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2章【告白編】

56 好き好き好き

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「んふ、……っ、ん、……ぷは、ちょっとケリー様!窒息します……っ」

リーシェの抗議と共に、唇が離れてしまう。

(あぁ、できればもっとキスしていたかったが)

初めて好意を持つ相手とのキスは、今まで感じたことがないほど甘美なものだった。相手がリーシェだからか、彼女とのキスはデザートを食べていると錯覚しそうなほどとても甘く、幸せな心地にしてくれる。

(いかんいかん、自制せねば)

若干、下腹部の己自身が首をもたげかけたのはある意味ご愛嬌だが、確かにこれ以上すると自制心が効かなくなってくる可能性が出てくる。

「すまない、がっつきすぎた」
「……お互い慣れてないのですから。いきなりこんなに長いと、どこで息継ぎすれば良いのかわからなくなります」
「悪い」

まるで覚えたての餓鬼のような行動に、己を恥じる。以前、義母にされたという行為は、恐らくこれ以上だったと思うが、記憶がほぼない以上実質こういった身体的接触は初めてのことだ。

今まで人を避けて触れ合うことなどなかったが、こうしてリーシェと触れ合うだけで欲が沸く。自分の内側から「愛しい」感情が溢れ出してくる。

(こんなことは初めてだ)

「その、……ちょっとずつお互いに慣れていけばいいと思うので、私も慣れるように頑張りますが、いきなりだとつらいです」
「リーシェ……」

(あぁ、なんて可愛らしいのだろうか)

元から愛しく思ってはいたが、心が通じ合った途端にさらに可愛く、美しく見えるのは欲目だろうか。

長く艶めくプラチナに輝く髪、聡明で透き通るような翡翠のような瞳とそれを隠すかのように、長く優美な曲線を描く睫毛。健康的にほどほどに日焼けした肌は滑らかで、上気して赤らむ頬に、ふっくらと艶やかな唇はまた口づけを誘うようだった。

(なんて愛らしいんだ……!)

叫びたいほどの愛が募る。まさか、こんなに自分が人を好きになるとは想像しなかった。

「……あの、1つお願いが」
「何だ?聞けることであれば聞くぞ」

今の私は最高に気分がいいからな、と内心自慢げに答える。それほどまでに、今は幸せの絶頂であった。

「私達が好き合っているということは、おおやけにしないで欲しいのです」
「……なぜだ?」

まさかそんな提案をされるとは思わず、一瞬で上がりきっていたテンションが下がり、目つきが険しくなる。

リーシェは、私とこのような関係になることを望んでいないのだろうか。

すると、私の様子を察したらしいリーシェがすかさず、「ケリー様が思うようなこととは恐らく違くて」と訂正が入る。

「念のため、というか、今後のためです」
「今後のため?」
「まだ、誰が敵かわかってませんから。隙はなるべく作りたくないのです」
「なるほど」

確かに一理ある。先日の一件以来情報統制には細心の注意を払っているが、それでも漏洩している部分があることがあった。

こちらで情報漏洩の把握をしている部分など、恐らく氷山の一角だろうし、ここまで徹底しているのに漏れているとなると内部犯の可能性が高い。

「先日、ロゼットに聞いたのですが、ペルルーシュカ様が毎日訪問されているとか」
「毎日!?」
「えぇ、私も全然知らなくて。要件もあるのかないのか」
「そうだったのか、私も知らなかった」
「さすがに毎日いらっしゃるのは、ちょっと勘繰ってしまいます」

言われてそれもそうだと思う。彼女がリーシェにいくら好意を寄せているとはいえ、毎日訪問するというのは異常である。

(何か別の意図があるのか……?)

「とはいえファーミット家に関しては一度大々的な調査も入っているし、今も密かに密偵をやっているが、これと言って何かあるわけでもないのだ」
「そうなんですね」

ただの杞憂であればよいが、正直彼女の行動や真意が読めない。ただリーシェのことを追いかけ回しているだけならよいのだが、そうでないのなら、一体何を考えているのか。

「うちに何のご用があるのでしょうかね」
「さぁな。金目のものも、特に置いてはないし。重要な書類等々もさして置いてないからな」
「ケリー様、管理できませんからね」

くすくすとリーシェに笑われる。実際に書類仕事は苦手で、書類の管理をしてもらわねば正直何をどこにしまったかわからないレベルだ。

書類関係はニールが主に手伝ってくれるが、ニールがいないと全く管理ができずてんてこ舞いだった。そのフォローをリーシェがしてくれたのだが、水路工事の受諾書と離縁届を一緒くたにして飽きられたのは、さして久しくない。

「まぁ、ペルルーシュカ嬢のことは気には留めておこう。あと、私達の関係も公にしないように努めよう」
「ありがとうございます。あ、でも、身近な方には……秘密を守れる方には言ってもよろしいかと」
「そうか、わかった。ありがとう」

リーシェなりの譲歩に、自分の気持ちを配慮してくれていることが伝わってくる。

「リーシェ、好きだ」
「何回、言うんですか」
「何回でも言う」
「そんなキャラでしたっけ」

くすくすと笑う彼女をまた抱き締める。肌寒かったはずなのに、彼女と触れ合っているせいか暖かい。

「もうそろそろ寝ないと」
「そうだな。……ちなみに、ここで寝ては?」
「ダメです」
「そうか……」

(そりゃ、そうだよな)

未婚の、しかもまだ婚約すらしてない状態で添い寝などと、ダメに決まっているだろう。そもそも、自分の自制心が振り切れることすら考えられる。

ちゅ

思考をフル回転させていて、考えることに集中していたせいか、唇にちょっとだけ触れた感覚に反応が遅れる。ぼんやりとそちらを見ると、リーシェが頬を染めてこちらを見ていた。

「……おやすみのキスを」
「……リーシェ……っ!」

ガバッと感情のままに彼女を押し倒し襲えば、全力で抵抗され、大事なイチモツを踵で思い切り蹴り上げられ、悶絶したのは最早自業自得だった。
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