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3章【外交編・カジェ国】

30 お説教

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「で、何か申し開きは?」
「すみません、看病をしてまして」
「その旨、なぜ報告しなかった」
「すっかり忘れておりました」

スッキリ目覚めたと思ったら、よく見知った顔が目の前にあって、思わず悲鳴を上げてしまった。

「あれ、私何でここに……」と我に返って目の前の人物、クエリーシェルが大きな溜め息の後に、私の帰りがあまりに遅いから心配してヒューベルトのとこに回収に来たという。

移動してても爆睡してただなんて、私相当疲れてたんだなー、なんて考えてたのも束の間。そのまま、いつものお説教コースであった。

「私がどれほど心配したかと……」
「えぇ、はい、本当に、申し訳ないと思っています」
「そもそもだな、男の部屋で単身で寝るというのは、危機感が足りないのではないか?」
「ごもっともでございます」

こういうときのクエリーシェルは長い。幾度となくお説教を食らっている私は、経験上すぐに終わらないことを察し、とりあえず申し訳なさを前面に出して、謝っておく。

(まぁ、こうしたからって大して短くならないんだけど)

くどくどとお説教が続いたところで、コンコンとノックが聞こえ「はーい!」とわざと大きな声で返事をするとアーシャが入室してくる。

この時ばかりは救いとばかりに、パタパタとアーシャに駆け寄っていく。

「(助かったわ……!)」
「(は?)」
「(いいのよ、こっちの話。で、どうしたの?)」

コソコソと、クエリーシェルに聞かれないようにカジェ国語で話す。アーシャも察してカジェ国語で返してくれる。こういうときは、こうして察しのいいということが非常にありがたかった。

「(あぁ、見合いの件よ。貴女が寝てる間に粗方カップルはできたみたいよ)」
「(は!え、もう昼?!)」
「(えぇ、どちらかというと昼と夕方の間くらい?結構寝てたようね。聞いたわよ、寝ずの看護だったって)」

侍女や医師からある程度話は聞いたのだろう。さすがのアーシャである、大体のことは承知のようだった。

「(まぁ、そうね。万が一のことがあったら嫌だし)」
「(本当、そういうとこお人好しよね)」
「(活かせる能力は使った方がいいでしょ)」
「(……まぁ、そうだけど)」

急に表情が翳るアーシャ。どうしたのかと顔を覗き込むと、ガッと顔を掴まれる。

「(人の顔を覗き込むものではないわよ。はしたない)」
「(……ふごっ!……それは、失礼しました)」

口元も覆われた状態だったので声はくぐもっていたが、どうにか伝わったようで離される。

「(で、こちらでほとんど処理済みなので、カップリングした方々はとりあえず同居という形で。それ以外の方々は、引き続き宿舎で寝泊まりという形になっているわ)」

さすがのアーシャだ。こちらがお願いしなくても、きちんと手はずが整っている。本当、現金ではあるものの、こういうときは気がきく幼馴染を持って良かったと思う。

「(色々ありがとうございます)」
「(本当よ。もう、埋め合わせはしてもらうからね)」

(埋・め・合・わ・せ)

アルルとのお出かけ以外もやはり何かせねばならぬのか、と少しガッカリする。今度は何をさせられるのか。まぁ、自業自得と言えば自業自得なのだが。

「(とりあえず、1ヶ月後コルジールに使いを出して、それで当人たちの家族やらを呼び寄せるか、どうするかなどの便りを送ればいいかしら)」
「(そうしていただければ、助かります)」

深々とお辞儀をして改めて感謝をすると、頭上から「はぁ」と盛大な溜め息が掛けられる。

「(私がいなかったらどうする気だったのよ)」
「(んんー、アーシャならやってくれると思って?)」
「(たまに急に甘えるんだから。そういうとこ、末っ子気質ね)」

アーシャは意地が悪いが、私のこういう甘えるところには弱い、というのを今更ながら思い出す。普段なかなか甘えないからか、私が甘えるときはとことん甘やかしてくれる。

きっと彼女がひとりっ子で、頼られるという経験が少ない分、頼られることに弱いのだろう。そもそも私を妹として扱っている節があるし、アーシャはアーシャで甘えられたいのかもしれないが、なかなか素直に甘えられないのが現状である。

呆れたように笑ったあと「食事もまだでしょ?用意してあるから食べなさい」と誘われる。

言葉をコルジール語に変えてる辺り、クエリーシェルにもわかるように言ってくれてるのだろう。

なのでクエリーシェルを見れば、毒気を抜かれたのか、いってらっしゃいとばかりに手を振られる。

「貴方は来ないの?」
「私もいいんですか?」
「1人分も2人分もさして変わらないわよ。来るなら来なさい。明日の説明もするから」
「明日の説明……?」

訝しむ表情のクエリーシェルに、そういえば明日の予定を伝え忘れていたことを思い出してサッと視線を逸らす。

だが、その一連の動作はすでに見られていて、「……ステラ様?」と静かに怒りを再燃させてしまって、密かに額を押さえるのだった。
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