転生神子は『タネを撒く人』

香月ミツほ

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2.植物人間……?

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神官さんの説明によると、神子とは、どこか違う世界で清らかなまま亡くなった魂が神樹に呼び寄せられてこの世界に生まれるらしい。以前の記憶はあったりなかったり。つまり生まれ変わりか。

……大人だけど?

この世界では人間は生命樹から生まれるので未成熟なうちは木に守られていて出てこないらしい。16歳未満の子供はいないのか。

そうか、おれはキヨラカなまま死んでここに呼ばれた神子なのか。

……神子って何したら良いの?

「御心のまま、お好きに過ごしていただきたいところですが現在、この世界は神の恵みの不足に喘いでおります。不足を補えるのは神子様だけ」
「できる範囲で禊と祈りを。それと、年に2回の太陽を祀る極日祭きょくじつさいで、神子の席に半日ほど座って欲しいんだ」
「お嫌でなければ月に1度の麗月祭でも」
「お仕事! 頑張ります!!」

できそうな内容で良かった!
自分が信仰してる訳でもない神様に祈るなんて不謹慎だろうけど、みんなが幸せになれますように、って祈るだけならバチも当たらないだろう。

テントに入れてもらい、ブローチが危ないからと服を脱がされ、毛布(?)に包まると歩き疲れていたおれはすぐに眠りに落ちた。

神官さんと騎士様は交代で見張りをしてくれていたらしい。

ありがとうございます。




スッキリ目覚めて最初に見たのは男前な騎士様のどアップ。薄緑のふわふわした短髪で褐色の肌、真ん中にムーンストーンのついた銀色の額飾り。
なんてファンタジー! 眼福です。

……じゃなくて!!

「すみません! 寝過ごしました?」
「いいや、まだ早い。もう少し眠っていても構わないぞ?」
「いえ、その……、じゅうぶんスッキリしたので二度寝は不要です」
「なんだもっと寝顔を見たかったんだがな」
「やめて下さい!!」

ヨダレ垂れてるし、目やに付いてるし、絶対間抜けな顔してたはず!

……って、騎士様、寝てたよね?

「神子様、おはようございます。入ってもよろしいでしょうか?」
「はっ、はい!」

おれのテントじゃないんだからおれに聞かなくても良いのに、神官さんは丁寧だ。

神官さんの顎のラインと同じ長さの銀髪は内巻きで、白い肌に緑の瞳。騎士様とお揃いの額飾りをつけている。中性的な美人さん。

「サバール、貴殿の態度は神子様に対して馴れ馴れしい。改めなさい」
「神子様が気にしていないんだから構わんだろう。余計な世話だ」
「言い出せないだけだろう」
「あのあの! おれは気になりません! バカにされるのでなければ、むしろ砕けた感じの方が嬉しいです!」
「だとさ」

あぁ、これじゃ神官さんの立場が!!

「おれは自分の名前を覚えていないので名乗る事ができませんが、神官さんのお名前をお伺いしてもよろしいですか?」
「はっ! 失礼いたしました。私、聖神官のアルシャーブと申します」
「アルシャーブさんですね。聖神官さんにはこれからずっとお世話になれるのでしょうか?」
「はい! 神子様のお世話をさせていただけるのは神に選ばれた聖神官と聖騎士のみです。どうぞよろしくお願いいたします」

神子って言うくらいだからきっと神官さんがお世話してくれるんだろうな、と期待したけどその通りで嬉しい。刷り込みかな? でも神子を甘やかしていそうな神様に選ばれたのならきっと良い人だな。

「騎士様のお名前は?」
「聖騎士のサバールだ。なぜアルシャーブが神官『さん』でオレは騎士『様』なんだ?」
「……なぜでしょうか?」

何となくそっちの方がしっくりしただけなのではっきりとした理由は分からない。こちらも名前+さん呼びを希望されたのでそう呼ぶ事にした。

朝食をいただき、荷物をまとめて出発した。昨日と同じ服装ながら歩きやすいように少し丈を短くしてもらった。そして繊細な作りの金の額飾りをつけられた。

神子のしるしを保護するとかなんとか。よく分からないけど、邪魔でもないからされるがままです。

「申し訳ないのですが、この森に近づくと動物は指示を聞かなくなるので3時間ほど歩いた所にある町まで歩いていただきます。そこで小神殿に赴き、休息の後、馬車で大神殿を目指します」

アルシャーブさんが恐縮しながら説明してくれた。別に歩くの嫌じゃないよ。

大きな荷物はサバールさんが持ってくれて、アルシャーブさんは普通のリュックくらいの荷物を持って、おれは手ぶら。

……申し訳ないけど荷物を入れる袋もないし、持ち物もないし、持ったら歩くのが遅くなるかも知れないので甘えることにした。

出発前に森に隠れて用を足し、元気に出発!!



