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1章【出会い編】
7 風呂上がり
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(いやー、驚いた)
まさか叫ばれるとは思わなくて、咄嗟に耳を押さえることができず、耳がキーンとなってしまった。
(男の人も叫ぶのか。図体がでかいわりに小心者か。いや、そういう人ほど、戦場で強いというし)
リーシェは1人で納得すると、追い出された脱衣所から離れ、廊下で待っていることにした。
(洗い物も済ませたし、あとは寝かしつけるだけ)
いい加減自分もそろそろおねむだ。張り切って片付けやら掃除やらしたせいか、いつにも増して眠いし疲れた。
(領主が寝たら一眠りしよう、うん、そうしよう)
それにしても、あの人は何かと世話を焼かれたがらないきらいがある。何か、トラウマでもあるのだろうか。普通それなりの地位にいる人なら、されるがままの人が多いというのに。
だてに1人暮らしが長いわけではないのだなぁ、と勝手に分析する。
「っ!リーシェ、まだそこにいたのか。もうあとは寝るだけだから先に寝ていろ、疲れているだろう」
「そのままですと御髪が大変なことになりますので、梳かせていただきます」
「そこまでせずともいい」
「ですが、きちんと身なりを整えておきませんと、後々の始末が大変になりますゆえ」
正論で攻めるとぐぬぬとなる領主。
(案外、口は達者でないようだ)
「わかった。寝室に行くぞ」
寝室に向かう彼のあとを追う。
寝室に入るやいなや驚愕している彼に「色々と片付けさせていただきました」と言うと、何とも言いがたい表情でこちらを見る領主。
「随分と散らかっていたはずだが」
「片付けました」
「何の匂いだ」
「物置にポプリが放ってありましたので、そちらを使用しました」
「あぁ、以前姉さんに押し付けられたあれか……」
この領主様には姉がいるらしい。自分の脳内のノートに書き加えておく。
「では、お掛けください」
椅子に座るように促すと、大人しく座るクエリーシェル。
(やはり、座ってても大きい)
湯上りでチュニックにズボンと、ラフな格好になっているため多少の威圧感は消えているが、それでもこの大きな身体はもちろん健在で、一体どうやったらここまで大きくなるのだろう、と純粋に疑問であった。
髪を梳き始めると、普段は梳かないからか、はたまた梳かれる経験が少ないからか、何とも手持ち無沙汰なような様子でいる領主に、とりあえず話題を振ってみる。
「改めまして、雇っていただいてどうもありがとうございます」
「あぁ、元の雇い先には捕り物時の混乱で亡くなったということにしておいてある」
「そうですか、ありがとうございます」
沈黙が流れる。
まぁ、会って間もないのだから仕方ない。私も特別話術が得意というわけでもないから、そのまま無言で髪を梳く。
「いつも何でも1人でこなしているのか?」
「と、言いますと?」
「いや、家の中が綺麗になっているし、布団も干したのであろう?よく1人でここまでこなしたなぁ、と」
「効率的にやれば造作もないことです。以前は人数もいましたので、全て1人でやることはなかなかなかったですけど」
実際、これだけの大きさを1人で切り盛りしたのは初めてである。だが、さすが普段帰宅しない1人暮らし。汚れているのも埃やカビのみで、生活上でできた汚れはほとんどなく、案外掃除は楽だった。
片付けも荷が少ないからか、元に戻せばすぐに片付いたし、下手に家族の人数が多かったり物が多かったりする家よりかは、だいぶ楽だったように思える。
「そうだ、給金等を渡すのを忘れていた。とりあえず手持ちの金は私の外套に入っているから、当分はそれを使ってくれ。それと残りの金は姉が持っているので手配しておく」
「承知致しました。食糧等いくつか買い足したいものがありますので、メモに書いておきますからご起床後にでもお目通しいただけると助かります」
「あぁ、わかった」
だんだんとうつらうつらしている領主の様子を見て、手早く髪梳きを終えると布団へと転がるように促した。
「ん?もう寝るから行っていいぞ?」
「最後の仕上げです」
「仕上げ?」
掛けた布団を、ガバッと勢いよく剥がす。
「?!!!」
焦って混乱している領主をよそに、リーシェは「うつ伏せになってください」とお願いし、訳もわからず従う彼の上に乗り上げる。
「リーシェ?!別にそういうことはしなくとも……!まだ若いのだから、貞操は大事にだな……!!」
「マッサージを致します」
「ま、……は?」
面食らっているクエリーシェルに、リーシェは「凝りが溜まっているようなので」と続けると力いっぱい背を押す。
背骨を首から腰まで押していき、腰の凝り固まった筋を解すようにグッグッと押せば、強張っていた身体から、ゆっくりと力が抜けてくる。
「力加減いかがですか?」
「あぁ、いい」
大きい背中だなぁと思いながら背中と腰を念入りに、続けて太腿から脹脛や足裏などもやっているころには鼾が聞こえるようになった。
「ふぅ、やっと寝た」
無事に寝たのを確認すると、布団を掛けなおして退室する。風呂に行き、風呂掃除をしたあと、外套からお金を抜く。
これだけあれば近々は問題ないだろう、と自分の服の中に入れておく。要るものリストを紙に書き上げ、彼の書斎に置き、とりあえず今朝の仕事は終了である。
「お仕事完了」
まだ部屋を充てがわれてなかったので、恐らく客間だろうところに戻ると、リーシェは置いてあった寝間着に着替え、布団に潜る。
「薬湯にマッサージまでしたら、とうぶんは起きてこないでしょう。ふぁぁ、やっと寝れる」
