転生神子は『タネを撒く人』

香月ミツほ

文字の大きさ
1 / 29

1.お目覚めはふかふかベッド

しおりを挟む
おれが目を覚ましたのは深い森の中。大きな木のうねうねとした板みたいな根っこに守られたような場所に座っていた。

ふかふかの苔もすべすべな板根も、全裸でもどこも傷つかない優しさ。……なぜに全裸?

手足を見れば身体は大人。
なのに自分が何者なのか思い出せない。うーん……?

しばらくぼんやりしていたら喉の渇きを覚え、空腹も感じる。森の中なら果物くらい見つかるだろうか?

あたりを意識すればすぐに良い香りに気づく。甘い果物の香り。香りを辿ればアケビによく似た果実が、大樹に絡みついた蔓にたわわに実っていた。

食べられるかな?

美味しそうなアケビもどきを前に躊躇していると、リス猿のような小動物がその実を採って食べ始めた。

瑞々しい果汁が滴り落ちるのを見ると喉の渇きが増す。食い意地に負けて果実に手を伸ばした。

美味しい!!
アケビってばーちゃんが周りの皮を料理してたけど苦くて美味しくなくて、中は甘いと言われても警戒して食べなかったんだよなぁ。

こんなに美味しかったのかな?

割れた外皮の中に行儀よく並ぶ3つの丸い粒は皮を剥いた巨峰っぽい。甘酸っぱくて爽やかで、実1つで空腹も喉の渇きも解消された。

さて、これからどうしよう?

人が来たら恥ずかしいけど、ここにひとりぼっちではもっと困る。幸い、石畳の道が見えるので人の住む場所へ辿り着くことはできそうだ。

おれは助けを求めるため、お弁当代わりにアケビもどきを5つ採って道を歩き出した。

観光地だったら恥ずかしいなぁ。
とはいえ、あまり人が来たような気配はない。




……誰も見ていないよな?
良いよな?

尿意を覚えたおれは道のそばの大きな木の陰で立ちションをした。すっきり!

体感的に3時間ほど歩くと、綺麗な泉に出た。斜面の岩の隙間から流れ出る清らかな水。木漏れ日に煌めく水面は幻想的なほど美しかった。

そして全裸でも寒くない気温の中、3時間も歩いたら暑くなるし汗もかく。水浴びしたい。

でもなぁ。

ここまで綺麗だと神聖視されている可能性があり、入ったら怒られるかも知れない。

……顔洗うくらいなら大丈夫かな?

泉のふちに跪き、手で水を掬うと滝で感じるような爽やかな香りを感じた。顔を洗ったついでに水を飲んでみた。

水の味なのに甘い気がする!!

甘露!

水筒があれば持っていくのに、残念だ。

美味しい水をゴクゴク飲んで一休みしてまたしばらく歩く。2時間くらい歩いた所で空腹を覚えた。アケビもどきの出番である。これにも3粒入っていたのでそう言う植物なのだろう。美味しいし、元気が出る。

そしてさらに歩く事1時間、ようやく森を抜けた。


随分奥まった所に居たんだなぁ。
それにしても自分が何者で、なぜあんな所に居たのか、まるで思い出せない。不思議だ。

開けた所に出ると全裸は心許ない。森は終わると言うのに全裸のため進めない。困った。

あたりを見回し、見つけた大きな楕円形の葉を触ってみると少し硬い。思案の末、丸い石を見つけて石畳の上で叩いてみたら布のように柔らかくなった。叩いているうちに汁が手についたけどかぶれたりしなかったので意を決して腰に巻き、蔓で縛った。

……超ミニスカ状態で、恥ずかしい所が見えそうで心許ない。葉の向きを変え、足の間を通して前後で縛ると気持ちが落ち着いた。

夕闇迫る森の外。
少し離れた所に煙が見えた。

人がいる!
人だよね?
野火とかだったら困るなぁ。
怖い人も困るけど。

警戒して森の端をこそこそ進み、近づくと焚き火に照らされた2人の人間が見えた。


「神託は間違いないんだな」
「間違いありません。今日明日中に姿を現わすそうです」
「そうか。だが何も知らない神子が森の外まで辿り着けるのか……」
「そのための道です。あの石畳の道は神が愛し子のために作りたもうたと伝えられています」

え?
あの道、人工物じゃないの?
石の形は自然だったけど平らで、道は直線だったよ? 本当の事なら、神さま……ありがとうございます!!

