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3章【外交編・カジェ国】
38 笑顔
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「(楽しかったわ!)」
「(えぇ、そうね)」
キャッキャとはしゃぐアルルに混じって、隣にいるクエリーシェルもまだ、興奮冷めやらぬと言った様子だ。
「(あの……)」
「(はい、何でしょうか?……っ!)」
不意に声をかけられ振り向くと、そこには先程まで演技してたはずのサーカスの演者がいた。つまり、マルダスの人である。
まさかマルダスの人から声をかけられるとは思わず、つい彼女の顔を見たまま固まってしまう。すると、私の反応を別の意味での驚きだと捉えてくれたらしく、「(すみません、驚かせてしまって)」と慌てて謝られた。
「(こちらこそ、びっくりしてすみません)」と空気を察して謝り返せば、視界に花が飛び込んでくる。何かの手品だろうか、その花はサーカステント近くで飾られていた花だった。
「(とても楽しんでいただけたようで、どうもありがとうございます。そこのお嬢さんに、もし良ければ花を)」
「(あ、あぁ、ありがとうございます)」
演者ということで少々化粧が濃いが、美しい人なのだろう。顔立ちはハッキリしていて、背筋もスラッと高く、体型もメリハリがあって美しかった。……つい豊満な胸元に視線がいってしまうのはご愛嬌だ。
「(アリー、お花をいただけるそうよ)」
「(やったー!どうもありがとう、お姉ちゃん!!)」
「(いえ、どういたしまして。もうこのサーカスもまた移動してしまうので、もらっていただいた方がありがたいんです)」
何日か営業していたようだが、今日がたまたま最終日だったらしい。こういうのを想定して、アーシャは今日にこの散策日を設けてくれたのだろうか。
「(そうなんですね。次はどちらに?)」
「(次は、……どうですかね。各地で受け入れてくれる国次第ではありますし、まだ決めかねておりますが、どこかでまた営業する予定です)」
「(そうなんですね。道中大変でしょうが、お気をつけて)」
「(ありがとうございます)」
(まぁ、そう易々とは答えないわよね)
適当に躱されたところでさらっと私が会話を終えると、アルルが「(サーカス面白かったよ!あとお花、どうもありがとう!!)」と手を振れば、彼女もまた微笑んで振り返してくれた。
「(綺麗なお花ね。ちょっとアリー、私にも見せてちょうだい?)」
「(えぇ、いいわよ)」
一応念のため毒が仕込まれていないか、確認する。万が一、アルルが皇女だとバレていて、危害を加えられるようなことがあったら大変だ。
だが、見た限りでは毒物が付着してる様子もなければ、匂いも問題なく、寧ろ怪我をしないように棘などの処理までされていて、杞憂だということがわかってホッとする。
「(ありがとう、とても素敵ね)」
「(えぇ!宝物にするわ)」
「(それなら押し花にするといいわ。多分、貴女のお母様がご存知だから帰ったら聞いてちょうだい)」
花を返すと嬉しそうにその花を掲げながら頷く姿は、無垢そのものだ。その姿にちょっとだけ嬉しくなる。
世界は今混沌としてきているといえど、どこかしらに安寧があるというのは心強いものだった。
(コルジールでもこんな風に、ただ笑っていられる世界であればいいのに)
先日の一件以来、人々の日常にちょっとした警戒心が生まれ、その気持ちはじわじわと人の心を蝕んでいた。表面上は笑っていても、どこか上辺だけという感は否めなかった。
だからこそ、私はゴードジューズ帝国を倒さねばならない。いや、私が直接手を下さないにしろ、いかにあの国を追い詰めていくかが重要だった。
そのために、今回のマルダスの人々に少しでも接触できたのは、ある意味収穫ではある。下手に突っ込んで話しても怪しまれると思って大した話はできなかったが、それでも得られるものはあった。
(綺麗なイントネーションでまるで母国語のような発音。そして、またどこかへ旅立つということ)
ここまでスムーズに異国語を使いこなせるということは、とても知能が高いかそこまでのレベルまで訓練されているか。そして、他国へと行くと言うことは、それだけ頼れる縁があるということだ。
(ゴードジューズ帝国の差し金か、どうなのか……)
知的で能力も高いというのは非常に厄介である。特に女性もこのレベルとなると、戦いづらい。そして、訓練されて統率までされているとなると尚更だ。
敵は強大。
だが、それでも突破せねばならない。