彼が起きてくる前に洗濯やら買い物やら済ませておかないとな、と思いながら、リーシェはやっと眠りにつくことができたのだった。
まさか叫ばれるとは思わなくて、咄嗟に耳を押さえることができず、耳がキーンとなってしまった。
(男の人も叫ぶのか。図体がでかいわりに小心者か。いや、そういう人ほど、戦場で強いというし)
リーシェは1人で納得すると、追い出された脱衣所から離れ、廊下で待っていることにした。
(洗い物も済ませたし、あとは寝かしつけるだけ)
いい加減自分もそろそろおねむだ。張り切って片付けやら掃除やらしたせいか、いつにも増して眠いし疲れた。
(領主が寝たら一眠りしよう、うん、そうしよう)
それにしても、あの人は何かと世話を焼かれたがらないきらいがある。何か、トラウマでもあるのだろうか。普通それなりの地位にいる人なら、されるがままの人が多いというのに。
だてに1人暮らしが長いわけではないのだなぁ、と勝手に分析する。
「っ!リーシェ、まだそこにいたのか。もうあとは寝るだけだから先に寝ていろ、疲れているだろう」
「そのままですと御髪が大変なことになりますので、梳かせていただきます」
「そこまでせずともいい」
「ですが、きちんと身なりを整えておきませんと、後々の始末が大変になりますゆえ」
正論で攻めるとぐぬぬとなる領主。
(案外、口は達者でないようだ)
「わかった。寝室に行くぞ」
寝室に向かう彼のあとを追う。
寝室に入るやいなや驚愕している彼に「色々と片付けさせていただきました」と言うと、何とも言いがたい表情でこちらを見る領主。
「随分と散らかっていたはずだが」
「片付けました」
「何の匂いだ」
「物置にポプリが放ってありましたので、そちらを使用しました」
「あぁ、以前姉さんに押し付けられたあれか……」
この領主様には姉がいるらしい。自分の脳内のノートに書き加えておく。
「では、お掛けください」
椅子に座るように促すと、大人しく座るクエリーシェル。
(やはり、座ってても大きい)
湯上りでチュニックにズボンと、ラフな格好になっているため多少の威圧感は消えているが、それでもこの大きな身体はもちろん健在で、一体どうやったらここまで大きくなるのだろう、と純粋に疑問であった。
髪を梳き始めると、普段は梳かないからか、はたまた梳かれる経験が少ないからか、何とも手持ち無沙汰なような様子でいる領主に、とりあえず話題を振ってみる。
「改めまして、雇っていただいてどうもありがとうございます」
「あぁ、元の雇い先には捕り物時の混乱で亡くなったということにしておいてある」
「そうですか、ありがとうございます」
沈黙が流れる。
まぁ、会って間もないのだから仕方ない。私も特別話術が得意というわけでもないから、そのまま無言で髪を梳く。
「いつも何でも1人でこなしているのか?」
「と、言いますと?」
「いや、家の中が綺麗になっているし、布団も干したのであろう?よく1人でここまでこなしたなぁ、と」
「効率的にやれば造作もないことです。以前は人数もいましたので、全て1人でやることはなかなかなかったですけど」
実際、これだけの大きさを1人で切り盛りしたのは初めてである。だが、さすが普段帰宅しない1人暮らし。汚れているのも埃やカビのみで、生活上でできた汚れはほとんどなく、案外掃除は楽だった。
片付けも荷が少ないからか、元に戻せばすぐに片付いたし、下手に家族の人数が多かったり物が多かったりする家よりかは、だいぶ楽だったように思える。
「そうだ、給金等を渡すのを忘れていた。とりあえず手持ちの金は私の外套に入っているから、当分はそれを使ってくれ。それと残りの金は姉が持っているので手配しておく」
「承知致しました。食糧等いくつか買い足したいものがありますので、メモに書いておきますからご起床後にでもお目通しいただけると助かります」
「あぁ、わかった」
だんだんとうつらうつらしている領主の様子を見て、手早く髪梳きを終えると布団へと転がるように促した。
「ん?もう寝るから行っていいぞ?」
「最後の仕上げです」
「仕上げ?」
掛けた布団を、ガバッと勢いよく剥がす。
「?!!!」
焦って混乱している領主をよそに、リーシェは「うつ伏せになってください」とお願いし、訳もわからず従う彼の上に乗り上げる。
「リーシェ?!別にそういうことはしなくとも……!まだ若いのだから、貞操は大事にだな……!!」
「マッサージを致します」
「ま、……は?」
面食らっているクエリーシェルに、リーシェは「凝りが溜まっているようなので」と続けると力いっぱい背を押す。
背骨を首から腰まで押していき、腰の凝り固まった筋を解すようにグッグッと押せば、強張っていた身体から、ゆっくりと力が抜けてくる。
「力加減いかがですか?」
「あぁ、いい」
大きい背中だなぁと思いながら背中と腰を念入りに、続けて太腿から脹脛や足裏などもやっているころには鼾が聞こえるようになった。
「ふぅ、やっと寝た」
無事に寝たのを確認すると、布団を掛けなおして退室する。風呂に行き、風呂掃除をしたあと、外套からお金を抜く。
これだけあれば近々は問題ないだろう、と自分の服の中に入れておく。要るものリストを紙に書き上げ、彼の書斎に置き、とりあえず今朝の仕事は終了である。
「お仕事完了」
まだ部屋を充てがわれてなかったので、恐らく客間だろうところに戻ると、リーシェは置いてあった寝間着に着替え、布団に潜る。
「薬湯にマッサージまでしたら、とうぶんは起きてこないでしょう。ふぁぁ、やっと寝れる」
彼が起きてくる前に洗濯やら買い物やら済ませておかないとな、と思いながら、リーシェはやっと眠りにつくことができたのだった。
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