助かりました。

……勘だけど、この人達は悪い人じゃなさそうだな。綺麗な人はなんとなく神官さんぽい。もう1人は騎士様か何かかな? 遠目にも筋骨隆々なのが見て取れる。

うん、助けを求めよう。

そう思ったのにふと現在の服(?)を思い出し、恥ずかしくなった。いっそ全裸の方がマシかもしれない。

悩んだ末に葉っぱパンツを脱ぎ、ついでに小用を足して布のように柔らかくなった葉で身体を隠して2人に声をかけた。タオルで身体の前面を隠す、銭湯スタイルだ。

「あのぅ……、助けてもらえませんか?」
「……っ!」
「あぁ……、神子様。ようこそこの世界へ」
「え……、神子?」

さっき話していた神子?
おれが???

「人違いでは……?」
「この森で肌を晒せる人間は神子様だけです。肌を晒したまま踏み込めば……このように」
「ひぃっ!! やめっ! 分かったから無理しないで下さい!!」

おれがいた森の境目に美人さんが手を差し込むと白く滑らかな皮膚に無数の傷ができて血が流れた。怖いよ!

美人さんの手が淡く光り、傷が消えていく。魔法か!!

「神子様、お召し物をどうぞ」
「え、あっ!! ありがとうございます」

……服を手渡してくれると思ったのに男前騎士様は大きな布を広げるだけ。どうしたら良いんだろう?

「失礼いたします」

騎士様に右手を上げられ、二つ折りの大きな布を脇の下から左肩に持っていってブローチで留める。右腕を斜めに降ろされて右肩にもブローチを留め、左手を少し持ち上げられて腰にはベルト。裾を引きずらないようにベルトの上部分を引っ張り出して調節する。

完成。

……少し重ねただけの左脇。風が吹いたら丸見えになりそうな不安はあるが、2人が満足げに頷いてるし全裸より遥かにマシなので贅沢は言わない。あ、履物もあるのね。

肌触りの良い服は丸見えの不安以外は着心地が良かった。

「さぁ、お食事に致しましょう」

おれが服を着せてもらっている間に神官さんが用意してくれていたスープと炙り肉。テーブルもあって落ち着いて食べられる。アケビもどきでもお腹は膨れるけど、温かい食事はほっとする。

「ここでは満足な食事が用意できず申し訳ありません」
「美味しいですよ?」

温かい食事はそれだけでもご馳走だ!

そう言えばアケビもどき、デザートにどうかな?

あれ?

えっと……

あった!!

隠れてたあたりの木の枝に蔓を引っ掛けたんだ。

「これ、美味しいんですがいかがですか?」
「こっ! これは!!」
「アンブロシアの実……!!」
「あ、採ったら不味かったでしょうか?」

すでに2つ食べちゃったけど。
でもいっぱい生ってたよ?

「神子様のお心のままで良いのです。ですがこれは万能薬の素材になります。我々が口にするなど畏れ多くて……」
「固いことを。神子様、私がいただいても?」
「はい!」

丸ごと渡し、騎士様が中の粒を取り出そうとしたけど指が太くて入らない。皮、固かったっけ?

少しの間見てたけど、残念そうに諦めようとしてたので思いついて一粒摘んで取り出して食べさせてあげた。

「!!」
「サバール……、羨ましい……!!」
「なら神官さんもどうぞ」

遠慮する暇を与えず、口元に差し出すと、戸惑いながらも口を開けた。

「美味しいですか?」
「は……、はい……」

わぁ、美人が目を潤ませてる。
夜でなければ頬染めてるのが見られたんじゃないかと想像して嬉しくなった。

あれ?
そう言えば光源が焚き火だけじゃない?

改めて周りを見回せばテントと焚き火、食事をしているテーブルを含めたある程度の場所がぼんやりと明るい。間接照明くらいの明るさだ。

「この明かりは魔法ですか?」
「そうです。光の精霊に呼びかけて明かりを分けてもらっています」
「精霊? 魔法!?」
「神子様はあまり馴染みがないのですか?」
「……気がついたらこの森にいて、その前の事はあまり思い出せないんですけど……。でも魔法や精霊は何となくワクワクします!」

魔法や精霊の話は長くなるので後ほど、と言われてテントに誘導された。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした

リリーブルー
BL
「しごとより、いのち」厚労省の過労死等防止対策のスローガンです。過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ。この小説の主人公は、仕事依存で過労死し異世界転生します。  仕事依存だった主人公(20代社畜)は、過労で倒れた拍子に異世界へ転生。目を覚ますと、そこは剣と魔法の世界——。愛読していた小説のラスボス貴族、すなわち原作主人公の宿敵(ライバル)レオナルト公爵に仕える側近の美青年貴族・シリル(20代)になっていた!  原作小説では悪役のレオナルト公爵。でも主人公はレオナルトに感情移入して読んでおり彼が推しだった! なので嬉しい!  だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。 「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」  死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?  原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に! 見どころ ・転生 ・主従  ・推しである原作悪役に溺愛される ・前世の経験と知識を活かす ・政治的な駆け引きとバトル要素(少し) ・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程) ・黒猫もふもふ 番外編では。 ・もふもふ獣人化 ・切ない裏側 ・少年時代 などなど 最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

【本編完結】最強魔導騎士は、騎士団長に頭を撫でて欲しい【番外編あり】

ゆらり
BL
 帝国の侵略から国境を守る、レゲムアーク皇国第一魔導騎士団の駐屯地に派遣された、新人の魔導騎士ネウクレア。  着任当日に勃発した砲撃防衛戦で、彼は敵の砲撃部隊を単独で壊滅に追いやった。  凄まじい能力を持つ彼を部下として迎え入れた騎士団長セディウスは、研究機関育ちであるネウクレアの独特な言動に戸惑いながらも、全身鎧の下に隠された……どこか歪ではあるが、純粋無垢であどけない姿に触れたことで、彼に対して強い庇護欲を抱いてしまう。  撫でて、抱きしめて、甘やかしたい。  帝国との全面戦争が迫るなか、ネウクレアへの深い想いと、皇国の守護者たる騎士としての責務の間で、セディウスは葛藤する。  独身なのに父性強めな騎士団長×不憫な生い立ちで情緒薄めな甘えたがり魔導騎士+仲が良すぎる副官コンビ。  甘いだけじゃない、骨太文体でお送りする軍記物BL小説です。番外は日常エピソード中心。ややダーク・ファンタジー寄り。  ※ぼかしなし、本当の意味で全年齢向け。 ★お気に入りやいいね、エールをありがとうございます! お気に召しましたらぜひポチリとお願いします。凄く励みになります!

記憶を失くしたはずの元夫が、どうか自分と結婚してくれと求婚してくるのですが。

鷲井戸リミカ
BL
メルヴィンは夫レスターと結婚し幸せの絶頂にいた。しかしレスターが勇者に選ばれ、魔王討伐の旅に出る。やがて勇者レスターが魔王を討ち取ったものの、メルヴィンは夫が自分と離婚し、聖女との再婚を望んでいると知らされる。 死を望まれたメルヴィンだったが、不思議な魔石の力により脱出に成功する。国境を越え、小さな町で暮らし始めたメルヴィン。ある日、ならず者に絡まれたメルヴィンを助けてくれたのは、元夫だった。なんと彼は記憶を失くしているらしい。 君を幸せにしたいと求婚され、メルヴィンの心は揺れる。しかし、メルヴィンは元夫がとある目的のために自分に近づいたのだと知り、慌てて逃げ出そうとするが……。 ハッピーエンドです。 この作品は他サイトにも投稿しております。

聖女召喚の巻き添えで喚ばれた「オマケ」の男子高校生ですが、魔王様の「抱き枕」として重宝されています

八百屋 成美
BL
聖女召喚に巻き込まれて異世界に来た主人公。聖女は優遇されるが、魔力のない主人公は城から追い出され、魔の森へ捨てられる。 そこで出会ったのは、強大な魔力ゆえに不眠症に悩む魔王。なぜか主人公の「匂い」や「体温」だけが魔王を安眠させることができると判明し、魔王城で「生きた抱き枕」として飼われることになる。

隊長さんとボク

ばたかっぷ
BL
ボクの名前はエナ。 エドリアーリアナ国の守護神獣だけど、斑色の毛並みのボクはいつもひとりぼっち。 そんなボクの前に現れたのは優しい隊長さんだった――。 王候騎士団隊長さんが大好きな小動物が頑張る、なんちゃってファンタジーです。 きゅ~きゅ~鳴くもふもふな小動物とそのもふもふを愛でる隊長さんで構成されています。 えろ皆無らぶ成分も極小ですσ(^◇^;)本格ファンタジーをお求めの方は回れ右でお願いします~m(_ _)m

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

処理中です...