この状況には、訳がある

兎田りん

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真実は一つとは限らない

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「黒のピッチリハイネックから浮かび上がる鎖骨に心動かされちゃい隊のボスにとやかく言われる筋合いはない」
「大分変わったな?」
 黒しか合ってないぞ?なんだその特殊性癖部隊は。キョーシン先生が乗り移ってないか?
「そんないかがわしい部隊があるのか?」
「あってたまるか!隊長はそこを気にしてはダメです!」
 うっかり力強く突っ込んでしまった。だってコレ、即否定入れないとキョーシン先生の性癖で隊長が汚れちゃうじゃない。
「…ん?……元はなんだったか…?」
 言った本人が意味を理解していなかった件。
「軸をぶれさすな」
 大事な所じゃないのか?コナードシリーズのかなり重要な部分だぞ?

 この状況だから、移動しようか。そう言って俺はバルロ君を補講担当へ引き渡した。
「助かります」
「計ったな?」
「バルロ君はしっかり学んで現実を見るのが先だと思うんだよね」
「初等部で学力不足の補講は恥ずかしい事だぞ?」
 バルロ君が「裏切り者め!」と悪あがきするが、俺とバルロ君の間に裏切りが発生する程の関係があるとでも?
 しかもこの状況で味方がいるとでも?満場一致で「バルロ君は補講をしっかり受けて地に足をつけるべき」と思われてるんだよ?瞳を逸らさずに現実を見るべき。
 誤解がないように言っておくが、これは正当な取り引きです。補講を受けてもらいたい学園側と、つきまといはウザいから隔離して欲しい俺との利が一致したから行われただけであり、方法も紛うことなき正規の手順です。
 俺の補講中に追い回されたんだから、リーク元はハッキリしてるでしょ?無警戒についてくるのは、それはそれで心配だよ?
 決してバルロ君とゴルラフ隊長のWボケは俺には手に負えない!無理!と匙を投げた訳では無い。
 ゴネながら連行されるバルロ君を見ながら「ああはなるまい」と改めて心に誓った。

 解放されたからわずかな時間だけでも授業に…と教室に行くと、シェフの劇物に大半の学生がやられて休講になっていた。なんという大惨事。
 若手の先生達もやられたらしい。教える側がやられちゃったら授業無理だよな(納得)。
 だからバルロ君のお迎えが老齢の事務職員だったのか。人手不足の理由が酷いよね。
 学食、営業停止レベルでは?
「暫くは大人しいが、またやるぞ」
 隊長、それは経験談ですか?
「クビにするべきでしょう」
 こんなヤバい事態を繰り返すなんて…味以前の問題ですよね?総入れ替えして消毒もしましょうよ。
「入れ替えても起こるんだよなぁ…」
「呪われてます?」
 シェフ入れ替えても起こるということは、厨房に何か憑いている可能性が微レ存。
 剣と魔法の世界なら、呪いや悪魔が存在してもおかしくないもんね。
 学園って、その辺の対策しっかりしてるもんじゃないの?未来の王侯貴族が通う場所だよ?

「魔法で吸えないのか?」
 ゴルラフ隊長が純粋な眼差しで問うてくる。……吸う?………呪いを…?祓うとかじゃなくて?
「……どうやって?」
 やった事ないというか、できるのかどうかも判らないですが?
 隊長は浄化の事を思い出しながら言っているのだろうと予想するが、言葉のチョイスがなんかおかしい。
「なんかこう、パッとやってギューンしてポン!…とか?」
「どういうことだってばよ」
 ふわっとしすぎでは?
「俺にも解らん」
 無意識にボケ散らかす隊長と、想定外の事態(隊長のボケ化)に困惑する俺。答えなど出るはずがない。
「アスベル君のお見舞いに行きましょう」
「そうだな」
 考えるのをやめるのも、時には大切なことだ。

 医務室には新規の患者が次々と運ばれてきている。アウト寄りのアウトレベルの食テロだよね。
「アスベル君は…」
 部屋の中央少し奥。メイナース先生とアスベル君が運ばれてくる学生を仕分けしているのが見える。よかった。回復したのか。
 他にも学生が数名、慌ただしく動く先生方の手伝いをしている。
「俺たちも手伝いましょう」
「そうだな」
 隊長には動けない学生の運搬(姫抱っこ)をお任せして、俺は必要な道具の補充や汚れ物の処理をする事に。
 治療云々はプロにお任せするしかないし、病人の清拭や周囲の清掃なんかは聖協会の奉仕作業で経験済だから邪魔にならない程度には動けているはず。
 自分が汚れたら洗うか洗浄魔法かければいいだけだし、できる善行はやっておいて損はない。悪行してないのに被せてくる奴もいるしな。好感度は大事だとゲームでも学んだ。
 まあ…アスベル君がやられなければ気づかなかったことでもあるし、アスベル君が手伝っているなら友達である俺も一緒にやるべきでしょう。これぞ友情パワー。

「君たちのおかげで大きなトラブルもなく場が治まったよ。ありがとう」
 新規の患者が減り、処置済の学生を「心のケアも大切ですわ」とキョーシン先生が別室に連れ立った頃。医務室の上役であろう先生が「お礼…には足りないが、お茶でもどうかな?」と声を掛けてくれた。アスベル君や手伝ってくれた学生たちも一緒だ。
「この度は…大変でしたね…」
 まさか学食がテロをやらかすとは…学園は安全だと思い込んでたわぁー…
 ……おっ、このクッキー美味いな。どこで買えるか教えてもらおう。
「いやはや、久々の劇物散布で学生さんの手を煩わせてしまうなんて…申し訳ないね」
 恐縮仕切りなオールバックメガネのナイスミドルは学園医務局の局長補佐、イオン・カーロゥ先生。学食傍に設置されている医務室(今俺らがいる場所。初等部や高等部のメイン校舎にも医務室がある)のトップだ。
「本来ならうちの子たち常駐保健医だけで回せなくてはならないのに、この程度で混雑させてしまうとは。うん。もう一度鍛え直しかなぁ」
 自身の後ろに流したマリンブルーの髪を撫でつけるように触れながら、カーロゥ先生がボヤく。髪には所々薄い色が混ざり、グラデーションの様に見える。白髪だろうか。これはこれでイケおじ度が凄いな。
「…御館様…今、鍛えると、申されたか」
 カーロゥ先生のボヤきが聞こえてしまったのだろう。メイナース先生が問うてくる。声、少し震えてないか?
「言ったね。近いうちに強化プログラム配布するから、伝えておくように」
「……………御意」
 うっわぁ…メイナース先生が明らかに萎んだ。何やる気なんだろう?
「騎士科の同行は可能ですか?」
 あっ、ゴルラフ隊長が食いついてきた。
「もちろんだとも。頼りにさせてもらおうかな」
 和やかな会話に見えるが、医務室内(主に学園保健医の皆さん)の空気が重くなったのを感じる。

 後に「カーロゥ先生のスパルタトレーニング」の素晴らしさをゴルラフ隊長が嬉々として語り、俺とアスベル君が「保健医研修ですよね?」と確認するミニイベントが発生した。「スパルタ」が付く時点で既におかしい。
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