……喉、渇いた。
水筒あるかな? あるよね? わがままにならないよね?

意を決して喉が渇いたと告げると、サバールさんがニヤリと笑った。はい?

「じゃ、たっぷり飲めよ?」
「んんんっ!?」

突然の濃厚な口づけに戸惑い、されるがままに流し込まれた唾液を嚥下した。

「……? 爽やかな香り……?」
「オレは体内に水分を多く含んでいるからな。いつでも言ってくれ」

体内に水分を多く含む?
どう言う事だろうか。

「神子様はこことは違う世界からいらしたのですから戸惑う事でしょう。我々は植物です。多肉植物の特徴を持つサバール、薬草の特徴を持つ私、毒のある人間や鋭い棘を持つ者は魔獣退治を生業にしています」

今までの神子達の多くが動物や魚類、昆虫から進化した前世を持っていたらしく、分かりやすく説明してくれた。

サバールさんは飲食をしなくても長い期間活動する事ができる上に攻撃力も高いらしい。『サボテン』と言う言葉が浮かんだけれど、姿形は浮かんでこなかった。

水分補給をしてから1時間ほど経った頃、もよおしてきた。2人は排泄しないの? 美形は排泄しないってやつ?

困った……。

困惑しながら歩けば速度も落ち、様子も変わるから2人に気づかれてしまう。こちらに来てからトイレが近い気がするんだけど、生まれたばかりだからだろうか?

「もよおされたのですか?」
「手伝いが必要か?」
「手伝いは要りません! 向こうを向いていて下さい!!」
「「御意」」

この辺りは草原で隠れる場所がない。しかも地面は固そうで立ちションしたら跳ねると思われる。

仕方がないので女の子の様に裾を捲り上げてしゃがみ、排泄した。

地面はすぐに水気を吸い込み、濡れた草はあるものの水溜りにはなっていない。大きい方でなくて良かった!

「お待たせしてすみません。行きましょう」
「休憩はしなくてよろしいのですか?」
「もう平気です」

トイレ休憩はトイレが済んだら終わりだよね?

それから更に歩く事1時間。
生垣に囲まれた町に辿り着いた。おれの肩までの高さがある生垣は薔薇だよ! 棘が獣の侵入を防いでくれるんだって。

門番さんに拝まれたけどアルシャーブさんとサバールさんがいるから神子だ、って気づいたのかな?

「神子様には額に虹の雫と呼ばれる印が現れます」
「虹の雫……」

額飾りか!
と思ったけど、額飾りの真ん中が丸く空いていて、額のその場所に何かつるりとした物が付いている。後で鏡を見せてもらおう。

そう言えばアルシャーブさんとサバールさんも額飾りの真ん中にムーンストーンみたいなものが付いてる。あれ、もしかして飾りじゃなくておでこにくっついてるの?

「オレ達のは神子に仕える者の証で、月の雫と呼ばれる。月は太陽の愛し子にして伴侶だからな」
「……でも神子のは太陽じゃなくて虹なんですか?」
「虹は太陽が地上に降りた時の姿だと言われていますので」

あぁ、神様の姿の1つ、って事か。

門から神殿まではすぐだった。
裏口と言うか裏門。神子を速やかに休ませ、装束を整えてお披露目するための神殿だからだ。

……トイレが小用しかないんだけど。

今は良いけど大きい方したくなったらどうするんだろう?他の場所にあるのかな?

それにしても使われた形跡がない程きれいにしてある。すごい!

小神殿長に恭しく扱われ、もてなされて緊張したけど、2人がずっとそばにいてくれたから心強かった。

昼食を食べて休憩した後で、少しだけお務めがあると言われた。

嫌なことでなければ、何でもいいよ。

そのお務めがこんなに嬉しいものだったなんて!!

神子、最高だな!!
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