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1.5章【閑話休題・過去編】
ニール編
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俺は誰からも必要とされていなかった。
飛び抜けて何かができるわけでもなければ、特別才能があるわけでもない。このクレバス家の子爵の長男という肩書きも、ただの重荷に過ぎなかった。
父は先の戦争で武勇を上げたのに対し、息子は……、という評価はいつまでも比較され続けた。
父からも同様に以前は期待度の高さゆえにやいのやいの言われていたものだが、最近ではそれすらもなくなった。
(誰からも期待されていない)
その現実に、打ちひしがれている自分がいた。そんな矢先だった、ヴァンデッダ卿直属の兵として徴用されたのは。
「君がニール・クレバスか」
「はっ!」
「君のお父上には大変世話になった」
「そうですか」
またこいつも父と俺を比較するのか、そう思っていた。
「私は直情型でな、頭に血が上ると一直線に向かってしまって、周りが見えないクセがある」
「はぁ……?」
「ニールは状況判断が得意と聞く、だから君にはぜひとも私のフォローに回ってもらいたい。とても大事な仕事だ、頼まれてくれるだろうか?」
(フォロー……だ、と……?)
初めてのことだった。
誰かに期待されるなど。誰かから重用されるなど。社交辞令かもしれない、だが、彼はそう言うと自然な様子で右手を差し出した。
「私には至らぬことが多々ある。だからその分、ニールには私の右腕として働いていただきたい」
言われ慣れない言葉に戸惑う。だが、本音としては嬉しくてどうしようもないほどであった。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
出された手を握り返す。彼の手はとても大きく、そして剣によってできた豆だろうか、とても自分の手とは違ってごわついている手だった。
(彼の右腕になるのなら、自分も鍛えなければ)
己の軟弱な身体では、どう考えても彼に見合った働きができるとは思えなかった。
考えてみれば、今までなんだかんだと理由をつけては自分にはできない、あいつには敵わないから仕方ない、と自分で自分にレッテルを貼っていたことに気づく。
(なんだ、俺はただ自分の人生から逃げていただけじゃないか)
ヴァンデッダ卿と過ごしてから、今までの生活がガラッと変わった。
彼は意外にもあまり人間が得意ではないようで、侯爵という地位で領主という領地を治める立場だというのに使用人が全くいないという。彼に合わせて、彼の生活を支えながら自分を鍛えるというのは実に充実した日々だった。
(誰かに必要とされることがこんなにも自分の生き甲斐となるなんて、思っても見なかった)
毎日を忙しく過ごし、彼と共に過ごすことで自分の評価はメキメキと上がった。それに対し、父も満足している様子が見て取れて、自分としても大いに満足だった。
(全て、ヴァンデッダ卿のおかげだ)
変わるきっかけになった彼をとても尊敬している。だからこそ彼に見合った働きをしたいと常に思っていた、それなのに。
「今後リーシェにこれからの些事を頼むことにした。今まで本当にありがとう。今後も戦地等々ではよろしく頼む」
自分の居場所が取られたと思った。恐らくヴァンデッダ卿は善意でそう申し出をしてくれたことなどわかっていたが、それでもどうしても納得できなかった。ギリ、と歯噛みする。だが、尊敬する上司に意見することなど到底できなかった。
「わかりました」
(リーシェ、だと?俺のほうがヴァンデッダ様に貢献していたというのに!)
この感情が何かはわからない。だが、憎しみにも憤りにも似た感情を小娘に向けるのには時間はかからなかった。
飛び抜けて何かができるわけでもなければ、特別才能があるわけでもない。このクレバス家の子爵の長男という肩書きも、ただの重荷に過ぎなかった。
父は先の戦争で武勇を上げたのに対し、息子は……、という評価はいつまでも比較され続けた。
父からも同様に以前は期待度の高さゆえにやいのやいの言われていたものだが、最近ではそれすらもなくなった。
(誰からも期待されていない)
その現実に、打ちひしがれている自分がいた。そんな矢先だった、ヴァンデッダ卿直属の兵として徴用されたのは。
「君がニール・クレバスか」
「はっ!」
「君のお父上には大変世話になった」
「そうですか」
またこいつも父と俺を比較するのか、そう思っていた。
「私は直情型でな、頭に血が上ると一直線に向かってしまって、周りが見えないクセがある」
「はぁ……?」
「ニールは状況判断が得意と聞く、だから君にはぜひとも私のフォローに回ってもらいたい。とても大事な仕事だ、頼まれてくれるだろうか?」
(フォロー……だ、と……?)
初めてのことだった。
誰かに期待されるなど。誰かから重用されるなど。社交辞令かもしれない、だが、彼はそう言うと自然な様子で右手を差し出した。
「私には至らぬことが多々ある。だからその分、ニールには私の右腕として働いていただきたい」
言われ慣れない言葉に戸惑う。だが、本音としては嬉しくてどうしようもないほどであった。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
出された手を握り返す。彼の手はとても大きく、そして剣によってできた豆だろうか、とても自分の手とは違ってごわついている手だった。
(彼の右腕になるのなら、自分も鍛えなければ)
己の軟弱な身体では、どう考えても彼に見合った働きができるとは思えなかった。
考えてみれば、今までなんだかんだと理由をつけては自分にはできない、あいつには敵わないから仕方ない、と自分で自分にレッテルを貼っていたことに気づく。
(なんだ、俺はただ自分の人生から逃げていただけじゃないか)
ヴァンデッダ卿と過ごしてから、今までの生活がガラッと変わった。
彼は意外にもあまり人間が得意ではないようで、侯爵という地位で領主という領地を治める立場だというのに使用人が全くいないという。彼に合わせて、彼の生活を支えながら自分を鍛えるというのは実に充実した日々だった。
(誰かに必要とされることがこんなにも自分の生き甲斐となるなんて、思っても見なかった)
毎日を忙しく過ごし、彼と共に過ごすことで自分の評価はメキメキと上がった。それに対し、父も満足している様子が見て取れて、自分としても大いに満足だった。
(全て、ヴァンデッダ卿のおかげだ)
変わるきっかけになった彼をとても尊敬している。だからこそ彼に見合った働きをしたいと常に思っていた、それなのに。
「今後リーシェにこれからの些事を頼むことにした。今まで本当にありがとう。今後も戦地等々ではよろしく頼む」
自分の居場所が取られたと思った。恐らくヴァンデッダ卿は善意でそう申し出をしてくれたことなどわかっていたが、それでもどうしても納得できなかった。ギリ、と歯噛みする。だが、尊敬する上司に意見することなど到底できなかった。
「わかりました」
(リーシェ、だと?俺のほうがヴァンデッダ様に貢献していたというのに!)
この感情が何かはわからない。だが、憎しみにも憤りにも似た感情を小娘に向けるのには時間はかからなかった。
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