皇帝には無意味なことだろうが。彼にとって私に呪術が使えるかどうかなんて関係なく、ただ自分の成り代わりの器が産めればいいのだから。
「だったら、こんな最重要人物で最重要機密として取り扱われないでしょ」
「まぁ、そりゃそうだけど……」
ある意味、私はバレス皇帝の弱みともなりうる人間である。ということは、言い換えれば、私が交渉のキーパーソンであり、私の行く末が今後の世界情勢の行方に繋がると言ってもおかしくなかった。
(私の身の振り方で情勢が変わるとか、もう勘弁願いたい)
「……まぁ、いいわ。ということは、今後貴女が狙われる可能性が十分にあるということよ、ステラ」
「えぇ、それはわかってる」
「な……っ、そ、それはあまりにも危険では……!」
クエリーシェルが我慢できずに口を挟む。
(ケリー様……)
彼の想いは確かにありがたい。だが、そうは言ってもこの状況を打破するには私が命を絶つか、バレス皇帝が死ぬかの2択である。
「もう既にこうなってしまった以上、逃げるのは難しいことよ」
「そうね、それはわかってる」
「ですが……!」
なおも反論しようとする彼に畳み掛けるように、アーシャが机をバーンと叩いて立ち上がる。
「貴方も一軍人であれば、分別を持ちなさい!」
ぴしゃりとアーシャに言われて黙り込むクエリーシェル。女性に、しかも年下からこんな風に言われ慣れてないだろう彼だが、さすがの王妃相手だ、大人しく引き下がる。
「会談が先に進まないのなら、退席してもらうわよ」
「いえ、そのつもりは。……申し訳ありません、続けてください」
苦虫を噛み潰してしまったような苦悶の表情を浮かべるクエリーシェルに、私は何も言えなかった。気持ちはとても嬉しいが、だからと言って、その気持ちだけではどうにもできないことがある。
彼もまたそれがわかっているからこそ、こうして複雑な想いを抱いているのだろう。
(いっそ、私達は会わなければ良かったのではないか。そうしたら、彼にこんな想いをさせることはなかったのに)
そんなことをふと考えて、なんてバカで愚かなことを考えているのか、と自嘲する。
(私はクエリーシェルに会ったから、ただ安らかに死ぬだけだった人生ではなく、生きて生きて生き抜いてから死のうと決めたんじゃないか……!)
この旅の目的を思い出して、再び活力が満ちてくる。皇帝が何だ、戦力差が何だ、そんなもの、いくらだってどうにもできる。いや、するためにここにきたのではないか。
「アーシャ、ゴードジューズ帝国の情報は他には?」
「主に派閥は2つ。帝国軍派と執政官派よ。今のところ、分は帝国軍派が有利と言われているようだけど」
「執政官派の方にこちらは根回しするのね」
「えぇ、理由は御察しの通りよ」
帝国軍派ということは、皇帝の意思を継ぐ者達が多い。皇帝は武で支配しようとした人物だ。であれば、皇帝を倒したところで同様の理念を抱いた人物が再び帝国の指導者になったところで意味はない。
つまり執政官、今は迫害されている内務や戦略を練る分野の人々に働きかけたほうがマシだということだ。
彼らは頭がいい。そのため、余程の忠誠心を抱いていない限り、どのように身を振ればいいのか、きちんと把握できるはずだ。
そして我々は、その彼らの分別に付け込まねばならない。
「でも、執政官にはどのように?何か人脈や縁があるの?」
「えぇ、まぁ。私にはないのだけど、サハリ国のブランシェ国王にはあるようよ」
「サハリ国のブランシェ……って、あのブランシェ!?え、ちょっと待って。あいつ、いつの間にサハリ国の国王になったの……!??」
久々に聞く名に、あのでっぷりとしたフォルムを思い出す。すっかり忘れていた存在だが、まさかあいつが国王になっていただなんて。
そして、存在と共に思い出す己の愚行の数々。
(いや、私は悪くない、悪くないはずだが……!ちょーっと怨まれてたり嫌われてたりはする、かも?うん、ヤバい)
まさかの怪しくなる雲行きに、勝手に冷や汗をかきはじめる。
「……次、サハリ国に行かなきゃいけないんだけど」
「えぇ、わかってるわよ」
「下手したら入国させてくれないかも」
「まぁ、そのときはそのときよ」
アーシャはにっこり笑うが、こちらとしては死活問題だ。クエリーシェルとヒューベルトは身内話に全くついていけずに、首を傾げている。
「……ステラ様、サハリ国の現国王に何かなさったのですか?」
最もな質問をクエリーシェルからされて、思わず目が泳ぐ。何かした。……何かはしてる。だが、具体的に何かと言われるとはっきりとは言えない。
「ま、何かしてるって言えばしてるわよね?」
「うー……、隠しても仕方ないことなので、正直に話し、ます……」
私は観念したように俯くと、過去のサハリでの出来事を鮮明に思い出すのだった。
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