その後はアルルと適当に散策し、アーシャへのお土産等の買い物を済ませ、いいところで切り上げると、私とクエリーシェルは自室へと戻るのだった。
「(えぇ、そうね)」
キャッキャとはしゃぐアルルに混じって、隣にいるクエリーシェルもまだ、興奮冷めやらぬと言った様子だ。
「(あの……)」
「(はい、何でしょうか?……っ!)」
不意に声をかけられ振り向くと、そこには先程まで演技してたはずのサーカスの演者がいた。つまり、マルダスの人である。
まさかマルダスの人から声をかけられるとは思わず、つい彼女の顔を見たまま固まってしまう。すると、私の反応を別の意味での驚きだと捉えてくれたらしく、「(すみません、驚かせてしまって)」と慌てて謝られた。
「(こちらこそ、びっくりしてすみません)」と空気を察して謝り返せば、視界に花が飛び込んでくる。何かの手品だろうか、その花はサーカステント近くで飾られていた花だった。
「(とても楽しんでいただけたようで、どうもありがとうございます。そこのお嬢さんに、もし良ければ花を)」
「(あ、あぁ、ありがとうございます)」
演者ということで少々化粧が濃いが、美しい人なのだろう。顔立ちはハッキリしていて、背筋もスラッと高く、体型もメリハリがあって美しかった。……つい豊満な胸元に視線がいってしまうのはご愛嬌だ。
「(アリー、お花をいただけるそうよ)」
「(やったー!どうもありがとう、お姉ちゃん!!)」
「(いえ、どういたしまして。もうこのサーカスもまた移動してしまうので、もらっていただいた方がありがたいんです)」
何日か営業していたようだが、今日がたまたま最終日だったらしい。こういうのを想定して、アーシャは今日にこの散策日を設けてくれたのだろうか。
「(そうなんですね。次はどちらに?)」
「(次は、……どうですかね。各地で受け入れてくれる国次第ではありますし、まだ決めかねておりますが、どこかでまた営業する予定です)」
「(そうなんですね。道中大変でしょうが、お気をつけて)」
「(ありがとうございます)」
(まぁ、そう易々とは答えないわよね)
適当に躱されたところでさらっと私が会話を終えると、アルルが「(サーカス面白かったよ!あとお花、どうもありがとう!!)」と手を振れば、彼女もまた微笑んで振り返してくれた。
「(綺麗なお花ね。ちょっとアリー、私にも見せてちょうだい?)」
「(えぇ、いいわよ)」
一応念のため毒が仕込まれていないか、確認する。万が一、アルルが皇女だとバレていて、危害を加えられるようなことがあったら大変だ。
だが、見た限りでは毒物が付着してる様子もなければ、匂いも問題なく、寧ろ怪我をしないように棘などの処理までされていて、杞憂だということがわかってホッとする。
「(ありがとう、とても素敵ね)」
「(えぇ!宝物にするわ)」
「(それなら押し花にするといいわ。多分、貴女のお母様がご存知だから帰ったら聞いてちょうだい)」
花を返すと嬉しそうにその花を掲げながら頷く姿は、無垢そのものだ。その姿にちょっとだけ嬉しくなる。
世界は今混沌としてきているといえど、どこかしらに安寧があるというのは心強いものだった。
(コルジールでもこんな風に、ただ笑っていられる世界であればいいのに)
先日の一件以来、人々の日常にちょっとした警戒心が生まれ、その気持ちはじわじわと人の心を蝕んでいた。表面上は笑っていても、どこか上辺だけという感は否めなかった。
だからこそ、私はゴードジューズ帝国を倒さねばならない。いや、私が直接手を下さないにしろ、いかにあの国を追い詰めていくかが重要だった。
そのために、今回のマルダスの人々に少しでも接触できたのは、ある意味収穫ではある。下手に突っ込んで話しても怪しまれると思って大した話はできなかったが、それでも得られるものはあった。
(綺麗なイントネーションでまるで母国語のような発音。そして、またどこかへ旅立つということ)
ここまでスムーズに異国語を使いこなせるということは、とても知能が高いかそこまでのレベルまで訓練されているか。そして、他国へと行くと言うことは、それだけ頼れる縁があるということだ。
(ゴードジューズ帝国の差し金か、どうなのか……)
知的で能力も高いというのは非常に厄介である。特に女性もこのレベルとなると、戦いづらい。そして、訓練されて統率までされているとなると尚更だ。
敵は強大。
だが、それでも突破せねばならない。
その後はアルルと適当に散策し、アーシャへのお土産等の買い物を済ませ、いいところで切り上げると、私とクエリーシェルは自室へと戻るのだった。
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